文化・ライフ

 NPBが統一球の仕様を無断で変更していた問題は球界の最高責任者であるコミッショナーの「不在」を浮き彫りにした。

 ボールに自らの名前が刻まれているというのに、加藤良三コミッショナーの発言は驚くほど当事者意識に欠けるものだった。

 「私は昨日(6月11日)まで全く知らなかった。事務局からそういう説明はなかった。意思疎通を欠いていた」

NPBが統一球の規格を無断で変更していた問題で当事者意識に欠ける発言をした加藤良三コミッショナー

NPBが統一球の規格を無断で変更していた問題で当事者意識に欠ける発言をした加藤良三コミッショナー(写真:時事)

 「批判に値すると思うが、私が知りつつ、そうしたわけではない」

 「これは不祥事ではない。まずはガバナンスの強化に努めたい」

 結論から言えば、ボールの仕様変更を知っていて知らないフリをしていたのなら、これは明らかに事実の隠蔽である。

 一方、本当に「おかしいと思わなかった」のだとしたらガバナンス能力の欠如であり、どう転んでも加藤コミッショナーの責任は免れない。

 密室でのボール変更劇の最大の被害者は選手である。とりわけ投手は「冗談じゃない!」という気分だろう。

 一部の投手は今季以降の契約を〝飛ばないボール〟を前提に球団と交わしており、〝飛ぶボール〟に変わったからといって、今さら改めることは困難だからだ。

 仮に〝飛ばないボール〟を前提に防御率1点台でボーナスが出ることになっていたとしよう。NPBがこっそり〝飛ぶボール〟に変えていたことが発覚したからといって、この契約は無効だと主張できるだろうか。

 そんな中、ついに労組・日本プロ野球選手会(東北楽天・嶋基宏会長)が行動に出た。NPBと、この問題を調査する第三者委員会に対し、「統一球問題に関する当会の要望と見解」と銘打った文書を提出したのだ。

 これは加藤コミッショナーへの事実上の退場勧告である。

 一部を引用しよう。

 〈第三者委員会の調査は、統一球問題を生み出すに至った大きな原因に、NPBの組織構造上の問題点、とりわけプロ野球の将来について消極的で責任回避的な人物がこれまでコミッショナーを務め続けてきたことにあるという点を認識した上で行われるべきであること〉

 〈従って、今後のコミッショナーは、プロ野球の将来についてビジョンと責任感を持った、強いリーダーシップを発揮できる人物であり、比較的若い年齢で、中立性の高い(特定の球団等と過度に密接な関係を持たない)、優れたビジネスセンスを持った人物を登用すべきであることが、今後の改善策の中心に据えられるべきであること〉

 さらには、こんな一文も。

 〈NPBは、第三者委員会から示された改善策について、オーナーの反対により実現できないなどのことがないよう、新しいコミッショナーによる指導力等に基づいて、具体的に実行に移すこと〉

 もとより選手会にコミッショナーを任免する権限はない。

 野球協約では〈コミッショナーの任免は、オーナー会議が行う〉と記されている。

 よくコミッショナーをして〝お飾り〟と揶揄する者がいるが、野球協約では〈コミッショナーが下した指令、裁定、裁決及び制裁は最終決定〉とうたわれており、実は最終決定権を有する最高権力者なのだ。

 にもかかわらず、歴代のコミッショナーを見渡した時、球場の国際規格化を目指した第7代コミッショナーの下田武三以外、骨のある人物は見当たらない。加藤コミッショナーをはじめとするほとんどのコミッショナーが経営者側のパペットのような存在だった。

 第9代コミッショナーの吉國一郎は野茂英雄のメジャーリーグ挑戦をめぐって「第2の野茂を出すな」と各球団に通達を出しながら一転、野茂が海の向こうで成功すると「誇りに思う」との電報を送り、野茂をして「掌返しですね」と呆れさせた。

 第11代コミッショナーの根来泰周は2004年の球界再編騒動の際、法律家らしく、野球協約上の不備を指摘し、「私には権限がない」と逃げ腰の姿勢に終始した。誰が名付けたか「ゴロネ・コミッショナー」とは言い得て妙だった。

