政治・経済

憎まれ役だが仕事ぶりは高評価の西川公也農水相

 この欄で前号、第2次安倍晋三内閣の改造および党役員人事改造の裏側を書いた鈴木哲夫さんは、改造人事について50点と評した。

 「〝安倍カラー〟で見れば90点だろうが、重要閣僚はほぼ留任。つまり、政策は何も変わらない。目新しい政策は何もしないということ」

 私も先日、ある財務官僚と話した際に点数を聞かれ、55点と答えた。「合格点が60点なら、惜しくも不合格」といった意味合いだ。しかし、その中で気になる人物がいる。

 「あの人はホント、タヌキだよ。でも、しっかり仕事はする。あの人なら安心だよ」

 歴代内閣最多に並ぶ5人の女性閣僚ばかりが注目される中、自民党の中堅衆院議員は、初入閣の西川公也農水相(71歳)をこう評するのだ。

イラスト/のり

イラスト/のり

 安倍政権発足後、難問とされてきた環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉では、党TPP対策委員長として党内のまとめ役を務め、国際交渉の場では甘利明経済財政担当相を裏で支えてきたご仁だ。

 農水族議員として知られる中、「官邸と次期農水相の密約をして寝返った」と陰口を叩かれ、農協関係者からは〝裏切り者〟のレッテルも貼られた。

 例えば2013年3月--。党TPP対策委員会では、TPPの議論を急ぐ西川氏に尾辻秀久氏が「何でこんなに急に会議を開く必要があるのだ」と、噛みついた。参院議員を5期務め、厚労相などを歴任した大先輩を相手に西川氏は怯むことなく、「命令口調はないだろう」と応戦し、緊迫したにらみ合いとなった。

 また、同年5月には山形県農協政治連盟が反TPPの野党議員の推薦を決めると、農業関係者や地元議員ら約50人を前に「いま自民党を敵にして農業が大丈夫だと思っているのか」と、怒りを露わにしたという。

 激高、恫喝、剛腕……。旧態依然とした自民党議員、そんな〝昭和スタイル〟のイメージが西川氏につきまとう。しかし、地元関係者はこう笑う。

 「もともと、憎まれ役を厭わないタイプ。自分が嫌われることで丸く収まるなら、躊躇なく演じ切ります。だから、地元では〝仕事で結果を残す政治家〟と呼ばれているのです」

 難攻不落と見られていた日豪経済連携協定(EPA)でも大筋合意の立役者だったことを見ても、〝その仕事ぶり〟は証明されたといっていいだろう。

西川公也農水相のワイフワークは日本農業の再生

 栃木2区で当選5回。県職員から県議を経て、国政に進出した。県職員時代は農政部で土地改良事業に長くかかわった。古くから西川氏を知る友人は、「あの経験が複雑な利害関係の間に入り、飛び抜けた調整能力を得る源になった」と語る。

 その才覚に目を付けたのが、1976年に厚生相で初入閣した渡辺美智雄氏だった。

 「西川氏はミッチーに可愛がられ、彼の人心掌握術を間近で見て学んだ。まさにミッチーが師匠のような存在だった」

 前出の地元関係者はこう語る。そういえば、梶山静六元幹事長を政治の師と仰ぐ菅義偉官房長官とは同期当選。互いに見た目は地味だが情にもろく、〝親の七光り〟の後ろ盾もない地方出身の苦労人という共通点もあり、以前から気脈が通じ合った仲だという。

 「だからだろう、菅氏を通じての密約説が飛び交っていた。しかし、そんなウワサを跳ね飛ばすには、大きな仕事を成し遂げるしかない」

 地元支援者の中には、このような声が早くも挙がっている。

 大きな仕事とは、まだ交渉妥結に至っていないTPPもさることながら、全国農業協同組合中央会(JA全中)を頂点とする中央会制度のあり方の見直し、いわゆる農協改革だ。

 大臣就任後のインタビューで西川氏はこう答えている。

 「農家の所得が増えなければ、農協改革の意味はない。私は農業の所得増大を図る上で、農家や農村社会のためにはどうすればよいか、という基準で考える」(毎日新聞9月7日付から抜粋)

 落選期間中、全国の農家を訪ね歩いたという西川氏。その際、農業の所得が建設業などの平均所得の半分に満たないことに愕然としたのだという。農家の所得を増やしたい、作物の出来は世界のどこの国に比べても遜色がないどころか、トップクラスなのに、現場がとんでもない苦労を強いられている。そんな怒りが、農協改革に向かわせ、TPP交渉妥結で新たな販路拡大の攻めの農業に志向したのだ。

 実は愛妻家。栃木の家に戻ると、妻との散歩が楽しみだという。大臣就任でその楽しみも当分おあずけだが、それもやむなし。日本農業の再生は彼の手腕に懸かっている

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