マネジメント

 ジャパンディスプレイは、日本のディスプレー産業の立て直しのために、産業革新機構(INCJ)の出資を受け、日立製作所、東芝、ソニーの中小型液晶事業部門を統合し、2012年に誕生した。統合の成果を着実に積み重ね、当初の予定を前倒して今年3月に株式上場を果たした。上場時にはこの春の注目銘柄として株式市場の期待は高かったが、今年に入ってからのディスプレー市場の急変もあり上場後の株価は期待ほどには伸びていない。市場の変化が激しくなり、難しい舵取りが続く中、同社の現状と今後について、大塚周一社長に話を聞いた。

【ジャパンディスプレイの現状;ディスプレー産業の誤算はマーケット変動とタブレット需要の停滞】

大塚周一

大塚周一(おおつか・しゅういち)
1951年生まれ、福岡県出身。佐賀大学理工学部物理学科卒業後、進工業を経て、80年日本テキサス・インスツルメンツに入社。98年ソニー入社、2002年エルピーダメモリ入社、04年同社取締役COO、11年6月退任。12年4月ジャパンディスプレイ代表取締役社長CEOに就任。

-- 現在の足元のビジネスの状況は。

大塚 今年の1〜3月から4〜6月にかけて、われわれは非常に厳しい状況にあるというのが、市場の一般的な認識だと思います。一番の問題はマーケットそのものがものすごいスピードで変化していることです。

 この2年間のトレンドとして、中国メーカーの台頭があります。われわれは、グローバルなブランドメーカー向けにある程度のベースラインがあり、その上に中国メーカーの立ち上げを期待していました。ところが中国メーカー向けの売り上げは確かに増えていますが、グローバルメーカー向けの売り上げが大きく落ち込み、トータルで見ると飛躍できていない。それが大きな誤算となっています。

 もう1つの誤算は、タブレットをもう少し期待していました。残念ながらスマートフォンが大型化する中で、この1〜3月あるいは4〜6月はタブレットが軒並み駄目になっています。ここはわれわれの期待をかなり外れたと思っています。

 そういう動きがクイックに来ている中で、残念ながら結果的に季節要因のボラティリティーを吸収できませんでした。この7〜9月も一番大きなリスクは大口顧客向けの立ち上げがどのくらい順調に進むかですが、かなり厳しいというのが実態です。

-- この3月に上場しましたが、当初の予定をかなり前倒ししたと認識しています。それまでは順調だったのですか。

大塚 順調でした。しかし1〜3月あるいは4〜6月の落ち込みがひどかった。それまでの好調に比べると、1〜3月に相当大きくマーケットが動いたことは事実です。

 1〜3月に720HDという規格の単価が約30%急落しました。これは、ある意味で仕掛けられていた可能性もあります。われわれが業界の中で出ようとしているところに対して、快く思っていない人たちもいますから。

-- 貴社はこの春の上場の期待銘柄の1つでしたが。

大塚 われわれもこんな状況になるとは、夢にも思っていませんでした。われわれが成長していくための資金調達手段として、株式上場は一番良い手段だと思っていますし、株式上場そのものに対しては結果的に正解だったと思っています。正解でしたが残念ながら株価を見た時に、株主の方々に対しては大変申し訳なく思っています。

 市場の変化に対する備えができていなかったという点では、基本的にはわれわれの問題だと認識しています。

 

【ジャパンディスプレイの今後;ディスプレー市場の変化への対応は”長い目で”】

大塚周一-- 今後の課題は市場の変化にいかに対応していくかということになりますか。

大塚 市場の変化は現実的に起きてきているわけですから、それに対して、われわれの基本的な戦略は変わっていません。

 高級プレミア価格帯のスマートフォンの成長が鈍化しており、中価格帯、いわゆるボリュームゾーンのスマートフォン向けに参入することが重要だと考えてきました。必ずコモディティ化が起きてくる前提で、昨年の段階で台湾子会社として台湾ディスプレイを作っています。コスト競争力という観点では、日本人の今までのやり方だけでは勝てません。そこのところで台湾ディスプレイを使って勝とうと思っています。

 しかし、この世界のマーケットは読めませんよ。フォーキャストを出せるほど、このビジネスは簡単ではないです。そんな簡単なビジネスだったら、何も私が飛び込んできて、「日本の産業を何とかしなければいけない」という熱い想いを持ってやることではないです。そこで勝つことがわれわれの夢であり、その想いは変わっていません。ですから、株主の人たちには大変迷惑をかけて申し訳ないと思っていますが、われわれが掲げている夢やゴールは変わっていないことをぜひご理解いただき、少し長い目で見ていただければという気持ちを持っています。

