テクノロジー

 9月9日号の本コラムでは、老朽化した原発などを除いた原発が再稼働した上で、現在計画・公表されている火力発電所の新増設がなされただけでも大きく需給が緩むこと、さらに日本の全設備容量の約3%に当たる太陽光を中心とした資源エネルギー庁の設備認定を受けた再エネの多くが実際に稼働すれば、昼間帯が深夜をも凌ぐオフピークとなることを論じた。

 そうした中、現在資源エネルギー庁が推し進める卸売市場の取引量の拡大が進めば、大きく卸売市場価格が低下することになる。

 今回は、その場合の発電市場、小売市場の様相を論じたい。

発電市場は収益性が低下と予測される今後の電力業界

 電力取引所など卸売価格を入札で決める市場が厚みを増し競争的になると、発電会社等の売り手の入札行動は、各発電所の発電コストのうち燃料費など変動費での入札となる。

 老朽化した原発などの廃炉される供給力を補うべく建設が計画されている火力発電所のうち、多くが最新鋭のLNG火力が多くを占めるが、そのコストはトータルでは競争力はあるが燃料費等変動費が高い。

 これらが売電先として競争的な卸売市場を選択した場合、弊社(ATカーニー)が行った分析によれば年間の約85%の時間帯でLNG火力の変動費が卸売市場の約定価格となった。

 これは、LNG火力は稼動するほとんどの時間で変動費分しか収入が得られず、固定費回収が十分にできないことを意味する。

 今後も、電力取引所以外での電力小売会社と相対で売電契約をすることも可能となるが、厚みが増した卸売市場からの調達が可能となった小売り会社は、相対取引でも取引市場価格並みとなるようプレッシャーをかけるだろう。

 来年の国会に向け準備が進められている法的分離で生まれる既存電力の発電子会社は、そうした状況でも固定費回収を含め利益を上げられる原発や水力、石炭火力など多様な発電所を保有するため、LNG火力の赤字を補い得るだろう。

 しかし、新規参入事業者や都市ガス・石油会社などLNG火力だけしか所有しない発電会社は、相対取引を含めた卸売価格低下の直撃を受けることになり、運転開始間もない発電所資産の減損処理などを迫られる可能性もある。

小売市場は収益性が増すと予測される今後の電力業界

 そうした状況で電力小売市場サイドはどうなるだろうか。

 海外の電力自由化市場を見ると、電力小売を行う事業者にはさまざまなタイプがある。ネット販売などを通じ販売費を押さえた格安電力小売会社や、都市ガスや水道、通信、ケーブルテレビ、さらにはさまざまなホームサービスをバンドルで販売する小売り会社、再エネなど安全・低炭素の電力に特化し、これにプレミアムを付けて販売する電力小売会社など多岐にわたる事業者が存在している。

 現在の日本では、既に自由化されている業務用需要やマンションなど高圧低負荷需要においては、いわゆるクリームスキマーと呼ばれる事業者が伸長している。

 例えば高圧で一括受電し、低圧にして各戸に売電すれば一定の利ざやが稼げるマンション一括供給などはその典型例だと言える。

 また、卸売市場などの厚みがないため、自治体の持つごみ発電に買い入札をしたり、補助金を受けたりすれば、電力取引所の価格より遥かに安価になるメガソーラーから、その高さが問題視されているFiT価格にさらにプレミアムまで乗せて買い取ったりもしている。

 これを電気料金の引き上げが著しい関東・関西地域で小売りしているが、これもある種のクリームスキミングとも言えるだろう。そうした中、卸売価格を低下させつつ電力取引所の厚みが増していけば、現在クリームスキミングを行う事業者にネット通販事業者などが加わり、競争・淘汰の後に海外で見られるような格安電力小売会社に進化していくだろう。

 また、通信やCATVなどより収益性の高いサービスを拡販するためにバンドル販売の対象とされることも考えられる。

 これらとは一線を画した、家庭用太陽光発電と家電の消費、さらには電気自動車を含む蓄電池を最適制御して節電を薦めるHEMSを梃子に、電力小売を行う事業者なども現れるであろう。

 電力に対して価格面を含め大きな関心を持たない消費者層も相応に残るであろうから、完全に淘汰はされないと思われるが、安定的な供給を唯一の提供価値としてきた既存の電力会社の小売り会社は、そのままではプレゼンスを低下させていくことになるだろう。

 今回の議論は卸売電力取引所が市場の厚みを増し、需給緩和を受け大きく市場価格が低下することを前提に業界構造の変化を考えてみた。

 現在、エネ庁は既存電力会社に対し取引所に売入札を増やすよう期待しているが、自社地域の安定供給を重視する電力会社の抵抗は非常に大きい。次回は、需給は緩和しても、市場の活性化が起きなかった場合の業界構造の変化を論じたい。

 

【エネルギーフォーカス】記事一覧はこちら

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

 企業経営者にとって「理念」や「志」が大事とはよく言われるものの、今一つピンと来ない向きも多いのではないだろうか。成功した経営者がいくら精神面の重要性を説いても、日々の現実と格闘している経営者にとっては、ただの綺麗ごとに聞こえてしまうかもしれない。 それでも、ビジネスを成功させるために最も大切なのは「志」だと…

立志財団

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る