政治・経済

設立からわずか2年、ANAホールディングスは、アジア最大の格安航空会社(LCC)エアアジアとの共同事業を解消した。まだ始まったばかりの日本のLCC市場は、このまま収縮してしまうのだろうか。 (本誌/古賀寛明)

あっさり成田離婚

 2012年8月1日、ピーチ・アビエーション(以下、ピーチ)、ジェットスター・ジャパン(以下、ジェットスター)に続き就航したエアアジア・ジャパン。ようやく日本にも訪れたLCC(格安航空会社)時代の幕開けであった。

 ところが、当初は順調だったエアアジア・ジャパンの搭乗率は翌月には下がり始め、その後は低空飛行が続いた。80%の搭乗率を目指したものの、65%程度(12年11月まで)にとどまり、唯一の購入方法であるウェブサイトは使いにくく、目新しさから搭乗しようと思っても、英語表記が混ざっていたこともあって、あきらめる中高年もいたという。

 同年12月には、はやくもトップが岩片和行氏から、オペレーション部門を統括していた小田切義憲氏へ変更し、改革を担うこととなった。その後、中部国際空港を第2の拠点にするなどテコ入れを図ったが、搭乗客は伸び悩む。今年のゴールデンウイークの搭乗率もピーチの国内線が、91・3%と好調、続くジェットスターも78・8%であったが、エアアジア・ジャパンは67・6%と沈んだ。

 6月11日、ついに新聞紙上に、エアアジアの最高経営責任者(CEO)であるトニー・フェルナンデス氏が、パートナーであるANAホールディングス(以下、ANA)との合弁解消を決めたという記事が躍った。

 一方、ANAも積極的な否定を行わず、同月25日の臨時取締役会後に社内で会見を開き、正式にエアアジアとの提携解消を発表した。エアアジアの保有していたすべての株式もANA側が買い取ることで合意。100%子会社化する方針もあらためて説明した。

 提携解消の理由としては、エアアジアの方式を持ち込んだウェブサイトをはじめとする販売方法の問題や日本の顧客にはある程度は必要なサービスが全く不足していたことだった。

 一方で、エアアジア側からも不満の声が上がっていたようだ。他国に比べると日本は3倍ものコストが掛かっていること、ANA主導でなかなかコストの削減が進まなかったことなどいくつかの理由が報じられた。しかし、何よりわずか2年あまりというスピード離婚を決断させたのは、やはり35億円もの営業損失であろう。

 では、この提携は失敗だったのだろうか。

 もちろん多額の損失を出してはいるが、傷が浅いうちに軌道修正できたとみる向きもある。ある関係者は、提携解消の決断の早さを評価する。

 「ANAは今年4月に持ち株会社化しました。提携解消の話は前から出ていたようですがズルズルいかなかったのは、意思決定のスピードが早まったせいでしょう。一方のエアアジアもグループCEOであるトニーさんのワンマン経営の賜物と言えます。同じ成田拠点のジェットスターも内情は厳しいので、むしろ抜本的改革を早めに行えるのは好都合ではないでしょうか」

 ANAの完全子会社となったエアアジア・ジャパンだが、10月末までは現状のまま運営することが決まっている。路線もそのまま継続、現在保有する5機についても9月から順次エアアジアへ戻すことが決まっているようだ。

 気になるその後については、ブランド名や就航路線など詳しい発表は7月中に決定する。ただ成田国際空港をベースにすることについては変更せず、事業についても継続性を持たせることを明確にしている。

 新会社は、同じANA系のピーチとするのか、新たなブランドを立ち上げるのか、はっきりしたことは決まっていない。ただピーチは他の出資者もいることから現実的には難しいかもしれない。

 エアアジア側も日本のLCC市場については未だ魅力的な市場であると認識しており、今後は新たなパートナーと参入するつもりで、現在4~5社と協議しているという。ではどのような提携先となるのだろうか。

 真っ先に浮かぶのは、LCCに市場を奪われ、JAL、ANAなどの大手エアラインからの圧迫を受けるスカイマークエアラインズやエア・ドゥの中堅航空会社だが、

 「エアアジアが組んだパートナーで航空会社はANAが初めてです。しかし今回主導権を取れなかったために、同じ航空会社と組むのを嫌がるのではないでしょうか」(業界関係者)という意見もある。ただ、航空会社以外と組むとなると、国土交通省など日本の厳しい審査があり、非常に苦労するのではないかとみられている。

明るい未来への棘道

 ANA、エアアジア双方にとって最大の懸念材料は、拠点の成田空港だ。LCCは収益の面から早朝から飛ばす。しかし成田までのアクセスは悪い。東京駅発で京成バスが「900円」と格安の深夜、早朝バスを運行しているが、手間や時間を考えると羽田発のフライトに流れるのは致し方のない話だ。

 このアクセスの悪さと、発着時間の制限、着陸料などの公租公課の高さを解決できなければ、いずれ拠点を他の空港に移さざるを得なくなるのではなかろうか。エアアジアのフェルナンデス氏も報道で、着陸料が格安な地方空港を拠点にすることを匂わせている。

 政府は「観光立国」を目指すためにインバウンド(訪日外国人客)の数を12年の837万人から、20年ごろまでには2千万人にまで拡大する目標を掲げている。また、東南アジア諸国への観光ビザの緩和が決定されたことで、インバウンドの増加が見込まれる。

 日本のLCCの席数は、航空業界全体の席数のいまだ5%程度にすぎない。欧州では半数近くまで、東南アジアでも近年急速に高まり、顧客を創出してきた。確実に訪れるこの大きな波に乗ることができれば、今回の破談などかすり傷程度に違いない。

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[特集 新しい街は懐かしい]

水辺に都市が栄える理由と開発の事例を探る

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年6月号
[特集] 人材輩出の「新御三家」
  • ・[サイバーエージェント]経営人材を育てる方法 研修より緊張感ある現場経験
  • ・中山亮太郎(マクアケ社長)
  • ・大竹慎太郎(トライフォート社長)
  • ・塚原文奈(ストアーズ・ドット・ジェーピーCEO)
  • ・[楽天]ベンチャー精神は創業者が体現する
  • ・体育会的ノリと目標必達の企業風土が育てた起業家群
  • ・[DeNA]意志と情熱を後押しする人材育成術
  • ・橋本 舜(ベースフードCEO)
  • ・鈴鹿竜吾(ライトマップ社長)
[Special Interview]

 飯島彰己(三井物産会長)

 人が成長するために必要なこと

[NEWS REPORT]コロナ禍後の経済地図を読む

◆避けられない合従連衡 日の丸電機の進むべき道

◆自動車業界は大再編必至 生き残れるのはどこだ!

◆存続の危機を迎えた百貨店 小売り業界のEC加速が止まらない

◆“会わずに診る”コロナで広がるオンライン診療

[特集2]

 社長のセルフブランディング

 第一印象/SNS・ネットツール活用/言葉の力/プレゼン技術

 [特別インタビュー]友近(お笑い芸人)

 最強のセルフブランディング術「憑依芸」を語る 

ページ上部へ戻る