-- では、今の株価はもっと上がってしかるべきだと。

大塚 全然納得できないですよ。PBR(株価純資産倍率)が1以下なんてことはとてもじゃないですが、そんな会社を目指してわれわれがやってきたわけではないですよ。でもその先に描かなければいけないのは、きちんと利益を出し続けられる会社です。そのためには、ある程度のマーケットシェアを取らなければいけません。

-- タブレットが思ったほど伸びなかったとのことですが、今後のタブレットの展望は。

大塚 ボリュームベースは思ったほど伸びていないですが、タブレットにおける高精細化に加え、インセルのタッチパネルの取り組みは継続しています。私たちのインセルタッチパネルは、常に進化しています。特に大きなタブレットでは、高感度のインセルのタッチパネルはなかなか実現しにくい。ここを実現した時に大きなバリューが生まれます。タブレットにおけるイノベーションは引き続きやっていきます。

-- アプリケーションでは、車載ディスプレーに注力している印象を受けます。

大塚 車載は将来に対して非常に大きな展望を持っています。これまで大手米国自動車メーカー向けの車載ビジネスに参入できていませんでしたが、ようやくこの環境が打破できました。某大手自動車メーカーから正式に認定を受けて、デザインインをスタートしています。実際的にビジネスとなるのは2016年から17年にかけてですが、米国市場に入れることが車載ビジネスを増やせる1つの要素になっています。

 一方、車載の中におけるディスプレーの搭載率は圧倒的に増えてきています。バックミラーなどの代わりに、後方や側面のカメラで撮った画像をディスプレーに映し出して見ることが一般的になってきています。そういう動きの中で車載用ディスプレーが大きく伸びていく。さらに高精細化が間違いなく進んでいきます。18年から20年ぐらいのタイミングでLTPS(低温ポリシリコン液晶)を使った高精細化が出てくると思います。車載は将来のビジネスの柱になると期待しています。

 

【ジャパンディスプレイの戦略;ディスプレー市場、統合の本質であるシナジーを発揮】

-- 統合からここまでの歩みで、半導体の統合の失敗例がある一方で、貴社の場合は何がうまくいったとお考えですか。

大塚 エルピーダメモリでDRAMを統合した時に経験した問題は、その統合の形態でした。要するに開発コストが高い、設備投資が大きいという、2つのお荷物を軽減することが統合の狙いで、グローバルな競争で勝ち抜くための本質的な狙いを忘れていたのではないかと思います。統合の本質的なシナジーを忘れた統合では勝てません。

 全く同じビジネスモデルの会社が単に統合しただけでは、それが1+1+1が3である限り、シナジーはあり得ません。本社や営業の組織・機能は3分の1にスリムにする必要があるからです。3つの会社が一緒になったら、1+1+1を1にしなければいけません。だからわれわれは統合前に組織を3分の1にスリムにしてきました。

 もう1つの統合のシナジーは、1+1+1を3〜5にしなければいけません。例えばエルピーダの統合の時には、DRAMの技術で、NECの技術のほうがいい、いや日立の技術のほうがいい、というやりとりがありました。こういう不毛な議論をしている間に半年や1年は簡単に乗り遅れてしまいます。

 当社の統合では、例えばLTPSは東芝、システムソリューションはソニーだと決めて、これに対して文句を言わせないようにしました。それをやるために、産業革新機構(INCJ)がやったことは、公平に客観的に判断できる外部のCEOを招聘することでした。これには親会社からの横槍で経営判断に狂いが生じることを防ぐことも狙いでした。そのことは成功しています。

 結果的に3社が一緒になってR&Dのシナジーも上がってきています。われわれは「イノベーションビークル」ということを2年間ずっと打ち出してきています。ベストオブベストの技術を使った商品を出して、世の中の反響を見て、市場のマーケティングをやっていこうということで、これが統合のシナジーの1つです。

 もうひとつは、われわれは設計要員をカットしていません。結果的に3社合わせた人数でデザインインをやれるため、製品開発スピードが圧倒的に上がりました。これも統合のシナジーが1ではなく3以上になったということです。

 統合のシナジーがこれだということを従業員にきちんとメッセージを伝えて、そこのところに対して舵取りをしていくことについては、明確にやってきたと思っています。

(聞き手=本誌・村田晋一郎 写真=佐々木 伸)

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