政治・経済

 英語のエコノミー(economy)を「経済」という日本語に訳したのは福沢諭吉だといわれている。経国済民、すなわち、国を経め(おさめ)民を救うという中国の言葉がもともとの語源だが、その意味するところは、国を構成する国民がお互いに信頼し合い、その国特有の慣習、伝統、友愛を大切にする道徳心(モラルマインド)を基本に置いて、秩序、法規(リーガルマインド)を作り上げていく仕組みであろう。

 しかし、最近の企業活動を指導監督する立場にある行政の一部に、市場原理主義に基づく競争社会こそが法規制に基づいた唯一の経済社会であるとの考え方を金科玉条のごとく錦の御旗にして、企業社会のモラルマインドを傷つけている動きがあるのは嘆かわしい。

 国民である民間企業の社員は企業内でまず社会的責任としてのモラルマインドを身に付け、そして、リーガルマインドを習得していく。すなわち、「治国、斉家、修身、正心、誠意、致知、格物、平天下」となる。

 各企業が集団で行う業界活動(ある意味では信頼に基づく道徳的経済活動)をするとき、その業界の慣習、伝統、友愛のもとにモラルマインドを持って意見交換するが、時にはリーガルマインドに抵触することもあろう。逆に、リーガル上は問題ないが、モラルマインドからは到底許し難い行為もある。

 合法ではあるが背徳である行為や、合徳であるが法的には問題ありとする商行為が、現存するのが実社会の現状であり、それが経済である。

 アダム・スミスの「道徳感情論」にもある道徳、信頼と、見えざる手による市場経済を平衡させるセンチメントが必要であろう。インビジブルハンドとは、市場の失敗を起こさないための人々の絆のことである。

 しかるに、すべての経済行為を疑ってみせると豪語しながら、実は背徳的な投書とか告発を軽信し、自己の過信にもとづく物語を作り上げて、その業界の慣習、伝統、友愛を無視し、また、日本経済全体の中での、マクロ的な業界分析や資料分析をすることなく、強制的な立入検査を実施したり、行き過ぎた手法により、デュープロセス(適正手続)から懸け離れた調査行為になったりしてはいまいか心配である。

 行政の法執行に際して、適正手続が十分に確保され、正当な防御権が保障されることは、企業に与えられるべき基本的な権利ではないだろうか。

 今、アベノミクスによる経済再建が進行中であり、経済界も3本目、4本目の矢を成功させるべく必死で取り組んでいる。その時に指導的立場にある人々がモラル・オブソレセンス(moral obsolescence・道徳的磨滅)になってもらっては、企業社会からケインズのいうアニマルスピリッツが、消えていく気がしてならない。

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