文化・ライフ

筆者プロフィール

(よねやま・きみひろ)作家、医師(医学博士)、神経内科医。聖マリアンナ大学医学部卒業。1998年2月に同大学第2内科助教授を退職し、著作活動を開始。東京都あきる野市にある米山医院で診察を続ける一方、これまでに260冊以上を上梓。講演会、テレビ・ラジオ出演、テレビ番組企画・監修も行っている。NPO日本サプリメント評議会代表理事、NPO日本プレインヘルス協会理事。

 

本当の意味での医療費削減とは

 一般的に「医療費」とされる「国民医療費」は、病気・けがの治療で全国の医療機関に支払われた金額を指し、その総額は2011年で38兆5850億円に達している。

 これだけでも相当の額だが、加えて、介護保険料の総額は12年度で8兆9千億円に上り、介護サービス・有料老人ホームでは09年で約4兆2千億円を売り上げている。健診・人間ドックに支払われた金額も12年に9100億円に達し、各自治体で行っている特定健診費は約800億〜1400億円規模とされる。医療機器の市場も2兆3860億円(11年度調査)と巨大で、一般薬市場とトクホ製品市場は13年でそれぞれ6千億円超。健康食品市場も13年度で7千億円規模に達している。

 このように、一般に医療費とされる領域以外でも、多くの費用が、医療・健康のために費やされている。したがって、本当の意味での医療費削減を目指すのなら、健康保険にかかわる医療費のみならず、より総合的な視点で削減の施策を考えていく必要があるだろう。

健診・禁煙では医療費削減はできない

 厚生労働省(以下、厚労省)は、特定健診による生活習慣病の減少で25年には2兆円規模の医療費削減が見込めるとしている。だが、それを裏づける疫学的なデータはなく、「人間ドックや特定健診を受けて健康を管理すれば、病気になりにくくなる」とは言い切れない。また、そもそも健診が医療費削減につながるかどうかも不明で、海外の研究を見ると、健康増進活動により、むしろ医療費が増大するとの説も少なくない。

 例えば、「禁煙」は医療費削減に逆効果らしく、日本の研究でも、禁煙治療をした人や非喫煙者のほうが、生涯医療費が高くなるとの結果が出ている。さらに高血圧・脂質異常症・糖尿病といった慢性疾患の治療も、寿命は延びるが、トータルの医療費はかさむことになる。

健診は減らすべし

 医療費が膨らんでも、寿命が延びるなら、個人としては歓迎すべきことかもしれない。

 だが、健診については、健康寿命が延びる保証はなく、医療費削減のためにも即刻取りやめるのが得策と言える。

 もちろん、国民感情や厚労省の予算枠、医師会の反発などを考えると、いきなり特定検診をストップするのは不可能だろうが、「特別なリスクのない人の健診は5年に1回に減らす」といった削減策は打つべきだ。

 加えて、病気で医者にかかっている人が特定健診を受けるというのも無駄なので、それが排除できるような制度を設けたほうが良い。

 さらに、75歳以上の高齢者についても特定健診の対象から除外すべきだろう。75歳以上の高齢者の場合、特定健診結果の比較対象である基準値が存在せず、検査自体が無意味だからである。

高血圧・脂質異常症は自己管理で

 医療費削減に向けては、高血圧や脂質異常症の自己管理を推進するのも一手だ。

 今日、多くの高血圧患者が高血圧治療薬とわずか数分の診療を受けるために医療機関に通っている。だが、血圧計は1万円前後で購入できるし、高血圧治療薬も一般薬化すれば、医療機関で診察を受けずに購入できるようになる。

 同様に、脂質異常値もスタチン系の薬で下げられるので、これも一般薬にすれば、患者による自己管理が可能になる。そして、血液検査が必要なときにだけ、医療機関での検査を受ければよいのだ。

 ちなみに、医者はいまだに総合感冒薬を、健康保険を使って処方しているが、この医療も無駄だ。総合感冒薬はすべて一般薬に切り替えるべきなのである。

目指すべきは医療費削減より医療の無駄の排除を

 高血圧・脂質異常症の治療を患者の自己管理に委ねるというのは、開業医の死活問題につながる話だ。だが、医療費の削減に加えて、より深刻な疾病を抱える患者へ治療や救急医療を手厚くするには、今の医療のあり方を抜本的に変えるしかない。

 また、この観点から言えば、医療機関のアクセスが良すぎる点も問題だ。日本では、誰もが、あらゆる医療機関の診療を受けることができる。しかし、それが結果的に、専門医療や救急医療に割くべきリソースの浪費につながっている。この辺りの無駄を解消するには、単なる風邪や慢性疾患の患者を大学病院が受診しないようにし、開業医にその役割を一任すべきだろう。

 日本が本来目指すべきは、医療費の削減ではなく、医療の無駄の排除だ。そのためには、医療の市場・産業全体を総合的にとらえ、無駄の削減を推進する専門機関が必要かもしれない。

 

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