マネジメント

 渋谷駅周辺開発、銀座の数寄屋橋交差点エリアの開発など、大型プロジェクトを進める東急不動産。今年4月、社長に就任した三枝利行氏が語る言葉からは、渋谷や銀座それぞれのアイデンティティを守りながら、新しい魅力を与える街づくりへの思いが感じられる。どのように街をとらえ、未来を描いていくのか、そして、三枝氏自身が抱く「企業の社会貢献」についての考えを聞いた。

三枝利行氏の戦略 渋谷の自由な魅力とオフィスを融合させる

三枝利行

三枝利行(さえぐさ・としゆき)
1958年東京都生まれ。81年青山学院大学経済学部卒、東急不動産入社。2008年執行役員資産活用事業本部長兼資産開発部統括部長、09年執行役員経営企画部統括部長、11年取締役常務執行役員事業創造本部長を経て、14年4月より現職。東急不動産ホールディングス取締役副社長執行役員も務める。

-- 東京オリンピック・パラリンピックが決まり、建設ラッシュが続きます。

三枝 ここ数年で状況は大きく変わりました。以前は東京の郊外で一戸建てを構えることこそが人生という思考がありましたが、今は、都心の好立地エリアに人が集中しています。高齢の方は都心部の利便性にひかれ、若年層も「職住接近」を好み、湾岸部の高層マンションに住まう傾向が出てきています。間取りも昔は3LDKなどが人気でしたが、今は少子化に伴いリビングが広く、個室は2部屋という住まい方が比較的好まれるようです。

-- 激戦の時期ですから、他との差別化が必要になります。

三枝 単体の土地だけではなく、街区として再開発を進め、新しい住まい方、働き方を提案するといったように付加価値をつけていくことが重要です。われわれは「街づくり、ものづくり」のDNAがありますから、今がチャンスととらえて、開発を進めます。

-- 渋谷駅周辺の開発プロジェクトは2020年の東京オリンピックに向けて特に大きな目玉になります。

三枝 当社では道玄坂街区と桜丘口街区の開発を進めています。少なくとも20年までには東急グループが進めている渋谷再開発のうち、いくつかのビルを完成させたいと思っています。

-- 渋谷のポテンシャルをどのように感じていますか。

三枝 渋谷は学生時代から通っていたこともあり、馴染みのある土地です。もともとは飲み屋街だった渋谷に西武百貨店が開業、その後109などができ、若者ファッションと情報発信の拠点となりました。自由闊達な空間が渋谷の良さです。そこにひかれて、インキュベーティブなIT企業が育ち、今もDeNA、サイバーエージェントなどが拠点を置いています。渋谷は今まで、単なる「ファッションの街」でしたが、ビジネスもできる街になる可能性があると思います。

-- 開発によってオフィス面積を広げる計画です。

三枝 渋谷にはオフィスが少なかったのですが、ここにきて企業が高い賃料でも渋谷に社の拠点を置きたいという要望が多くなりました。ただ、単なるオフィスにしてしまうと、今まで渋谷に愛着を持っていた人たちや、インキュベーティブな企業が集まらなくなります。丸の内や日本橋にはない、渋谷の自由闊達な渋谷らしさを残しながら、オフィスも作っていく。その融合を実現させたいと思っています。

-- 丸の内や日本橋とは違ったものということですね。

三枝 われわれのターゲットは丸の内や日本橋で働く人ではありません。例えばノマドワーカーのように、会社から抜け出て、カフェでパソコンを使って働くような人もいます。そういう自由な働き方を好むような人が、渋谷に集まるようにしたい。渋谷のアイデンティティを残すような形で都市再生したいですね。

-- そのための仕掛けづくりを東急不動産としてつくり出す必要があります。

三枝 われわれが作るものは言わば「箱」ですから、中に入ってくる人によって印象は変わります。しかし、ターゲットとする企業が気に入るようなオフィスを作り、彼らが「素敵」と思う店舗を入れるといった仕組みを加えることでつくり上げなければいけません。渋谷という街の良さが失われない限りは、勝算はあります。

-- 交通アクセスの改善も、渋谷で行われる計画です。

三枝 東急電鉄が羽田からダイレクトに渋谷へ入って来られるような計画を考えられていますが、実現すれば渋谷へのアクセスが向上し、より魅力ある場所になると思っています。渋谷は海外観光客からも人気で、このエリアの若者ファッションや、クールジャパンの要素を感じ取りたいと考える観光客は多いです。浅草や上野とは違う、日本の新たな価値を発信する上で、渋谷は外せない場所です。その点に注目して、よりブラッシュアップしていきたいなと思っています。

