政治・経済

 海外の都市が力をつけ、東京のプレゼンスが低くなっているという。東京の力が落ちれば、地方都市にも影響がおよび、日本の地盤沈下の原因になりかねない。国際ビジネスの拠点として東京が再び存在感ある都市となるためにはソフトとハード両面での大胆な都市開発が必要不可欠だ。2020年東京オリンピック・パラリンピック開催の決定などで、東京の街は都市開発ラッシュに沸くが、これからどのような未来を描き、どのような心構えで都市開発を行うべきなのだろうか。(本誌特別取材班)

今、日本はどのような立ち位置にいるのか

 日本は今、国際都市間競争の中で、どのような位置にいるのだろうか。英国の会計事務所プライスウォーターハウスクーパースが発表した「世界の都市力比較2014」を見ると、東京は総合ランキングで30都市中13位。評価を詳しくみると、都市の国際性を測る「ゲートウェイ機能」を始め「知的資本・イノベーション」、「技術の成熟度」、「経済的影響力」などが高評価を得た。一方、「持続可能性と自然環境」ではその領域の指標である「自然災害のリスク」がネックとなっているという。

世界30都市の総合ランキング(上位15都市) また森記念財団も毎年都市の総合力ランキングを出しており、東京は4位を維持している。10月に発表されたデータによれば、外国人旅行者数の増加により文化・交流分野でスコアを伸ばし、3位パリとの差を縮めている。しかし1位のロンドンがさらに力をつけ、2位のニューヨークとの差は広がった。5位のシンガポール、6位のソウルもスコアを伸ばし、東京を急追している。一方、経営者だけの評価に限定すれば、東京の評価は世界9位。アジアではシンガポール、香港、北京、上海に次ぐ。

 本社が米国など海外にある外資系企業が、アジアのヘッドクオーターとして、どの都市に拠点を置いているかを経済産業省がまとめている。ここでもシンガポールの拠点が多く、中国や香港に比べて日本は下回る。アジア諸国とのGDPを比較した時、2003年には日本は44・2%あった。しかし13年は20・5%と中国の36・7%を下回った。

世界の都市総合力 2014年総合ランキング結果(上位5都市) これらのデータから読み取れることは、少なくとも国際都市間競争において、他国が力をつけてきており、日本、とりわけ東京の存在感が薄れているという現実だ。アジアの中では、特にシンガポールが急追している。シンガポールはかつて英国の植民地で、英語が通じる環境があり、中継貿易で栄えてきた歴史的背景からも国際ビジネス都市として強い。都市国家であることや、ASEAN諸国やインドとのアクセスがよいというメリットもある。中国も広大な市場を持つことから、香港や北京といった都市が力をつけている。

日本が都市間競争で負けないためのプロジェクトとは

外資系企業のアジア・オセアニア地域統括拠点数 日本が存在感を出すために何をしなければいけないのだろうか。もちろん首都・東京だけが力をつけ、地方都市からのストロー現象が起き、日本全体の活力がなくなってしまえば意味はない。そこで、海外からの旅行者数を伸ばすのみならず、海外からのビジネス人口を増やすことが必要になる。そのためにも、まずは名実共に力のある東京が先頭を走ることが重要となり、その波及効果として地方の活性化も進むことが望まれる。国土交通省などはグローバル企業の立地を促進するため、国際的なビジネス環境・生活環境を整備することが必要と主張する。これには大胆な都市開発とインフラの整備を切り離して考えることはできない。

アジア諸国における市場としての日本のプレゼンスの推移 「都市間競争で負けない日本をつくる」という共通の目標を持った今、東京では多くのプロジェクトが予定されている。整備を後押しする契機となったのが、20年東京オリンピック・パラリンピック開催の決定と、政府による国家戦略特区の実施だろう。オリンピックは大会日時も決まっており、それに向けて施設やインフラの整備などが求められる。全国6地域限定で規制を緩和する国家戦略特区は、限られた地域のみで行うものという特徴もあり反対意見も聞かれるが、まずは大胆なプロジェクトを行い、その効果を見極め、範囲拡大を検討することが今後必要になる。

 東京で現在予定されている都市開発を次ページの地図で大まかにまとめた。

五輪と戦略特区で東京は変わるのか

東京23区で行われる主な都市開発

東京23区で行われる主な都市開発

 東京オリンピック・パラリンピックは「世界一コンパクトな大会」をコンセプトにしており、選手村を中心に8キロ圏内に多くの競技会場を設ける。よって、東京では多くの開発が予定される。例えば国立競技場跡地に整備されるオリンピックスタジアム、東京都が中央区晴海地区に整備する選手村などだ。選手村は民間企業により整備され、大会終了後には住宅施設として分譲される予定だ。

