政治・経済

みずほフィナンシャルグループが最大の経営課題と言える基幹系システムの統合に再び挑んでいる。過去、統合に失敗してトラブルを発生させてきただけに、注目が集まる。次期システムが稼働する2016年までの3年余り、みずほグループはシステム統合が最大の課題となる。 (ジャーナリスト/土田和利)

〝大人の事情〟でやむなく4社体制のシステム統合に

 今回、みずほグループは傘下のみずほ銀行、みずほコーポレート銀行を統合するワンバンク化を実現した上で、システム統合に乗り出した。経営課題の一挙解決体制と言っていい。みずほ統合から10年超という歳月が経過した段階での再チャレンジである。

 みずほの基幹系システムは、旧みずほ銀行、旧みずほコーポのいずれでも本格的な更新が遅れていたため、このままでは、システム能力が他のメガバンクよりも見劣りする状況にあった。その意味でも、みずほグループにとって、今回のシステム統合では失敗が許されない。

 だが、その一方では、銀行業界には「引き続き、壮大な実験プロジェクト」と冷ややかに見る向きが少なくない。過去のシステム統合作業は、母体銀行のメーン先である富士通、日立、日本IBMをすべて活用する形態だったが、今回は、さらにNTTデータも加わる4社体制となっている。前例を見ないプロジェクト態勢であり、「開発の要であるプロジェクトマネジメントがうまくできるのか」と不安視する声がライバル銀行からも出ているのが現実だ。

 みずほグループは発足以来、第一勧銀、富士、興銀という母体3銀行の牽制関係が解消せず、社内融和が滞ったことで知られている。それを解消するためにもワンバンク化が求められていた。

 しかし、他のメガバンクでは、基幹系システムは母体銀行のいずれかに片寄せする方式となったものの、今回もみずほはそのような道は選択できなかった。それが吉と出るか、凶と出るか、というわけだ。

 この点、同情的な声もある。メガバンクとしての最後のシステム統合であり、わが国を代表するシステムベンダーである富士通、日立をないがしろにすることはできなかったという見方だ。三井住友銀行がNECで、三菱東京UFJ銀行が日本IBMを活用した結果、みずほグループがベンダーを絞り込めれば、富士通、日立が蚊帳の外になりかねない事態となっていたからだ。それゆえ、多社体制となってしまったことが、今後、どのような結果をもたらすのか。

 それにしても、みずほグループが過去、2度にわたって発生させたシステムトラブルは悲劇的だった。中でも、2度目は、11年3月の東日本大震災と重なって発生したこともあって、利用者に与えた被害は大きく、厳しい非難が全国から寄せられた。結局、経営陣の刷新へと、追い込まれたが、これによって、みずほグループの経営体制が正常化したことは間違いない。母体3グループのポスト確保という面から遅々として進まなかったワンバンク化も実現できた。

 そこで、いよいよ、本格的なシステム統合というわけであり、それを発表したみずほFGの、佐藤康博社長兼銀行頭取は自信あふれる態度を垣間見せた。だが、繰り返しになるが、このプロジェクトが「前代未聞のアプローチ」(有力システムベンダー)であることには変わりはない。

みずほFGにとって今後3年間のIT戦略が鍵となる

 それだけではない。あるコンピューターシステムの専門家は「基幹系システム統合となれば、銀行のシステム部門は総動員となる。その間、他の課題への対応は後回しにならざるを得ないだろう」と指摘する。

 何しろ、統合作業は3年を要する長丁場である。その3年間、ライバル銀行では、安定したシステム基盤の上で、最新のIT機能を駆使したチャレンジングな取り組みを行うことは明らかだ。

 「わが国の銀行は、欧米の有力銀行に比べて、システムを駆使した決済ビジネスなどにおいて後れを取ってきた。それにキャッチアップできる状況が整い始めたのが最近のことであり、この数年間は極めて重要なタイミングとなる」(外資系銀行の元システム担当責任者)

 確かに、コンピューター言語などの進化はすさまじく、それを刷新することによって、ビジネス領域が拡大するような競争が世界の金融ビジネスでは繰り返されてきている。欧米銀行の経営が苦しくなり、システム投資がままならなくなっている現在こそ、邦銀勢はシステム力を向上させて、この分野でキャッチアップする最大のチャンスを迎えているのである。

 その点、前掲の専門家が懸念するように、システム統合に経営資源を集中化せざるを得なくなると、みずほグループは、この数年間の中でライバル銀行に水をあけられることになりかねない。そうならずに、システム統合作業の中にあっても、同時並行的に基幹系システムに最新鋭のIT技術を搭載するような対応をみずほグループがとれるかどうか。これは「システム開発力というよりも、銀行の体力そして経営陣の決断力が試される」(金融関係者)と言う。

 もちろん、みずほグループにとって、再度の挫折は絶対に許されない。再び、大規模なシステムトラブルを発生させれば、顧客からの信頼という面からも致命傷を負うことは避けられない。みずほグループの存続まで危ぶまれかねないことすら想定される。しかし、システム統合作業の安全操業のみを追求した果てに、システム統合は無事に実現できて、トラブルも発生せずにやりこなせても、次期システムが稼働する3年後には、ライバル銀行にシステム力で差をつけられていたとなれば、それもまた、経営上では取り返しがつかない致命傷になりかねない。

 その意味でも、過去の失敗の痛手は大きかったことになる。みずほグループの綱渡りは悲願のワンバンク化を実現して、これから先、より重大な局面を迎えることになる。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る