マネジメント

 リーマンショック後、業績悪化の渦中にあった2010年3月にヤマハ発動機の社長に就任し、構造改革に取り組んできた柳弘之氏。努力が実を結び業績はV字回復、14年12月期はリーマン前のピーク時に迫る売上高1兆5千億円、営業利益830億円を見込んでいる。景気回復によるところもあるが、危機を転機として商品開発や生産体制を見直し、原点に立ち返ったことが大きい。柳氏に企業経営のポリシーと今後の展開について聞いた。

ヤマハの精神は 独創性、技術、デザインと語る柳弘之氏

-- 販売が好調ですね。

 消費増税の影響で、業界全体では販売が落ち込んでいますが、たまたまウチは新しい商品を投入したタイミングと重なったこともあり、二輪車は7月からキャッチアップしています。肌感覚ですが、9月以降もそれほど状況が変化するようには思いません。ただし、市場全体が冷えたまま消費税が8%から10%になって、買い控えの心理が高まる可能性はあります。

柳 弘之

柳 弘之(やなぎ・ひろゆき)
1954年生まれ。鹿児島県出身。東京大学工学部卒業後、78年ヤマハ発動機入社。主に製造畑を歩み、米国、フランス、インドなどの現地法人で16年間の海外勤務を経験。中国事業部長、執行役員生産本部長、上席執行役員MC事業本部MC統括部長などを経て、2010年社長に就任。

-- 増税の影響を抜きにすれば、二輪車市場自体は底打ち感が出てきたようですが。

 二輪は大きく分けて、通勤やちょっとした移動に使うコミューティング用の製品と、レジャーなどに使う比較的大型の製品があります。最近では、若いころバイクに乗っていた40代以上の「リターンライダー」の方などが増えて、レジャー需要は堅調に推移しています。一方で、コミューティング向けの小型の販売は落ち込んでいる状況です。

-- 大型バイクの需要が盛り上がっているのはなぜでしょうか。

 アベノミクスが1つのきっかけにはなったのは間違いありません。株価が上昇して景況感が変わったことで、外に出てお金を使ってみようという人が増えたということではないでしょうか。ウチの商品で言えば、モーターサイクルやボートなどの販売が好転し始めました。しばらくこの傾向は続くのではないかと思います。

-- 海外の動向についてはいかがですか。

 販売台数で言えば圧倒的には新興国が多いのですが、一昨年くらいから景気が落ち込んで、インド以外は現状維持か減速が続いています。一方で、先進国は復調の兆しが見えてきています。お金が新興国から引いて先進国に戻ってきたことが主な要因です。

-- 先進国における戦略は。

 先進国ではもともと商品競争力の強化に取り組んできて、それが当たり始めました。その効果が今、日本市場にも出てきています。良い商品が出始めているので、この勢いでヤマハらしい、個性的な商品を出し続けなければならないと考えています。

前2輪、後1輪という独創的なスタイリングののコミューター「トリシティ125」

前2輪、後1輪という独創的なスタイリングののコミューター「トリシティ125」

-- ヤマハらしい商品とは具体的にはどういうものですか。

 まずは独創性です。われわれは、業界の中で新しいカテゴリーを作るチャレンジを続けてきました。例えば、今年3月にタイで発売した前2輪、後1輪のコミューター「トリシティ」がそうです。われわれは第3の移動体と呼んでいますが、こういう製品は、やはりヤマハ発動機がやらなければいけないと考えています。何となく既に世の中にある物を真似てみるという文化は、弊社にはありません。2つ目は卓越した技術。高性能・軽量・低燃費の3つの目標に加えて、コンパクトさを追求する方針を掲げています。3つ目はデザインです。過去3年間、特に「洗練された躍動感」というものを表現するデザインにこだわってきました。これらの特徴が輝く商品を「ヤマハらしい」と言っています。

-- トリシティのような商品は、アイデアは浮かんでも実際の製品化はなかなか難しいのではないでしょうか。

 前2輪、後1輪でスクーターのように足が載せられる商品は初めてで、軽量化の技術も導入しています。車体の前の部分がキモになるので、デザインを美しく見せるためにサスペンションの設計などは相当苦労して何回もやりなおしました。技術的なチャレンジは多かったと思います。発想自体は出てきても、いかに見た目よく仕上げるかという部分などで、技術のせめぎ合いがあるのです。

-- 斬新な発想はどこから出てくるのですか。

 トリシティの企画は若い人たちから出てきました。私が社長就任後の2010年、若い社員を30人ほど選抜し、世界市場を回らせて、次の商品を企画するよう命じました。それで、いくつか上がってきた企画の1つです。商品化するためには、どんな技術が必要かを検討し続けました。リーマンショック後は、われわれだけでなく先進国の企業の業績が軒並み落ちていましたが、新しいフェーズに入っていくためには、既存の商品だけでなく次に何か作っていかなければという考えがあったわけです。