 オリンピックレガシーと呼ばれるとおり、開催後も長きにわたって開催国に享受される社会的、経済的恩恵に期待がかかる。実際、ロンドンはオリンピック終了後も都市ランキングで上位に位置し、力を持ち続けている。しかし、オリンピックを目標として開発を進めた結果、翌1965年に一時的に景気が落ち込んだ日本を思い起こすことも重要だ。長期的に成長できるプランを持たなければ、オリンピックの恩恵は受けられないだろう。

 10月1日に始まった国家戦略特区の「東京圏」における議論で公表された素案からも、今後の開発が予測できる。大手町では三菱地所による東京駅前のランドマークとなる国際金融・ビジネス交流拠点の整備、リニア始発駅整備が予定されている品川駅の北側では、東日本旅客鉄道による新駅と国際拠点の整備、さらに今年オープンした虎ノ門ヒルズ周辺では森ビルと森トラストが日比谷線新駅の整備と併せ、外国人向け生活支援を充実させる方針だ。

「松坂屋銀座店」跡地を含む2街区で森ビルが再開発を進める

「松坂屋銀座店」跡地を含む2街区で森ビルが再開発を進める

 国家戦略特区以外にもプロジェクトは多い。森ビルは24年までに港区において約10事業を1兆円規模で展開し「国際新都心」の形成を目指すほか、J・フロント リテイリングなどと共同で松坂屋銀座店跡地を含む街区で開発を進める。同じエリアでは東急不動産も数寄屋橋交差点で大型開発を進める。

 一方、渋谷では東急電鉄と東急不動産などがプロジェクトを持ち、街の様子が変わることが予想される。三井不動産は八重洲周辺を含む日本橋界隈の再開発のほか、「(仮称)新日比谷プロジェクト」として、劇場や国際的なホテルが多い立地を生かした開発を行う。

 東京23区内の大型再開発は、どれも地域の特色を生かし、国際都市・東京を強く意識したプロジェクトとなっている。このベースには、東京都が09年に策定した「東京の都市づくりビジョン(改定)」がある。ここには目指すべき都市像や戦略、地域ごとの開発の方針が明らかになっている。自治体は戦略等を描くものの、開発の先頭に立てないジレンマがある。しかし、民間でバラバラに開発を進めても真のまちづくりにはならない。未来地図を示した上で、東京都の誘導の下、官民、地権者、住民が連携してまとめ上げる必要がある。

東京が国際ビジネス都市になりきれない理由

東急不動産が銀座・数寄屋橋交差点で開発している「(仮称)銀座5丁目プロジェクト」

東急不動産が銀座・数寄屋橋交差点で開発している「(仮称)銀座5丁目プロジェクト」

 前述したように、プライスウォーターハウスクーパースの分析では「自然災害のリスク」の評価が低いことが、東京が国際ビジネス拠点となりきれない要因の1つだ。このリスクは海外からの評価のみならず、日本に住む多くの人が重要視する社会課題の1つでもある。東京に限らず、日本、世界が抱える課題解決に挑戦する姿勢は、より魅力的な都市をつくる上で重要だ。

 都のビジョンにも、安全性の高い都市の実現の文言があり、大規模都市開発では「逃げ込める機能」「BCP(事業継続性)対策」を考えた開発が多い。これらを強く海外に発信していくことで評価を高めなければならない。また、大型開発が進められていない木造住宅密集地域などでは都が不燃化や耐震化を進めている。局地的大雨における水害対策なども含めて、インフラの整備がしっかりと行われれば、総じて東京の総合力を押し上げるきっかけになる。

 ほかにも、日本には少子高齢社会に対応したまちづくり、環境問題、低炭素型都市への転換を図る都市整備などが複合的に織り交ざれば、国際的な評価もついてくるはずだ。

 日本、中でも東京の評価を高めることは一朝一夕にできるものではない。都市の魅力を発信し続け、市場価値の高い都市の構築に向けて、地道な努力は続く。東京五輪に向けた開発ラッシュが大きく伝えられているが、終着点はさらに遠い未来にあることを意識しなければいけない。そして、日本の地盤沈下を防ぐためにも東京の存在感を高め、23区外や地方に波及効果が出るようなハードとソフト両面での取り組みが必要だ。

(文=本誌/長谷川 愛)

東急不動産の道玄坂一丁目における再開発は、渋谷駅西口の玄関口として期待される

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三井不動産の「(仮称)新日比谷プロジェクト」は2017年度に完成予定

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