政治・経済

 2009年の政権交代で野党転落後に公明党代表に就任した山口那津男氏。3年余の野党暮らしを経て12年、自民党とともに政権復帰を果たした功労者である。連立与党の代表を務める山口那津男氏に徳川宗家19代の政治評論家、徳川家広氏が鋭くせまる。

 ソフトで丁寧な語り口ながら、山口氏の回答は的確でかつ遺漏がない。お陰で、集団的自衛権の議論についても、一見、隔たりのありそうな安倍晋三内閣における公明党の役割について、当方の知見も深まったように思う。後半では少し角度を変えて、同氏の「駆け出し時代」について尋ねるところから入っていきたい。 

山口那津男氏(公明党代表)×徳川家広氏(政治経済評論家)ーー公明党との出会い

山口那津男

山口那津男(やまぐち・なつお)
1952年生まれ。茨城県出身。東京大学法学部卒業後、弁護士を経て90年、公明党公認で衆議院初当選。細川内閣では防衛政務次官を務める。新進党副幹事長、新党平和を経て公明党再結成に参加。2001年参議院に鞍替え当選し、参院国会対策委員長、党政調会長を歴任。09年、野党転落後公明党代表に就任。現在参議院3期目(衆議院2期)。

德川 高校生の頃から、法律家を目指していたのでしょうか。

山口 そういう気持ちは、実はなかったんですね。われわれの頃は大学紛争が起こり、当時の高校生が抱くような人生コースというようなものが全部、崩壊していく感じでした。大学に入ったものの、半年くらいバリケード封鎖で講義なしで、内ゲバがどんどん起こって同級生に亡くなる人まで出る悲惨な時代でした。そんな中で、何人かの司法界の先輩と巡り合う機会がありまして、むしろ日本が曲がり角だからこそ、日本を立て直すところに力を注いだらどうかとアドバイスを頂きました。

 確かに法曹資格を持つことは、かなり独立性の高い仕事、しかも法律という応用の広い「武器」を持つことになります。また、世の中には法律的な問題で困っている人も、社会問題化する場面も多い。そこにやりがいを感じて、司法試験を受けてみようとなったわけです。

德川 無事に弁護士になって、4年でパートナーに就任されました。いよいよ法曹界で大きく羽ばたこうという時に、公明党からリクルートされるわけですが、公明党はどうやって「山口候補」を発見したんでしょう。

山口 元代表の神崎武法さんは、法律家の道を志す時もアドバイスを下さった方の1人でしたが、その神崎さんいわく「公明党はこれから世代交代期を迎える。そうすると、社会の中で一定の仕事の経験や資格、それぞれの得意分野、専門性、こういうものを持った人を取り込んで育てていきたい」とのことでした。「ほかにどういう分野の人を捜してらっしゃるんですか、どういう新しい公明党をつくられるおつもりですか」と、生意気にも(笑)うかがったら、外交官出身とか、ジャーナリスト出身とか、第一線の企業で働いている、そういう人をこれからスカウトしていきたいというお話でした。それなら私が持っている公明党に対するイメージとは、随分と違ってくるなと思いました。

德川 それは、どういうイメージでしょうか。

徳川家広

徳川家広・政治経済評論家

山口 苦労に苦労を重ねた、「庶民とともに歩む」という立党精神を体現したような諸先輩も多かったと思います。創価学会の幹部出身の方も多かったと思います。神崎さんのお話からは、必ずしもそういうカラーではないものを感じ取りました。

德川 選挙は大変でしたか。

山口 私なりには非常に大変でした。世代交代ですから、経験豊かな、人間的な幅の広い、そういう方々と比較されるわけですね。社会経験も乏しい、話も下手で説得力がない私が、目の前の人に演説をしても失望感が目に見えるわけです。正直、私も悩みましたけれども、「そのままでよい」「素のままでよい」と先輩がアドバイスしてくれたので少し元気が出て、まあ山口那津男という名前ですから、親しみを持って覚えていただくために、「なっちゃんと呼んでください」とおじさん、おばさんに声を掛けたわけです。そうするうちに、だんだん有権者の方たちとの一体感を感じることができるようになりました。

山口那津男氏(公明党代表)×徳川家広氏(政治経済評論家)ーー世論の変化、反応が弱かった集団的自衛権の議論

德川 公明党はしばらく自民党の閣外協力をして、細川内閣で与党になります。その際に、山口さんは防衛政務次官になりました。それまで党として主張してこられた平和主義との整合性は問題なかったのでしょうか。

