文化・ライフ

日本の医者とジェネリック

 私の診療所に営業に来た大手製薬会社のMR(営業マン)がこう嘆いた。「今やわれわれより、ジェネリックメーカーの社員のほうが景気が良く、風を切って歩いていますよ。こんなことになるなんて想像もしていませんでした」

 ご存じのとおり、ジェネリック薬品の使用は医療費削減の有効な手だてとされ、日本を含む、さまざまな国がその普及を後押ししている。日本の場合、新薬のうちジェネリック製品に切り替えられるものをすべて変更すれば、1兆5300億円規模の削減効果が生まれるという。

 ただし、日本の医療現場でジェネリックがそれほど広く使われているわけではない。昨年9月時点においても、ジェネリックへの切り替え率は47・2%でしかない。海外では、ジェネリック製品が出た段階で自動でそれに切り替える制度を施行している国もある。それを考えれば、日本での普及はまだまだのレベルだ。

 日本でのジェネリックの使用が進まない理由の1つとして、医者たちの不信感がある。ひと昔前、ジェネリック製品は、薬の特許切れと同時に「ゾロゾロ」と出てくるため、「ゾロ品」と呼ばれ、医者たちから見下されていた。また実際にも、当時のジェネリックは、効果が不安定だったり、製品管理が十分でなかったりと、全幅の信頼の置ける医薬品ではなかった。近年では、ジェネリック製品の管理もしっかりとしてきたが、日本の医者たち--特に年齢の高い医者たちの中には、ジェネリックに対して悪しきイメージを持ち続けている向きが少なくない。また、薬の安定供給を不安視する医者もあり、そうした疑念を払拭するには、ジェネリックメーカーのさらなる努力と営業が必要だろう。

ジェネリックの効果は元製品と同じなのか?

 もう1つ、医者たちがジェネリックの使用を避ける大きな理由として、長年にわたって築かれてきた製薬会社との太いつながりがある。とりわけ、大学病院などでは、臨床研究費が製薬会社から出されていたりする。そのため、大手製薬会社に気を使い、すべてをジェネリックに切り替えようとはしないのである。

 一方、降圧薬をジェネリックに切り替えると、血圧が上がってしまう患者がいる。この場合、ジェネリック薬品自体に問題があるかもしれないし、ジェネリックへの切り替えによる患者の不安感が作用した結果かもしれない。薬に対する患者の感覚は非常に繊細で、全く同じ成分の薬であるのに、色が変わっただけで「効かなくなった」と訴える人が出るほどだ。

 その意味で、ジェネリック薬品が、元製品である大手製薬会社の薬とすべてが同じなら、医者も安心して使えるし、患者の不安もなくなるだろう。ところが、現在のジェネリック製品は、大抵の場合、大手製薬会社の薬と主成分は同じでも、製造方法や剤形・味・添加物・基材といった副成分が異なる。なぜならば、元製品の副成分に関する情報は未公開であることが多く、ジェネリックメーカーが全く同じ薬を作ることができないからだ。その裏を見通すと、国側が大手製薬会社に気を配り、ジェネリックメーカーに全く同じものを作らせないようにしているとしか思えない。つまり、日本の行政は、表向きはジェネリックの使用を奨励しつつも、裏では大手製薬会社を擁護するという、中途半端なスタンスを取っているののである。

医療費削減を真に望むなら

 ジェネリックの使用をめぐり、もう1つ慎重に判断すべきが、本当に医療費削減につながるかどうかだ。実のところ、ジェネリックへの切り替えで、あらゆる薬の薬価が劇的に下がるわけではない。長く販売されてきた薬は、大手製薬会社の製品であっても薬価がかなり下がっており、ジェネリックに切り替える意味がない場合もある。アスピリンなどはその典型だ。

 だが、本当に医療費を下げたければ、ジェネリックへの切り替え以前に、患者に投与する薬の数を減らすべきだろう。例えば、90歳の高齢者に対し、1回10錠以上もの薬を飲むよう処方する医者が多くいる。高齢者だから薬が不要というわけではないが、多くの薬が75歳くらいまでしか疫学調査がなく、超高齢者の薬治療に意味があるかどうかは分かっていない。また、80歳を超えれば、血糖・血圧の管理を徹底したところで、生命予後には無関係というのが一般的な考え方だ。それでも、多くの医者が患者の年齢を考慮せず、大量の薬を処方し続けている。大原則を言えば、薬を飲まずに済むなら、そのほうがいい。したがって、医者側も薬を処方する根拠を明確に示す必要があるだろう。

 今後、一層の高齢化が進む。だからこそ、高齢者の疫学調査をさらに進め、無駄な薬を減らす努力とルール作りを急ぐ必要があるのだ。

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