政治・経済

中小事業者などの資金繰り支援を目的に施行された、中小企業金融円滑化法の終了から3カ月が過ぎた。国や金融機関の支援もあって目立った影響は少ないようにも見えるが、果たして実態は。 (本誌/鈴木健広)

休廃業増加には円滑化法終了の影響が

 帝国データバンク(TDB)の統計によると、2012年度の国内全体の倒産件数は前年度比6・3%減の1万710件となった。リーマンショック以降4年連続での減少だが、一方で同年度における自主的な「休廃業・解散」は2万6050件で前年度に比べて増加している。

 TDB東京支社情報部の太宰俊郎氏は、「両方の数字を合わせて見ないと実態は分からない」と話す。中小企業金融円滑化法の適用下において、〝苦渋の選択〟をした経営者が少なくないようだ。

 合わせて、円滑化法利用後の倒産が今年4月は52件、5月で60件と過去最多を2カ月連続で更新した。10年は倒産23件で負債総額144億2100万円に留まったのに対し、12年は399件、2977億9千万円に増加している。「円滑化法終了後の倒産は目立って増加しているようには思えない」(銀行関係者)という声はあるが、倒産急増の足音が聞こえてきそうな様相だ。

 「月末が近づき金融機関への返済や講師料の支払いを考えることで、死にたいという気持ちに襲われていた」

 セミナー運営会社を経営していた渡辺幸司氏(仮名)の言葉だ。渡辺氏は04年に、セミナー運営会社を立ち上げた。順調に業績を伸ばしていたが、競合の増加による売上減少やビジネスパートナーの裏切りによりキャッシュフローが悪化、11年に倒産を申請した。

 当時、渡辺氏は取引銀行から金利の引き下げ措置を受けていたという。倒産する前に所有していたマンションを売却して、完済にこぎ着けた。「根が明るい私があんな風に心を病むとは思わなかった。資金繰りに追われる大変さを実感した」と振り返る。

 一方、飲食店を経営する渡辺氏の友人は、新しく借り入れができずに、「会社が持つのもこの夏までかもしれない」と話しているという。飲食店を経営しているものの、前衛的なメニューが受け入れられないのか、経営不振に陥っているようだ。渡辺氏は、「先立つものがないと、会社経営は立ち行かなくなる。経営者の心細い胸中が良く理解できる」と話す。

 円滑化法終了後も、全国の金融機関は支援の在り方を模索している。東京スター銀行は自行の取引先を中心に地方金融機関の主要取引先に対しても、動産・債権担保融資(ABL)や、法的整理に入った企業への融資を行うDIPファイナンスといったスキームを使って支援を手掛ける。特にDIPファイナンスでは、昨年1年間で100億円規模、今年上半期で数十億円規模の再生ファイナンスを手掛けてきた。資金繰りの支援や専門家紹介、過去に債権放棄を受け入れた地元金融機関との取引復活など、幅広くサポートしている。

 法律の期限切れ後は、「弁護士からの紹介案件に加えて、他の金融機関から相談を受ける事例も増えている」(吉賀貴弘・CFBアドミニストレーションチーム・ヴァイスプレジデント)状況だ。川瀬高宏・事業再生&プリンシパルファイナンスチーム・ディレクターは、「当行の手掛けたどの案件も資金繰りが安定し、着実に再生に向かっている」と自信を深めている。

「命さえあれば復活できる可能性がある」

 一方で返済を猶予してもらっても、新たな借り入れを受けられずに体力を失いつつある企業が少なくない。また、再生に強い意欲を持つ経営者がいる一方で、「経営改善計画書を銀行に提出せず、時間稼ぎしか考えないトップ」(TDBの太宰氏)がいる。「ヤケになってそのまま会社をつぶしてしまうトップが少なくない」(地方銀行関係者)ようで、資金繰りに窮することで、自暴自棄になったり思考停止状態に陥ったりしている経営者像が見えてくる。

 東京スター銀行の川瀬氏は経営者に向けて「本気で再生を考えるのなら、もっと外部の声に耳を傾けたほうがいい」と助言をする。多くの企業オーナーには、経営不振に陥っても〝自己流〟を貫き、専門家の援助を借りようとしない傾向があるようだ。自社の技術に絶対の自信を持っているものの、財務を含む経営全般に目が行き届いていない。結果、従業員の横領などで組織は崩壊状態になるケースもある。「プロに依頼をして、アドバイスを受け入れることは必要不可欠」(川瀬氏)だろう。

 同行が支援した事例では、「今月の返済を来月の入金時まで待ってもらう」「どんぶり勘定を部門別会計に改める」といった取り組みで劇的に収益が改善した事例があった。ある製造会社では、作業工程で使う道具を変えることでロス率改善につながり、再生軌道に乗るきっかけの1つにつながったという。川瀬氏は「ちょっとした工夫で窮地から脱することができる。それに気が付かないのは、もったいない」と話す。

 冒頭の渡辺氏は、「必要な時にお金がないというのは、徳政令のあった古くからずっと続いてきた苦しみの1つだ」と説明する。

 渡辺氏は、会社を畳んでから、個人事業主としてコンサルティングの仕事を始めた。現在は会社を経営していた頃に比べて子どもと触れ合う時間が増え、一緒にキャッチボールや散歩などをして楽しんでいる。

 「どうしてもダメだと思ったら、倒産するのも選択肢の1つ。とにかく生きてさえいれば、個人としても経営者としても復活できる可能性はある」

 渡辺氏の投げ掛けた言葉は重く深い。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る