
三脱から考える人材育成と自己開示
三つを〝脱ぐ〟と書いて「三脱(さんだつ)」とは、年齢・職業・地位(立場)の3つを取り外すこと。人を肩書などの先入観で決めつけるのではなく、その人の本質を見極めましょう、という教えです。
各地からさまざまな身分や立場の人が集まる江戸の町では、皆が気持ちよく稼ぎ、暮らしを立て、対等に付き合うことが町の発展と国の繁栄のための手立てと考えられていました。そのため、少なくとも初対面の相手にこの3つを聞かないことは、暗黙のルールでした。
これは、江戸後期、武士たちを対象にした藩校に対し、町人をはじめ、どんな人でも入門することができた私塾の1つ、大分は日田の儒学者・教育者である廣瀬淡窓が開いた「咸宜園」の教育方針「三奪」に基づいています。
そもそも咸宜は、中国の五経『詩経』に由来し「みなよろしい」という意味の言葉でした。
「咸宜園」は、武士や町人など身分や家柄に分け隔てなく、出身地や年齢、男女を問わずすべての人を平等に受け入れた教育施設として、吉田松陰の「松下村塾」、緒方洪庵の「適塾」と共に、3大私塾と称され当時の日本では最大級の入門者を誇る私塾だったのです。
淡窓は、人材を育てるためには、あらゆる条件をはく奪し皆同じ土俵で同じ課題と向き合い、学び、競わせることが必要と考え実践したのです。現代でいう〝実力主義〟のはしりとも言えるでしょう。
また、彼は商家の出身ということもあり、学問は机上のものでは役に立たないと考えました。経済を土台にしない国づくりは弱体であると教えたということです。
私塾での「三奪」が一般の暮らしにも及び、〝奪〟(うばう)から洒脱して、自ら〝脱〟(ぬぐ、取り払う)という意味で「三脱」と掲げるところに当時の人々の意気込みを感じます。
現代の名刺交換のような習慣はまだなく、インターネットで予備知識を得ることも到底できない時代。事前情報が少ない理由からも人を見極める洞察力、観察力が養われていったのです。
現代は、情報を得やすくまた整備しやすい環境が整っています。その便利さと同じ分だけ、物事を選択する力や真偽を見分ける判断力が必要です。
また、あなたの年齢や経歴、立場などの社会的好条件をいったん取り外した時、相手はあなたをどう思い、どのように接するでしょうか? 時に自答してみませんか?
先入観は自分の価値観というフィルターを通した〝色眼鏡〟かもしれません。本質を見抜きなさいという〝サンダツ〟の教訓は、人を育てる上でも、自身の人格を磨く上でも、時代をリードする者にとって学ぶべき大切なヒントがありそうです。
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