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円安の恩恵に浴する側と不利益を被る側

 ドル円相場が1ドル=110円をつけるなど円安が加速している。それを受けて、経済界や市場関係者の間で円安をめぐる議論が熱を帯びてきた。これ以上の円安は日本経済にとってプラスなのか、という議論である。

 きっと本誌の別のページでも、本稿のほかにもそのような議論が展開されていることと思う。為替レートは2国間の通貨の交換比率である。だから、本来は「円が強い」とか「円が安い」というような表現は一概にはできない。円の総合的な価値を測るには「実質実効為替レート」というものが用いられる。

 「実質」とは、名目の為替レートを、自国と他国のインフレ格差で調整することである。例えば、日本製品の価格上昇率がゼロで、米国製品の価格上昇率が10%であれば、名目のドル円レートが変化しなくても米国製品は割高になるため、日本製品の対外競争力は10%改善する。

 「実効」とは、複数の為替レートを、貿易量などを基準として加重平均することである。対ドルでは10%競争力が改善していても、対ユーロ、対ウォン、対人民元では、10%競争力が悪化していれば、日本製品の対外競争力がグローバル全体で改善しているとはいえない。

 ある分析によれば、現在の円レートは実質実効ベースで、円が変動相場制に移行して以来の最安値水準にあるという。これ以上の円安は未曽有の領域に足を踏み入れることになり、日本経済にとってのマイナス面のほうが多くなるという意見もある。

 無論、ものごとには常にメリット・デメリット両面があるので、「(円安は)良い・悪い」の二元論で決着がつくような話ではない。「デメリットもあるが日本経済全体で見れば現時点ではメリットのほうがまだ大きい」というのがコンセンサスのように思われる。

 メリット・デメリット両面がある、と述べたが、正確に言えば、恩恵に浴する側があり、不利益を被る側がある。だから、「日本経済全体で見れば」とか「(メリット・デメリットを)ネットアウト(相殺)すれば」というのは実態のない議論である。「日本経済全体」という主体も、相殺された主体もないからである。

 「現在の円安水準ではまだメリットのほうが大きい」というのは、大企業製造業などグローバルプレーヤーの視点に立った意見だろう。円安にもかかわらず日本からの輸出が伸びないが、それは長く続いた円高に対応するため製造業の海外生産移管が進んだせいである。よって、以前に比べて円安の効果は限られるものの、韓国企業等ライバルとの価格競争力は確実に増すし、円換算の収益が増加し為替差益が企業業績を押し上げる。海外でビジネスを行っている企業にとっては、円安はメリットのほうが大きいことが明らかである。

 一方、内需企業にとっては円安はメリットがないばかりか、デメリットが大きい。消費増税後の落ち込みからの持ち直しが鈍いところに、輸入コスト増で値上げを強いられる。さらに人手不足による人件費高騰も追い打ちをかける。

鮮明になる日本経済の二極化

 好調な外需・製造業と低迷する内需・非製造業という二極化の構図が鮮明になっている。月初に発表された9月の日銀短観の結果もそれを裏付ける内容だった。

 大企業非製造業の業況判断DIは前回調査から大きく落ち込んだ一方、大企業製造業のDIは、低下を見込んでいた市場予想に反して改善を示した。ところがDIが改善したのは「大企業」の製造業だけであり、中堅・中小企業は製造業であってもDIは悪化している。二極化は、外需・製造業VS内需・非製造業という構図だけでなく、大企業VS中小企業、都市部VS地方、といろいろなアングルでとらえるべきであろう。

 東証1部の時価総額比率は、製造業が半分、非製造業が3割、残りが金融業である。製造業:非製造業:金融業の時価総額比率、5対3対2はそっくりそのまま利益額の比率でもある。上場企業の時価総額と利益で見れば、半分が製造業だ。

 しかし、日本全国、中小企業も含めた会社の「数」では、製造業の比率は1割に満たない。圧倒的な大多数は国内のローカルなサービス産業である。繰り返すが、彼らにとっては円安はメリットがないばかりか、輸入コスト増でデメリットのほうが大きい。

 グローバルプレーヤーが主役の上場企業の視点に立つか、大多数の内需産業主体の国内景気の視点に立つかで円安のとらえ方は180度違ってくる。代表的な景気指標のGDPはGross Domestic Product、文字通りDomestic(国内)の景気動向を表す指標だ。いくらグローバル企業が海外で稼いでも(輸出が増えなければ)GDPにはカウントされない。

 こうした中で、安倍首相は来年10月にまた消費税の引き上げを予定通り行うか否かの判断を年末までに決定する。安倍首相が耳を傾けるのはどの側の声だろうか。

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