文化・ライフ

筆者プロフィール

(よねやま・きみひろ)作家、医師(医学博士)、神経内科医。聖マリアンナ大学医学部卒業。1998年2月に同大学第2内科助教授を退職し、著作活動を開始。東京都あきる野市にある米山医院で診察を続ける一方、これまでに260冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修も行っている。NPO日本サプリメント評議会代表理事、NPO日本プレインヘルス協会理事。

 

日本の医者とジェネリック

 私の診療所に営業に来た大手製薬会社のMR(営業マン)がこう嘆いた。「今やわれわれより、ジェネリックメーカーの社員のほうが景気が良く、風を切って歩いていますよ。こんなことになるなんて想像もしていませんでした」

 ご存じのとおり、ジェネリック薬品の使用は医療費削減の有効な手だてとされ、日本を含む、さまざまな国がその普及を後押ししている。日本の場合、新薬のうちジェネリック製品に切り替えられるものをすべて変更すれば、1兆5300億円規模の削減効果が生まれるという。

 ただし、日本の医療現場でジェネリックがそれほど広く使われているわけではない。昨年9月時点においても、ジェネリックへの切り替え率は47・2%でしかない。海外では、ジェネリック製品が出た段階で自動でそれに切り替える制度を施行している国もある。それを考えれば、日本での普及はまだまだのレベルだ。

 日本でのジェネリックの使用が進まない理由の1つとして、医者たちの不信感がある。ひと昔前、ジェネリック製品は、薬の特許切れと同時に「ゾロゾロ」と出てくるため、「ゾロ品」と呼ばれ、医者たちから見下されていた。また実際にも、当時のジェネリックは、効果が不安定だったり、製品管理が十分でなかったりと、全幅の信頼の置ける医薬品ではなかった。

 近年では、ジェネリック製品の管理もしっかりとしてきたが、日本の医者たち--特に年齢の高い医者たちの中には、ジェネリックに対して悪しきイメージを持ち続けている向きが少なくない。また、薬の安定供給を不安視する医者もあり、そうした疑念を払拭するには、ジェネリックメーカーのさらなる努力と営業が必要だろう。

ジェネリックの効果は元製品と同じなのか?

 もう1つ、医者たちがジェネリックの使用を避ける大きな理由として、長年にわたって築かれてきた製薬会社との太いつながりがある。とりわけ、大学病院などでは、臨床研究費が製薬会社から出されていたりする。そのため、大手製薬会社に気を使い、すべてをジェネリックに切り替えようとはしないのである。

 一方、降圧薬をジェネリックに切り替えると、血圧が上がってしまう患者がいる。この場合、ジェネリック薬品自体に問題があるかもしれないし、ジェネリックへの切り替えによる患者の不安感が作用した結果かもしれない。薬に対する患者の感覚は非常に繊細で、全く同じ成分の薬であるのに、色が変わっただけで「効かなくなった」と訴える人が出るほどだ。

 その意味で、ジェネリック薬品が、元製品である大手製薬会社の薬とすべてが同じなら、医者も安心して使えるし、患者の不安もなくなるだろう。

 ところが、現在のジェネリック製品は、大抵の場合、大手製薬会社の薬と主成分は同じでも、製造方法や剤形・味・添加物・基材といった副成分が異なる。なぜならば、元製品の副成分に関する情報は未公開であることが多く、ジェネリックメーカーが全く同じ薬を作ることができないからだ。

 その裏を見通すと、国側が大手製薬会社に気を配り、ジェネリックメーカーに全く同じものを作らせないようにしているとしか思えない。つまり、日本の行政は、表向きはジェネリックの使用を奨励しつつも、裏では大手製薬会社を擁護するという、中途半端なスタンスを取っているののである。

医療費削減を真に望むなら

 ジェネリックの使用をめぐり、もう1つ慎重に判断すべきが、本当に医療費削減につながるかどうかだ。実のところ、ジェネリックへの切り替えで、あらゆる薬の薬価が劇的に下がるわけではない。長く販売されてきた薬は、大手製薬会社の製品であっても薬価がかなり下がっており、ジェネリックに切り替える意味がない場合もある。アスピリンなどはその典型だ。

 だが、本当に医療費を下げたければ、ジェネリックへの切り替え以前に、患者に投与する薬の数を減らすべきだろう。例えば、90歳の高齢者に対し、1回10錠以上もの薬を飲むよう処方する医者が多くいる。高齢者だから薬が不要というわけではないが、多くの薬が75歳くらいまでしか疫学調査がなく、超高齢者の薬治療に意味があるかどうかは分かっていない。

 また、80歳を超えれば、血糖・血圧の管理を徹底したところで、生命予後には無関係というのが一般的な考え方だ。それでも、多くの医者が患者の年齢を考慮せず、大量の薬を処方し続けている。大原則を言えば、薬を飲まずに済むなら、そのほうがいい。したがって、医者側も薬を処方する根拠を明確に示す必要があるだろう。

 今後、一層の高齢化が進む。だからこそ、高齢者の疫学調査をさらに進め、無駄な薬を減らす努力とルール作りを急ぐ必要があるのだ。

 

筆者の記事一覧はこちら

ジェネリック・関連記事一覧はこちら

【文化・ライフ】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

家族葬のファミーユは家族や親族など故人の近親者だけで施設を貸し切って行う「家族葬」のパイオニアだ。創業者・高見信光氏は異端児と言われながらも旧態依然とした業界を変えてきた。その思いに共感し、異業種のリクルートから転じて社長を引き継いだ中道康彰氏も業界の常識を打ち破るため奮闘している。文=榎本正義(『経済界』2…

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年10月号
[特集] 進撃のスタートアップ
  • ・スタートアップ・エコシステムの活性化
  • ・[スパイバー]2万5千円のTシャツは完売 実用化が迫った人工クモの糸
  • ・[Rhelixa]エピゲノム関連の研究・開発で人類の役に立つ
  • ・[チャレナジー]台風発電でエジソンになる ビジネス展開は「島」から
  • ・[エイシング]エッジで動く超軽量AIでリアルタイムに予測制御
  • ・[キャディ]製造業に調達革命! 町工場は赤字から脱出へ
  • ・[Clear]目指すは日本酒産業のリーディングカンパニー
  • ・[空]「値付け」の悩みを解決するホテル業界待望のサービス
  • ・宇宙ビジネスに民間の力 地球観測衛星やロボット開発
  • ・71歳で環境スタートアップを立ち上げた「プロ経営者」
[Special Interview]

 荻田敏宏(ホテルオークラ社長)

 「The Okura Tokyo」をショーケースに海外展開を進めていく

[NEWS REPORT]

◆戴正呉会長兼社長を直撃! なぜ、シャープは復活できたのか?

◆アスクル創業社長を退陣させた筆頭株主・ヤフーの焦り

◆サービス開始から3カ月で撤退 セブンペイ事件の背景にあるもの

◆絶滅危惧種ウナギの危機 イオンが挑むトレーサビリティ

[特集2]

 富裕層は知っている

・富裕層の最大の使い道は商品ではなく次代への投資

・シンガポールからケイマン諸島まで 資産フライトはここまで進化した

・年間授業料100万円超は当たり前 教育投資はローリスクハイリターン

・最先端の人間ドックは究極のリスクマネジメント

・家事代行サービスで家族との時間を有効活用

ページ上部へ戻る