山口 なくはありませんでしたが、私が当選した平成2年は参議院で与野党が逆転して、公明党がいわばキャスティングボートを持つ中で、湾岸戦争、PKOの議論などが出てきました。私は1年生議員でしたけれども、体当たりで議論に挑んで、自らの足で湾岸戦争直後のクウェートやサウジアラビアや中東地域を調査しました。また、まだ和平合意ができる前、内戦当時からカンボジアへ行って、闘っている4派のそれぞれの代表と会いまして、和平合意を進め、その後に国連のPKOの展開を予測しながら、そこに日本の自衛隊の参加の是非をどう思うかと、問うていったんですね。ポルポト派のナンバー3であるキュー・サンファンとも会いましたが、「国連の一員として自衛隊が来るのはウェルカム」という意見に接して、「これはいける」と確信しました。恐らく、その時の会談をもし公表すれば、大ニュースになっていたのではないかと思います。ただ、相手の立場もありましたし、1年生議員でメディアをどう生かすかということで、十分な態勢もなかった。裸で体当たりという状況でしたね。そういう経験を経ての、細川政権の防衛政務次官でしたから、非常にやりがいはありました。

対談の様子德川 今回の集団的自衛権の問題では、PKOの時に比べて、世論はどう変わりましたか。

山口 当時に比べると今回の集団的自衛権の議論は、批判も論調も非常に弱かったと思いますね。反対運動が国会周辺で起きましたが、ごく限られたものでした。抗議の電話が公明党にもきましたけれど、PKOの時に比べると本数も少ないです。

德川 反発はもっと強いと予想していましたか。

山口 丸ごとの集団的自衛権を正面からやっていたら、もっと反発は強かったと思います。しかしわれわれは入り口から強い姿勢を安倍総理に示していましたから、総理は安保法制懇の報告書を受け取ったところで、バサっと整理して、丸ごとの集団的自衛権は認めないという趣旨の結論を出しました。その理由は「政府の憲法解釈と論理的に整合しないからだ」と、おっしゃったんですね。後は限定的に認められるかどうかを、緻密に議論してくださいという、限られた土俵の議論だったと思います。

德川 そのわりには、かなり支持率が下がったのではないかと思います。

山口 (笑)。これは伝わり方も影響していると思います。論調の中身を見ると、比較的支持している論調と否定的な論調に分かれていますが、メディアの見出しはどれも「集団的自衛権行使容認」とでかでかと出るわけですね。閣議決定を出したら、ぴたりと抗議の電話はやみました。ですから、これからが大事です。閣議決定の中身を丁寧に説明する作業は、今も各地で続けているわけです。最初は構えて聞いている方も、徐々に話を聞くようになりますし、話せば話すほど理解は進むなというのが、今の実感ですね。

山口那津男氏(公明党代表)×徳川家広氏(政治経済評論家)ーーアベノミクス効果を中小企業、地方へ

德川 政治家になって早い時期に訪問教育の拡大に取り組まれるなど、公明党にふさわしい弱者重視の政策を打ち出しておいでです。その山口代表からご覧になって、アベノミクスは効果を上げているのでしょうか。

山口 道半ばだと思います。経済の再生をスローガンにやりだしたため、非常に前向きな明るい雰囲気になったと思います。実際の効果がどこまで及んでいるかは予断を許しませんが、当初からある程度、時間がかかることは予測していましたから、まずは企業が元気になること、そして、業績が上がっていくこと。それが今度は働く人に分配されて、政労使の協議の場を作って、そこで政労使で議論をさせて、ある程度の約束をさせる。それに基づいて、今年は春闘などで大企業中心ですが、半分近くがベースアップをしましたね。これからのわれわれの政権の挑戦は、中小企業や地方にも活力を及ぼして、所得の向上をもたらすかだと思います。

德川 今の自民党を見ていますと、弱者切り捨ての印象が強いです。経世会という、一番そこを見ていた会派が事実上ないような印象です。そこで公明党の役割が非常に大事になると思うんですが、党組織、支持者の中からそういう声はありますか。

山口 それは一般の支持者、あるいは自民党の支持層の中からすら、そういう声はありますね。かつての私が当選した当初の自民党というのは、それぞれ活発な議論をしてぶつかるけれども、最終的に作った法律や制度はみんなで守っていこうという気風もありましたね。今は少し、そうした活発な幅広い議論は遠慮しているような空気が感じられます。そこを補うのが連立与党の役目です。自民党が単独で過半数が取れなくなったのは、世論を受け止める力が弱くなっていると、冷静に見るべきだと思います。

左から山口那津男、徳川家広德川 連立形成から1年半が経過しました。ご自身の採点は。

山口 最初に政権合意を作りました。これは政策の優先順位も含めて決めたんですね。経済再生、被災地の復興のスピードアップ、税と社会保障の一体改革を着実にやる。こういう分かりやすい、明確な目標を持って、それにふさわしい政策を打ち出しながらやっていることに対して国民の皆さんの理解は得られていると思います。ただ、その効果を上げることがこれから問われるので、そこに政治的エネルギーを集中して、その期待に応えられるようにしなくてはならないと思います。たえずその努力をしていることが国民に伝わる。ここが大事だと思います。

(文=德川家広 写真=葛西 龍)

[前編]
公明党代表が本音で語る集団的自衛権と平和主義(前編)--山口那津男氏(公明党代表)×徳川家広氏(政治経済評論家)

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