政治・経済

 果たして、その後はどうなったのか。そう思いたくなるのが、シティバンク日本法人による個人金融部門の売却だ。早々に売却を済ませたい売り手側とリスクを明確にしたい買い手側の思惑の違いが明白となり、依然として着地点は見えないままだ。

消費者金融ビジネスで屋台骨が揺らぐ

 シティバンク日本法人の個人金融部門売却には、三菱東京UFJ、三井住友、みずほの3メガバンクのほか、りそな、新生、三井住友信託という合計6銀行が9月12日の第1次入札に応札した。このうち、みずほ、りそなの2銀行がレースから脱落したことまでは明らかになったが、10月初旬まで、全く音沙汰なしの状態になってしまっている。

シティバンク

買収協議が膠着するシティバンク(Photo/EPA=時事)

 米国のシティグループと言えば、世界最大の銀行として知られている。今回、売却話が出ているのは、そのシティグループのシティバンク、エヌ・エイの傘下にある日本法人、シティバンク銀行の個人金融部門だ。輝かしい歴史があることは疑いの余地はないものの、サブプライム危機以降、米国の金融規制が格段に厳しくなる中で、巨大な規模を維持することが困難となってしまったシティグループでは、収益性の低い事業が次々に売却されている。その順番が日本法人にもめぐってきたのだ。

 実際、シティバンク銀行は近年、赤字垂れ流しの状況にある。歴史的な超低金利が長期化するなかで、ローンなどの収益力などが厳しくなっていることはシティバンク銀行に限らないが、一時は、邦銀もうらやむほどの収益力を誇示した同行が落ちぶれた背景には、別の理由もある。

「邦銀では提供できないサービス力。競争力のある住宅ローン」

 こんな評判が立っていた時期もあったものの、実は、シティバンク銀行の個人金融部門の収益を支え続けてきたビジネスは消費者金融にほかならなかった。ところが、貸金業法の施行に伴って貸付金利の大幅引き下げを余儀なくされた上、過去に実行した高金利の消費者ローンに対する過払利息返還請求が増大。消費者金融ビジネスは火の車へと転じて、結局、屋台骨が揺らぐことになってしまったのだ。

 それだけではない。得意分野とされた富裕層ビジネス(プライベートバンキング)などで法令違反が発生し、事実上、この事業の撤退が避けられなくなったという経緯もある。

 一方、今回の売却では、クレジットカード事業、外貨預金などが対象となっており、買い手は、それらの将来性をいかに見るかによって買収金額をはじき出すことになる。あとは、国内のATMネットワークも売却対象だが、まず、ATMネットワークについては「全く興味がない」というのがほとんどの銀行のスタンス。シティバンク銀行のATMが設置されている首都圏では、既に、邦銀でも過剰と言えるほどのATMネットワークが張りめぐらされているからだ。

 さらに、1兆円という規模の外貨預金についても、「買った途端に、ほとんどが解約となるのではないか」という推測が銀行業界でなされている。

 「外貨預金をしている顧客は、今は、シンガポールのシティバンクで帳簿管理されている日本の富裕層のはず。したがって、事業売却となれば、顧客はシンガポールでの取引に移行する」(大手銀行幹部)

 つまり、買収した後、顧客は外貨預金解約とともに去って、譲り受けた個人金融部門の行員だけが残るという事態になりかねないわけだ。それでは、収益力どころか、とんだコストを背負い込むだけになってしまう。

株主代表訴訟のリスクも

 そうした中で、第2次入札へと向かう三菱UFJ、三井住友、新生、三井住友信託の4銀行はどう動くのか。

 まず、はっきりしていることは売却条件の明確化をシティバンク銀行に迫るということだろう。第1次入札は「入札」という表現が当てはまりにくいほど、シティバンクからの情報提供は乏しかった。きちんとしたペーパー形式の資料の提供はなく、曖昧な口頭説明だけだった上に、いわゆる、財務、法律上の第三者がアドバイザーとして設置されるという形態にもなっていなかった。「入札ではなく、挨拶代わり」と揶揄されたほどである。

 万が一、この先も同様の状況となれば、ほとんどの銀行は応札に消極的なスタンスとならざるを得ない。そんな状態にもかかわらず、応札した上に落札となれば、今度は自身の株主から株主代表訴訟を提起される恐れもあるからだ。買収後にコスト倒れということになれば、十中八九、代表訴訟のリスクが発生するにちがいない。それを回避するには、単なる事業買収にとどまらず、米国のシティグループ本体との間で、本格的な事業提携などのプラスアルファを上乗せする必要がある。

 となれば、買い手候補との協議相手は、シティバンク銀行という日本の出先機関ではなく、ニューヨークのシティグループ本体となることは間違いない。だが、シティ側にとっては、今回の売却話は単なる不採算部門の切り離しで、それ以上の展開を想定しているとは考えにくい。

 第2次入札以後も、全く進展が見られないのも、売り手、買い手の間に思惑の違いが明白になっている中で、協議が自ずと膠着状態化した結果とみることができる。しかし、明白なのは、日本の個人金融部門の売却というだけであれば、よほど冒険好きな銀行でない限り、手の出しようもないということだろう。冒険の最大の危険性が代表訴訟リスクであることは明らかだ。

(文=ジャーナリスト/小倉 淳)

 

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