政治・経済

政府の成長戦略でも、注目度の高い農業政策。農林漁業従事者が生産品の加工、流通を一手に担う「6次産業化」をサポートする動きが広がっている。主体となるのは、官民出資の地域ファンドだ。官民ファンドに批判が集まる中、実効性はいかに。 (本誌/鈴木健広)

民間活力活用で批判を跳ね除けられるか

 政府が成長戦略の1つとして掲げる「攻めの農林水産業」の実現に向け、官民ファンド設立の動きがにわかに活発化し始めている。

 政府は、第1次産業従事者が生産物の加工や流通販売といった2次・3次産業の事業領域への参入で収益強化を図る「6次産業化」推進を目指す。国と民間の共同出資による株式会社「農林漁業成長産業化支援機構」を今年2月に開業、官民共同出資のファンド組成による事業者への資金供給スキームを構築した。

 同機構の大多和巖社長は、「日本は食糧の宝庫。1次産業から3次産業までをバリューチェーンでつないで、地方を何とか元気にしたい」と熱を込めて語る。

 同機構は今年5月27日時点で、民間企業と合同で20のファンド設立に参画した。大内秀彦企画管理本部長は「各地の金融機関らの積極的な取り組みによって、20件もの組成につながった」と笑顔を見せる。

 みずほ、三菱UFJ、三井住友の3メガバンクグループは6月に入って、相次いでファンドへの出資を発表した。三菱東京UFJ銀行とみずほコーポレート銀行はそれぞれ東北地方の金融機関との共同出資によるファンドへの参画を表明。三井住友銀行は子会社で投資業務を行うSMBCベンチャーキャピタルとともに、「SMBCアグリファンド」への出資を公表している。

 金融機関以外にも、居酒屋事業を行うエー・ピーカンパニーやグルメ情報サイトを運営するぐるなびが地域ファンドに出資。地方自治体や農業団体、地元企業からの出資も募っており、金融機関や事業会社が持つ幅広いネットワークや情報網を生かす狙いがある。6次産業化を進めるにあたって大きな課題の1つとされる「営業・販路開拓」の支援を図るという。

 しかし、国民の血税を投入して産業の企業の育成、再生を図る官民ファンドには何かと批判がつきまといがちだ。「ビジネスを知らない官僚らが産業を育成するのは不可能」(高橋洋一・嘉悦大学教授)という意見が少なくない。内閣官房は公的資金による支援への厳しい目を受けて、今年5月に有識者が官民ファンドの運営状況を評価・監視する「官民ファンド総括アドバイザリー委員会」を設置した。批判を跳ね除けて、実効性を発揮することはできるのだろうか。

 「当機構のファンドは、従来の官民ファンドとは性質が異なる」

 こう話すのは、大内管理本部長だ。大内氏は官民ファンドにつきまとう「国による市場への過度な介入」というイメージを退け、「従来のファンド以上に、民間企業の知見やノウハウを積極的に取り入れていく」としている。

 厳しい目が注がれやすい投資対象の選定や実績に関しても、民間の視点を積極的に取り入れる姿勢を強調。投資先の選定プロセスにおいて、地元の産業動向に詳しい金融機関の意見を導入する。

 投資先の最終判断は、同機構の会長を務める堀紘一・ドリームインキュベータ会長のほか、社外取締役で構成する「農林漁業成長産業化委員会」が行う。社外取締役には、農業経営に詳しい阿部禧一税理士ら有識者が就任。「それぞれの知見を生かしていただき、有望先の開拓につなげる」(大内氏)としている。あくまで対象になるのは、「新しいビジネス価値の創造を見込める事業者で、単なる企業の負債処理に陥らないように細心の注意を払う」(同)考えだ。

 同機構は最長15年間とされる出資期間において、投資対象の5年以内での黒字化を目標として掲げている。さらに、10年以内で地元企業への持分売却を進めるという。事業年度ごとにビジネスの進捗状況を適宜評価し、ファンドとしての健全性を確保する方針だ。大内氏は「過去の6次産業化における実績を研究することで、事業リスクを低減できる」と自信を見せる。

恣意的な意見を退け投資の透明性を

 しかし、民の活力を最大限に引き出すためには、課題が残されている。同機構で地域ファンド設立の際に、各種団体や事業者など農林漁業者への意見を聞かなくてはならない。意見として集めるのは、ファンドへの出資と対象事業者に対する貸付に関する支援決定などについてだ。大内氏は「水利権の調整など、あくまで地域農業の調和が目的」とコメント。農林水産省大臣官房政策課も、「あまねく意見を募集するのであって、特定の事業者の利害に配慮することは一切ない」としているが、有望な投資対象への出資が一部の意見で阻害されないか気がかりだ。

 大手金融機関のエコノミストは「農業や医療など将来的な成長が見込める産業への支援であれば、官の介入は認められる」と、今回の取り組みに一定の評価を与えている。しかし、「ファンド運営に恣意的な意見が持ち込まれるのなら、官がかかわる意味は全くない」と手厳しい。

 ファンドに出資する金融機関トップからは、「危機感を持った事業者の奮起を求めたい」(長谷川吉茂・山形銀行頭取)、「当行の営業エリアにこだわらず、地域全体で有望先を支援したい」(高橋真裕・岩手銀行頭取)という声が挙がっている。同機構も「ファンド設立の動きを一層促して、事業者のユニークな取り組みを支援したい」と意気込む。農業強化の理念を生かすには、農林漁業者の意欲を削がない投資プロセスの透明性が求められる。

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