 こう見ていくと選手会が指摘するように、なんと「責任回避的な人物」が多いことか。

 しかし、これには原因がある。オーナー会議といっても重要案件は強い発言力を持つ巨人・渡邉恒雄球団会長の〝ツルの一声〟に左右されることが多い。もっといえば、渡邉会長のおメガネにかなった人物でなければ、コミッショナーにはなれないのが実情である。

 せめてコミッショナーを投票で選ぶ仕組みにすれば、少なくとも今よりはよくなるだろう。12球団のオーナーと12球団の選手会長、場合によってはアマ組織や審判組織のトップにも投票権を与えるのはどうか。まずコミッショナー公選制こそがプロ野球改革の第一歩である。 (文中敬称略)

 
経済界 電子雑誌版のご購入はこちら!
雑誌の紙面がそのままタブレットやスマートフォンで読める!
電子雑誌版は毎月25日発売です
Amazon Kindleストア
楽天kobo
honto
MAGASTORE
ebookjapan
 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

二宮清純のスポーツインサイドアウト

一覧へ

米山公啓の現代医療の真相

一覧へ

見落としやすい薬の副作用

[連載] 現代医療の真相(第19回)

現代医療の真相

[連載] 現代医療の真相(第18回)

肺炎球菌ワクチンから見えるワクチン後進国日本

[連載] 現代医療の真相(第17回)

認知症・徘徊老人を受け入れる街づくり

[連載] 現代医療の真相(第16回)

サプリメント・ブームにもの申す

[連載] 現代医療の真相(第15回)

インフルエンザ予防接種は受けるべきか

吉田たかよしのビジネス脳の作り方

一覧へ

ネット検索の集中力は「独り言」で高まる!

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第20回)

ビジネス脳の作り方

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第18回)

人材育成のコツ ~部下の才能を褒めるとダメ人材に育つ~

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第17回)

株取引の損得は男性ホルモン量で決まる?

[連載]吉田たかよしのビジネス脳の作り方(第16回)

アルツハイマー病は脳の糖尿病!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次なるステージを駆け上がる日本電子「70年目の転進」–日本電子

 最先端の分析機器・理科学機器の製造・販売・開発研究等を手掛ける日本電子(JEOL)は、ノーベル賞受賞者を含むトップサイエンティストや研究機関を顧客に、世界の科学技術振興を支えてきた。足元の業績は2019年3月期で連結営業利益、同経常利益、同最終利益がいずれも過去最高を更新。かつては技術偏重による「儲からない…

独自開発のホテル基幹システムで業務効率化と顧客満足度を向上–ネットシスジャパン

逆転の発想で歴史に残る食パンを 生活に新しい食文化をもたらす–乃が美ホールディングス

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

非大卒就職マーケットの変革に挑む元教師の挑戦―永田謙介(スパーク社長)

日本企業の年功序列と終身雇用が崩壊に向かう中、制度を支えてきた大学生の新卒一括採用の是非もようやく議論されるようになってきた。一方、高校卒業後に就職する学生のための制度は旧態依然とし、変化の兆しがほとんど見えない。こうした現状を打ち破るべく、非大卒就職マーケットの改革に挑戦しているのがSpark(スパーク)社…

起業家にとって「志」が綺麗ごとではなく重要な理由―坂本憲彦(一般財団法人立志財団理事長)

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年5月号
[特集] 巻き込む力
  • ・高岡浩三(ネスレ日本社長兼CEO)
  • ・唐池恒二(九州旅客鉄道会長)
  • ・河野 仁(防衛大学校教授)
  • ・入山章栄(早稲田大学大学院・ビジネススクール教授)
  • ・出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)
  • ・中竹竜二(日本ラグビーフットボール協会理事)
  • ・時代も国境も超えた普遍のリーダーシップを学べるベストブックス
[Special Interview]

 小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

 イノベーションを起こすために「人間とは何か」を問う

[NEWS REPORT]

◆零細企業でも活用できるインターネットM&A最前線

◆業界再編はあるのか 日本製鉄、巻き返しへの一手

◆技術研究所を解体してホンダは何を目指すのか

◆新型コロナウイルス治療薬 なぜ日本企業は創れないのか

[特集2]

 経営者に贈る「イロとカネの危機管理」

ページ上部へ戻る