マネジメント

 現在、セーレンの国内自動車メーカーにおけるシェアは40%。世界でのシェアは15%と圧倒的だ。社長になっても川田氏は異端児のレッテルを貼られた。2005年に斜陽産業で再起不能といわれていたカネボウの繊維部門を買収した時だ。これは原糸メーカーという川上を買って、糸から織、編み、染色加工、最終製品まですべて自社で川下までもカバーすることを意味した。そのような会社は国内にも海外にも例がない。

最前線で働く社員の意見を吸い上げる

 トップとなった川田氏が取り組んだのが、次のリーダー育成の仕事。「セーレン塾」なるものをつくって、リーダーの短期育成を試みた。司馬遼太郎の『坂の上の雲』を論読したりもした。だが、この塾は失敗に終わる。

 「リーダーは育てられません。それが持論です。企業が急激に成長すると人が育つスピードが追い付かない。人の意識を変えるというのはほとんど不可能だと思っています。人と過去は変えられません。今もセーレンには委託賃加工業時代から蓄積された負の文化やDNAを引きずっています。まだまだ変革は十分ではありません」

 川田氏は7年ほど前から、グループを磨き上げていく作業に傾注している。

 「課長は課の問題を解決していくのが仕事です。皆が問題点を出してそれをスピード解決して行く。部長は部の問題を解決していくのが仕事。最前線で働く人間の意見を吸い上げて、それを次々に解決していくのが長の付く人間の仕事です」

 川田氏のように大声で主張する人間は少ない。そこで声を吸い上げるシステムを築いたのだ。塾でリーダーを育てることはできなかったが、組織のピラミッドを引っくり返す手法は功を奏しているようだ。川田氏は、一般的に目覚ましい業績を上げる企業のトップに主流派は少ないと見る。脇道にそれて過酷な条件の中で実績を上げ、実力を磨いた人間こそトップに相応しい。川田氏は言う。

 「経営者は会社を存続させることが仕事で、それには3年先、5年先、10年先を読んで手を打っていかなければいけません。それには現状の常識から離れる必要があります。現状と軋轢を生みながらも未来を見据えて先手を打つのが仕事です。経営の問題は論理的に説明はできないと思います。後付けで説明できるのはせいぜい2割くらいのもの。ほとんどは厳しい環境で培われた直感や人との出会いによって成ると思います」

 次の川田氏は、今どこに潜んでいるのだろうか。

(文=ジャーナリスト/戸田光太郎)

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