マネジメント

-- ご覧になって、どういう感想を持たれました。

稲盛 東京本社というのは木造なんですが、そこで皆一所懸命になって働いていました。聞いてみると、経営危機になってこの10年間というもの、たくさんの人間が辞めてしまって、残っているのはよほどカメラが好きな連中か、もしくは無能な人間かという状態。

稲盛和夫-- 大体気の利いた人間というのは、船が沈没し始めると、ネズミではないけど逃げてしまいますからね。

稲盛 岡谷工場も東京と同じで、夜遅くまで働いている。普通、カメラの生産というのは座ってやるんですが、ここでは皆立って仕事をしている。その姿に非常に感銘を受けましたね。

-- それにしても一般に業務提携だとか支援という場合、まずある程度の株を持って、よければもっと先へ進み、悪ければ手を引くという形です。しかし、稲盛さんは思い切って合併してしまった。

稲盛 ヤシカが言うように、日商岩井の株を5%ぐらい持って支援するということも、考えてはみたんです。確かに5%ぐらい持つのは、一見紳士的なんです。しかし、それで立て直しがうまくいったとしても、95%のあとの株を持っている人が喜ぶだけ。逆に再建失敗の場合には、5%ぐらいの支援しかしていなかったから、うまくいかなかったと言われかねない。やっぱり本当の親切というのは、乗るかそるか、もう後に引けない状態にこちらを追い込んでやってあげることだと考えたんです。

-- いったん合併したら、あれは間違いでしたなどと逃げられませんからね。

稲盛 それに本社と工場を見て、このまま放って置いたら、ヤシカ社員の中で、本当にカメラが好きでヤシカを愛している人たちまでが辞めてしまうかもしれない。その時は、もうこの会社はダメだ。今、誰かがきて将来に希望を持たしてあげれば、よくなる可能性がないわけではない。それは今しかない。

-- それには株を5%ぐらい持っても、決してうまくいかないと考えたわけですね。

稲盛 ええ。それで「もし〝結婚〟しようという気があるなら、してもいいよ」と、私は言ったんです。新聞、雑誌には「稲盛和夫は強引な男で、向こうがその気でなかったのに迫った」というふうに書かれたけど、本当はこれが一番人間らしいやり方だと思うんです。10月1日からは同じ会社になります。そうすると全責任は私にかかってくるわけです。もういい加減にはできない。やっぱりこういうものは中途半端に支援したんでは、結果的には不親切になってしまう。

-- その決断を下した瞬間、稲盛さんの心に仏教の慈悲というような気持ちが湧いた気がしてならないんです。単なる合理主義ではなくて……。

稲盛 そのとおりです。もう何の合理性も勝算もないんです。ですから、ヤシカとの合併も、当初は防ぐつもりだったんです。それが、工場、本社を見た途端、ムラムラと同情心が湧いてきましてね。あれが命取りだったかもしれません(笑)。

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