柳弘之氏の思惑 作れば売れた時代からの脱却を図るヤマハ

-- 社長就任時は、柳社長も含めて1年間で3人社長が交代するという激動の時期でしたが、当時、社内の問題はどこにあったのでしょうか。

 一番大きかったのは生産体制の問題でした。リーマンショック後も新興国は元気でしたが、先進国はなかなか回復できなかった。それで主に先進国向けの製品を生産する国内の生産体制をもっとコンパクトにするために、5年間かけて12工場、25ユニットから、6工場13ユニットまで減らすことにしました。これは来年完了します。事業体制について言えば、日本も欧州も米国も、必ずしも最適ではありませんでした。

 今にして思うと、05年から07年にかけて、新興国も先進国も調子が良かったため、それまでの延長で商品を作れば売れました。新しいものを作る試みがなされていなかったのです。それがリーマン後にはいろんな意味で市場が変化し、何か新しい商品を市場に投入しようという機運が高まりました。それで生まれたのがトリシティや、スポーツタイプの「MTシリーズ」です。これらの商品は、作れば売れた時代にはできなかった。リーマンショックがきっかけで原点に立ち返ることができたとも言えます。

柳 弘之-- 社長就任の際には相当なプレッシャーがあったと想像しますが、率直にどう感じていましたか。

 そんなに荷が重いという気はしなかったですね。不遜な言い方になってしまうかもしれませんが、就任の少し前から全体の構造改革を行うチームのリーダーをやっていましたし、会社の問題点がどこにあるか、感覚的に分かっていたので。

-- 売上高はリーマン前のピークまでにはまだ回復していませんが。

 ピーク時の07年12月期は売上高1兆7千億円以上までいきましたが、当時は円安効果がかなりありました。実力値では多分もうその頃を超えているのではないかと思います。今は1兆5千億円を超えられる状況で、2兆円という数字も当然視野に入っています。そこまでは既存事業で達成できるでしょうが、次の柱をいかに作るかが必要です。そのために、商品群やビジネスの新たな種を蒔くのが私の仕事だととらえています。

-- その種の1つが4輪車への参入ですね。

 そうですね。4輪については昨年の東京モーターショーでコンセプトカーを発表しました。ヤマハが作るものとしてはああいうコミューターのイメージになるのかと。開発を次の段階に進めないといけませんが、2輪車メーカーならではの発想で、小回りが利いて、操縦性能と運動性能が良い車を作っていく考えです。

-- ヤマハ発は電動バイクの先駆けで、エンジン技術も持っているので、最終的にどういうものができるか興味深いところです。

 結局、新しい組み合わせをいかに作るかが、イノベーションということになってきます。われわれが持っている技術は、エンジンやモーターといったパワーソースの部分、車体の技術、制御技術の3つがあります。この3つを進化させながら、新しい組み合わせを作るのがイノベーションです。市場に出掛けて行ってヒントがあると、エンジニアたちは自分たちの持っている技術を組み合わせて実現しようと試みます。やはりメーカーですから新しい商品が出ると社内は盛り上がります。この「盛り上がる」ということが、非常に大事だと思っています。

-- リーマンショック前はそういう空気ではなかった。

 語弊があるかもしれませんが、あれがキッカケで逆にみんな元気になったのかもしれません(笑)。

柳弘之氏の戦略 グローバル化に向けた人事制度を導入したヤマハ

-- 柳社長は海外勤務の経験が16年と豊富ですが、グローバル化に向けた課題は。

 海外展開は昔からやってきましたが、人事制度などの面は確立していなかったので、ここ3年ほどでその部分をきちんと行いました。人事評価基準を世界で統一し、日本人だからといって優遇するのを止めて、外国人の登用目標も定めました。これを一生懸命実行しているところです。

-- 人事評価で重視するのはどんな部分ですか。

 能力が高く成果を出せることはもちろん大事ですが、一番重要なのは、「ヤマハらしい人」かどうかという点です。社員の国籍は関係ありません。ヤマハが面白い会社だから貢献したいと思っていただくのが一番。そこをどう作っていくかが重要です。

-- 社長就任から5年がたちましたが、任期中に達成したいことは。

 現在持っている事業にもう1つ上乗せして、売上高2兆円よりさらに上の規模感の会社にしたいと考えています。状況に応じてM&Aもあるかもしれませんが、基本的にはわれわれが生み出した商品で実現していきたいと思っています。

文=編集長・吉田浩 写真=森モーリー鷹博

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