文化・ライフ

 江戸しぐさでは〝しぐさ〟は「思草」と書きます。

 「思」は思考、思案するという意味を込め、頭の中、心の中、感情など外からは見えない人の内面を表しています。

 「草」は〝言いぐさ〟の〝草〟。ものの言い方や動作など目に見えるアクションを示します。つまり「江戸しぐさ(思草)」には、思いと行動は一対でありたいという先人たちの思いが託されているのです。

 これは、中国明代の儒教者である王陽明が説き中江藤樹によって日本に紹介された陽明学の命題のひとつ「知行合一」に通じていて、まさにこの考え方が江戸しぐさの根底にある哲学となっています。

 知識があっても行動が伴わなければ知らないのと同じ。まずは心を養い、物事は実行して初めて会得したことになるということなのです。

 江戸しぐさもまた、実践あるのみ。心学であり実学であるとして伝えられています。

 来客が暑そうにしていたらさりげなく冷たいおしぼりや飲み物を用意する心配り。

 また、部下の長所に気付いたら、時にはあえて言葉にして褒めることで人材を育てるなど、ごく身近な日常に江戸しぐさのエッセンスは散りばめられているのです。

 トラブルの種を見つけたら、即座に原因を解明し未然に防ぐ危機管理能力。目標達成のために計画を練るばかりではなく、人より早く必要な情報を集め実行すべく先陣を切る行動力など、常に状況を見極め人を見定め、リスクと責任を承知の上〝する〟ほうを選ぶのが江戸しぐさです。

 知行合一の考え方のもととっさにでる〝瞬間芸〟であり〝クセ〟のように身に付いていることが大切です。一歩先を行く心遣い、判断力、実行力は、その時代にも人の上に立つ者に必要な条件でした。

 江戸初期の頃、幕府は朱子学を国学として推奨し、将軍家や多くの藩士たちはその思想のもと封建社会を築いていた時代背景がありますが、町方の庶民は、そういう時代の中でも着々と力を付け、やがて文化や経済の担い手となっていきます。その中心となった商人たちは、武士とも対等に付き合えるように、おなじ儒教でも心の学問とその実践を重視した陽明学に秩序を掲げるようになったのです。

 立身出世を目指した商人たちにとって、これほど心強い理論はありませんでした。その考え方の基礎には孟子の唱えた「性善説」の思想が流れ、江戸しぐさの〝思いやりの心〟の源は、親から子など目上の者が相手の立場に立って思いやる「惻隠の情」に由来しているのです。

 後に陽明学は、吉田松陰や高杉晋作など、幕末維新の志士たちにも影響を与えています。

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