国際

【佐藤優 NSAの個人情報収集行為を公開した職員の勇気】

 NSA(米国家安全保障局)は、CIA(米中央情報局)やFBI(米連邦捜査局)に比べると、一般にはそれほど有名ではない。ただし、インテリジェンス(諜報)専門家にとって、NSAが米国の技術力を用いて、盗聴、通信傍受を行う世界最強のシギント(通信、電磁波、信号などを用いたインテリジェンス活動)機関であることは有名だ。6月初め、米政府がテロ対策のためにインターネット上のメールやフェイスブックでのやりとりなどの個人情報を極秘裏に収集していることが明らかになった。6月5日、英国の『ガーディアン』紙が、NSAが米国の電話会社ベライゾンの通話記録を毎日数百万件収集していると報じた。翌6日には、米国の『ワシントン・ポスト』紙が「PRISM」と呼ばれるプログラムを用いてNSAとFBIがインターネット上の個人情報を集めていたことを明らかにした。インテリジェンス業界においては、米国政府がウエビント(ウェブサイトを用いたインテリジェンス活動)を行っていることは公然の秘密で、「PRISM」の存在も以前から報道されていた。それだから、これらの報道自体は、それほどセンセーショナルな内容ではない。

 しかし、この秘密情報をマスメディアに暴露したのがNSAの契約職員エドワード・スノーデン氏(29歳)だということが明らかになり、事態が急展開した。同氏は、以前、CIAの技術職員として勤務していたことがある。しかも、同氏は米当局の捜査によって追い詰められて、情報漏洩を認めたのではなく、6月9日に自らが告発者であると『ガーディアン』『ワシントン・ポスト』両紙を通じて名乗り出た。

【佐藤優 個人情報収集に対する過剰な正義感がはらむ危険】

 スノーデン氏は5月20日から香港に滞在し、米政府との対決姿勢を鮮明にしている。6月17日、スノーデン氏は、〈「私を刑務所に入れたり殺したりしても、米政府は(真実を)隠し通せない。真実(の暴露)は止められない」と訴えた。(中略)/スノーデン氏は香港入りした理由を米国では公正な裁判が受けられないためだと説明。「米政府は、私を裏切り者だと断じ、公正な裁判をする可能性をつぶした。秘密裏の犯罪行為を暴露することが、許されない犯罪だとした。これは正義ではない」と主張した。/「そんな政府に自ら名乗り出るのはばかげている。(米国の)刑務所の外からの方がより多くの善行ができる」とし、「国家の最高機関が監視から逃れることになれば、政府への信用はなくなる」と述べた。/政治亡命と引き換えに中国政府に情報提供したとの見方は全面的に否定した。「中国政府とは接触していない。もし私が中国のスパイなら、どうして北京に直接飛ばなかったのか。今頃は宮廷で不死鳥をなでていただろうに」と語った。〉(6月18日『朝日新聞デジタル』)

 スノーデン氏の年収は〈約20万㌦(約1980万円)〉(6月12日『朝日新聞デジタル』)なので、高校中退者の中ではかなりの高給取りだ。スノーデン氏が情報発信を香港で行っていることから、中国のインテリジェンス機関とつながっているという憶測を述べる人もいるが、根拠は薄弱だ。同氏が中国のエージェントだったならば、名乗り出たりせずに、密かに中国のインテリジェンス機関に機密情報を流し続けるほうが、合理的行動だからだ。

 そうなると、スノーデン氏自身が〈「米政府が世界中の人々のプライバシーやインターネット上の自由、基本的な権利を極秘の調査で侵害することを良心が許さなかった」〉(6月12日『朝日新聞デジタル』)と述べた内容が真実の動機である可能性が高い。このような「間違えた世の中は俺が正す」というような純粋な正義感を持つ人間をインテリジェンスに関与させると必ずトラブルが生じる。CIAは、シギント、ビジント(偵察衛星や無人偵察機を用いたインテリジェンス活動)には強いが、ヒュミント(人間によるインテリジェンス活動)に弱い。スノーデン氏の過剰な正義感がはらむ危険を採用時にCIAが見抜けなかったことが、この事態を引き起こしたと筆者は見ている。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓也(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る