「都市開発は相乗効果 海外からの誘客図る」と語る三枝利行氏

三枝利行-- 2年前開業した東急プラザ表参道原宿は活気があります。

三枝 単体の商業施設としての活気はうれしいものですが、やはり都市開発は街対街の戦いです。この施設に行きたいと思うよりも、「表参道」を目的地に遊びに来るはずです。だから、新宿でも銀座でもなく渋谷や表参道を選んでもらわなければいけない。その意味で、街全体の魅力をつくることが重要です。

 東急プラザ表参道原宿のような起爆剤を作ることで、街の人を後押しし、活性化を促す必要があります。全部が自分の土地になれば好き勝手にできますが、街づくりはそういうものではありません。われわれの使命は、街に刺激や勇気を与え、街を変えるきっかけをつくることです。

-- 銀座の数寄屋橋交差点の開発も重要なプロジェクトです。

三枝 銀座には、四方を道路に囲まれ、大きな交差点に面したこれだけの大型商業施設は珍しく、世界からも注目されるものになると思います。だから外壁のモチーフは江戸切子を使うなど日本の伝統を生かした施設にします。NYに行けば必ずタイムズスクエアの名が出てきます。日本の東京と言えばここ、数寄屋橋の東急ビルだと思われるようしたいと思っています。

-- 銀座の再開発は各社が取り組んでいます。これらは競合になるのではないでしょうか。

三枝 相乗効果が期待できると思っています。上海やNYでもなく、東京に行きたいと思ってくれるように仕掛けなければいけません。銀座は、東京の中でも人気観光地。松坂屋跡地でも魅力的な施設を作り、われわれも数寄屋橋交差点で良い施設を作れば、世界中から多くの人を呼び寄せ、銀座を活性化できます。われわれの責務は、海外からも訪れてもらえる魅力的な施設を作ることです。多くの観光客が来れば、日本は活気づく。われわれは短期的に都市開発を見ていません。日本の成長とともに、銀座もわれわれの施設も成長していきます。

-- そうした時に、東急不動産としての強みを発揮しなければいけませんね。

三枝 東急不動産として、もう一度、ものづくりの原点に帰るときだと思っています。当社は長く、渋谷で成長してきた企業ですから、その自由さや、クールな一面を想起していただけるようなものづくりができる企業にしていきたいです。

三枝利行氏の思い 土地でビジネスして生まれた利益を還元

-- 一方で、三枝社長は今後、都市開発事業以外にも農地再生ビジネスや海外事業などにも積極的に取り組む方針を掲げていますが。

三枝 都心の土地でビジネスし、そこで生まれた利益は、日本の将来に向けてどこかでお返しする必要があると、私は思っています。例えば、経済成長に伴い、地方の農業は厳しい状況に追い込まれました。そこで生まれた耕作放棄地を再生することで支援する仕組みをつくりたいと考え、われわれが開発を予定していた千葉の土地を農業法人と共に農地再生することになりました。

-- 都市と地方の違いはあったとしても、土地に付加価値を与える街づくりのノウハウは生かすことができます。

三枝 われわれは、都市部だけではなく地方でも土地の有効活用はできます。得意とするゴルフ場運営のほかにも、今は農業でビジネスが可能となります。特に日本の食は世界でも誇れるもので、それを支える農地再生事業は重要です。地方で作った野菜を、われわれが運営するホテルに卸すことも、都心の居住者をお連れして、家庭農園としての利用を促すこともできます。農地を利用した再生エネルギーや太陽光事業も始めています。こうして地方創生に一役買えればと思います。

-- 一方で海外事業は、少子高齢化と人口減少の日本社会において、企業を存続させるためには必要な要素になります。

三枝 国内でのチャンスは今よりは少なくなるかもしれません。そういった意味で、人口増加している国に、チャンスを求める必要はあります。当社は40年近く、インドネシアで開発事業を続けています。単なるインベスターではなく、住宅、商業施設、オフィスビル、リゾートを含めた街づくりを展開していきたいと考えています。

-- 早くからインドネシアで事業を始めたことには理由があるのでしょうか。

三枝 初代社長の五島昇の環太平洋構想がきっかけです。東南アジアが発達するように協力していこうということですが、最近のインドネシアは政治、経済も安定し、人口も2億4〜5千万人います。日本のメーカーも進出していますから、メリットは大きいと思います。

(文=本誌/長谷川 愛 写真=西畑孝則)

 
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