マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

インターネット広告によるパブリシティ権侵害の事例

 

 広告は、企業の営業上、非常に重要な活動の1つです。そのため、各企業は創意工夫を凝らし、需要者の印象に残るような広告活動を展開しています。

 著名人の起用はそうした創意工夫の代表的な1つですが、この手法を採用するうえでは、「パブリシティ権」(顧客誘引力)に対する細心の注意と配慮が必須となります。

 そこで今回は、ある企業と有名女性タレントが法廷で争った実例を基に、パブリシティ権と向き合う際のポイントについて解説します。

【事例】

 有名女性タレントのAさんは、2004年に美容整形外科コムロと広告出演契約を締結。コムロの広告における自らの氏名、および肖像の使用を許諾しました。契約料は年間126万円。広告の範囲は「TVCM、ラジオ宣伝、雑誌広告、ポスター、チラシ、インターネット広告など、すべての広告物」と定められていました。

 実際、Aさんはコムロの広告に出演。インターネット広告では、Aさんの顔写真とともに「顔のシワがなくなるだけで、人生が明るくなるんだってこと、実感しました。」とのコメントや、「Aさんがヒアルロン酸注入法でシワ取りしたことがテレビや週刊誌で当時、話題になりました。現在も定期的に来院されております。」といった文言が記載されていました。

 もっとも、インターネット以外の広告は雑誌や新聞折り込みチラシが少しあっただけで、ほとんどの広告はインターネット上のものでした。

 その後、コムロを経営していた医療法人社団が、経営悪化を理由にコムロの経営から退くこととなり、代わりに株式会社メディコアが、経営を受け継ぎ、コムロのホームページの管理運営業務も引き継ぎました。

 ところが、メディコア社は、Aさんの広告出演契約が06年3月末で終了することを知らず、Aさんから掲載中止を求める書面が届くまでの670日もの間、管理運営するホームページ上でAさんの氏名と肖像を使用した広告を掲載し続けていたのです。Aさんは、自分の氏名、および肖像を無断使用されたことによりパブリシティ権が侵害されたとして、670日分に相当する契約料相当額と慰謝料の合計600万円余を支払うよう求め、メディコア社に対して訴えを起こしたのです。

 

事業引継ぎの際にはパブリシティ権にも十分な調査を

 

【解説】

 コムロ事件の第1審では、Aさんに対する145万円余の支払いを命じる判決が下されましたが、Aさんは不服として控訴。第2審では、メディコア社に223万円余の支払いを命じる判決が下されました。この判決の主な理由として挙げられるのは、次の2点です。

 

(1)コムロの広告の態様は、インターネットによる広告の占める比重が総じて大きい。

(2)メディコア社は、ホームページにAさんが掲載されていることを知っていた。したがって、引き継いだ契約内容を調査すれば、Aさんから掲載中止の要求が届く前に中止することができた。

 

 メディコア社が使用していたAさん起用の広告はホームページ上(インターネット上)のものだけです。また、そもそもAさんを起用したコムロの広告も、インターネット上での展開がほとんどでした。

 第2審では、その点を「(1)」のように指摘・評価し、Aさんの顧客誘引力はインターネット上だけでも十分に発揮されていたと判断。Aさんへの支払額を第1審よりアップさせたのです。

 一方、「(2)」の指摘は、企業にとってより注意すべきポイントでしょう。この指摘が示唆するのは、他社から事業を受け継ぐ際のデューデリジェンス--投資対象(事業)の実体・リスクの多面的調査--の大切さです。

 実際、メディコア社が契約内容を事前に調査していれば、Aさんへの支払いはもっと少なくて済んだでしょうし、事件自体が起こらなかった可能性も高いのです。

 

曖昧な「パブリシティ権侵害」の基準

 

 コムロ事件における第2審判決の時点では、パブリシティ権をめぐる議論は未成熟でした。そんな中、12年2月、ある事件の裁判の中で最高裁が「パブリシティ権」を「人の氏名、肖像等が有する商品の販売等を促進する顧客吸引力を排他的に利用する権利」と定義する判決を言い渡したのです。この判決以降、業界ではパブリシティ権に対する注目度が高まっています。

 とはいえ、「いかなる場合に、法的なパブリシティ権侵害が認められるのか」という重要な点に関しては、依然として不明確なままです。先の判決を下した最高裁も、この点についは必要以上に踏み込んでいません。この基準が明確になるには、事例のさらなる積み重ねが必要なようです。

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