政治・経済

 村上春樹の新作は、またもや100万部を突破した。彼の小説の魅力は何だろうか。

 確かに、このコラムでハルキ論をすることは妥当ではない。しかし、2つの事実がある。1つは、村上春樹の作品への批判の1つに、彼の作品は中身がありそうに見せて、実は何もない、というものがある。

 もう1つは、先日の村上春樹氏の講演だ。インタビュアーが以下のような村上氏の過去の発言を引用している。

  「人間は2階建てであり、1階、2階の他に地下室があってそこに記憶の残骸がある」「本当の物語はそこにはない。もっと深いところに地下2階があって、そこに本当の人間のドラマやストーリーがある」

 実は、これは行動ファイナンス理論の構造、あるいは投資家心理と市場の構造に似ているのではないか。

 2階が結果として出てくる投資家行動。つまり、会社Xの株を1525円で1千株買う、ということだ。1階がその行動を生み出す、思考のロジック。会社Xはこれから資源分野で伸びるから買いだ、と考えることだ。

 地下室とは何か。それが、投資家心理である。なぜ、資源分野で伸びると買いなのか。それは既に株価に織り込まれているのではないか。そう考え出すときりがなく、どのようなロジックもあり得る。しかし、どのロジックを選ぶかはカンである。そのカンとは、過去の投資体験やこれまでの投資成績などに引きずられた現在の心理状況などに引きずられる。これが記憶の残骸で、記憶の残骸に、論理も行動も支配されているのだ。

 それならば地下2階とは何か。村上春樹作品を批判する人々は、何かありそうに見せるだけ見せて何もない地下2階ということだろう。ところが、村上氏は、これが一番大事な物であるとしている。どちらが本当なのか。それは、村上氏に言わせれば、それが物語であり、行動ファイナンスに言わせれば、それはファンダメンタルズでもあり、投資家心理でもある。

 株価はファンダメンタルズで決まるとすべての投資家が思えば、ファンダメンタルズに決まり、投資家心理で決まると思えば、市場のムードで実際に決まる。ムードが良ければ、ほとんどの投資家はその流れに乗ろうとするからだ。

 村上氏は「今は魂のネットワークを作りたいという気持ちがあります」とも語っている。行動ファイナンス理論であれば、それはバブルと崩壊だ。われわれは、今こそバブル理論を再構築しなければならない。

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