政治・経済

 「小渕経産相:外形標準課税の適用拡大、中小企業への影響甚大」

 小渕優子経済産業相は18日、安倍政権が目指す法人実効税率引き下げをめぐり、代替財源として外形標準課税の強化が議論されていることについて、「中小企業へ適用拡大することは賃金上昇と雇用増加に悪影響をもたらす恐れがある。中小企業への影響は甚大で慎重に検討されるべきだ」と述べ、反対する考えを示した。都内のホテルで日本商工会議所幹部と懇談した際に発言した。(時事通信2014年9月18日)

法人税減税より設備投資減税と雇用減税を

 現在の日本国内における法人税減税議論は、かなり奇妙だ。何しろ、法人税減税(法人税の実効税率の引き下げ)の目的に関する議論がほとんど行われない反対側で、財源論ばかりがクローズアップされている。

 そもそも、安倍政権はなぜ法人税を減税したいのだろうか。もちろん、黒字企業の純利益を政策的に増やすことで、国内の設備投資や雇用を増やすためだ。

 法人税を減税すると、政府の税収が減る(当たり前だ)。結果、政府は国民から別の税金を徴収するか、もしくは支出を削減して、減税分を補填せざるを得ない。法人税減税は国民の「損」に基づき行われるのだ。

 そこまでして法人税を減税する以上、純利益が増えた企業には、国内の設備投資や雇用を増やしてもらう必要がある。

 麻生財務大臣は、9月17日に都内で講演し、法人税減税について、「下げるにあたっては、間違いなく下げた分だけは、内部留保はダメ、きちんと所得に還元してくださいと言っている」と、語っている。所得に還元とは、まさに国内の設備投資や雇用拡大に、法人税減税で拡大した利益を使え、という話である。

 企業が減税により増えた利益を、内部留保(現預金など)として貯めこんでしまうと、国内の投資や雇用は全く増えない。すなわち、所得に還元されない。

 雇用拡大や設備投資に減税分の増加利益を投じてほしいならば、やはり「設備投資減税」「雇用減税」にするべきなのだ。この場合は、政府の法人税減税により増大した利益が、確実に「所得に還元」されることになる。

設備投資や雇用を促す税制を廃止する愚策

 ところが、信じがたいことに安倍政権は、無条件の法人税減税の「財源」として、設備投資減税や雇用促進税制の「廃止」の検討を始めた。第二次安倍政権が導入した、設備投資や雇用を促す税制について、今後3年程度で順次廃止していく方針が打ち出されたのだ。理由はもちろん、法人税の実効税率引き下げの「財源」に充てるためだ。

 国内の設備投資や雇用を拡大することが目的の法人税減税の財源を、設備投資減税・雇用減税の廃止で賄う。

 もはや、筆者も自分で何を書いているのか分からなくなるほどの本末転倒ぶりである。などと書くと、法人税減税論者たちは、「日本は対内直接投資(外国からの直接投資の受入)が少ない。だから成長しない。法人税を引き下げ、外国資本を呼び込まなければならない」と、まるで発展途上国のごとき主張を展開し始める。

 日本ほど技術力が高く、企業が揃っており、さらに「カネ余り(結果、金利が極端に低い)」の国が、なぜに外国資本「様」に頼らなければ、成長を志向できないという話になるのか。

安定化装置としての機能が働かない税制

 そもそも、日本のようにデフレが継続し、儲からない国に、法人税率がどうあれ、外国企業が投資を活発化させるとは思わない。儲からないのでは、法人税率も何もあったものではない。

 そして、筆者が最も愕然としてしまったのは、法人税減税の代替財源に「外形標準課税」の拡大を充てるという主張だ。外形標準課税、つまりは「利益」と無関係に徴収される税金を法人税減税の財源に充てるとは、すなわち、「負け組(赤字)企業から勝ち組(黒字)企業への所得移転」を実施するということになる。

 結果、日本国内の法人企業は、勝者と敗者に、綺麗に二極化していくことになるだろう。そもそも、税金の目的の1つに、ビルトインスタビライザー(埋め込まれた安定化装置)としての機能を果たすというものがある。すなわち好況期には税金を増やすことで、景気を鎮静化させる。逆に、現在の日本のような不況期には、負け組(失業者、赤字企業など)の税負担を軽くさせることで、復活を早めるのである。

 消費税増税にせよ、外形標準課税の強化にせよ、経済環境とは無関係に、勝ち組も負け組も「平等」に徴収される税金である。すなわち、ビルトインスタビライザーとしての機能が存在しない税制なのだ。

 不景気の国で、負け組から容赦なく税金を徴収すれば、社会の所得格差、資産格差は拡大せざるを得ない。結果的に、社会は不安定化し、長期的な成長力は大きく損なわれることになる。

 一部の「勝ち組」企業を優遇するのではなく、国民経済全体を成長させる政策に舵を切らねば、日本経済がデフレから脱却する日は訪れない。

 

※外形標準課税:法人事業税を、資本金や人件費など、企業の事業規模に応じて徴収する仕組み。企業の利益に関係なく課税されるため、赤字企業にも課せられことになる。現在は、資本金1億円以上の企業に限り、外形課税が一部導入されている。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る