マネジメント

 今年、会社法が改正されました。改正の大きな目的は、企業経営の適正化にあり、その目的の下、社外取締役等の設置等が勧奨されています。

 このような法改正が実施された背景として、相次ぐ企業不祥事があったのは言うまでもありません。したがって今後は、企業経営を担う役員の責任がさらなる重みを増すものと考えられます。そこで今回は、役員の「経営責任」について、法的な観点から解説します。

「経営責任」の正体

 企業の役員は、経営の中でハイリスクな選択を迫られることが少なくなく、自分の選択が結果的に会社の損失を招く場合があります。ただし、それを理由に損害賠償等の責任を追及されるなら、ハイリスクな選択をする役員は誰もいなくなり、結果的に、ビジネス上の好機を逸する恐れも強まります。しかも、ハイリスクな選択には、将来予測を含む経営上の専門的な判断が介在しています。そのため、役員の選択・判断そのものを直ちに違法と断ずるのは困難とも言えるのです。

 このような状況を受け、現在では「経営判断原則」と呼ばれるルールが適用されるようになっています。

 最高裁の示した経営判断原則によれば、役員が経営判断に関する法的な責任を負うかどうかは、主として、(1)資料や状況に照らして、問題とされている経営判断をすることが可能か、(2)判断過程と内容に著しく不合理な点がないかの2点から判断されます。要は、判断の結果よりも過程が重視されるのです。

アパマン事件で見る経営判断の「合理性」

 経営判断の合理性が認められた事例の1つに、アパマンショップ事件があります。この事件はかなり複雑なので、詳細は割愛しますが、平成18年5月に開催されたアパマンショップホールディングス(以下、アパマンショップHD)の経営会議で、おおむね次のような株式買取の決定が下され、決定通りに株式買取が行われました。

 

(1)事業再編計画において、A社完全子会社化の手段としては、アパマンショップHDの円滑な事業遂行を図る観点から、株式交換ではなく任意買取によるべきである。

(2)買取価格は、平成13年A社設立時の払込金額である5万円が適当である。

 

 この株式買取に対し、株主側は、「アパマンショップHDは、既に3分の2ものA社株式を保有しており、1株5万円もの高額な対価を支払ってまでA社を完全子会社化する必要はなかった」と反発。アパマンショップHDの取締役の経営責任を追及する訴えを起こしました。これに対し、最高裁は、特に前記「(2)」の経営判断について、「A社の設立から5年が経過しているにすぎない」、「買取りを円満に進めて友好関係を維持することが今後におけるグループ企業各社の事業遂行のために有益」、「事業再編の効果によるA社の企業価値の増加も期待できた」といった判断を示し、取締役の経営判断が著しく不合理であったとは言い難いとしたのです。

 そして、「経営会議において検討され、弁護士の意見も聴取される等の手続が履践されているのであって、その決定過程にも何ら不合理な点は見当たらない」としています。ワンマンで決めたのではなく、合議にかけ、社外の専門家からの意見を取り入れている点が重視されたと言えます。

万が一に備える

 アパマンショップの事例からも分かるとおり、ハイリスクな経営判断は、株主代表訴訟等のリスクを伴います。そして、万が一、役員の経営責任が認められた場合には、企業は多額の賠償を強いられます。ゆえに経営サイドは、もしものときに備えた施策を講じておかなければなりません。

 そうした施策の中で、何よりも重要なのが、「経営判断が、適切な資料に基づき、合理的になされたこと」を裏づける証拠を残しておくことです。

 裁判所は、その証拠に基づいて役員が責任を負うべきかどうかを判断します。ですから、役員が経営判断に際して参照した資料や、会議の議事録などをしっかりと残しておくことが重要なのです。

 また、会社法の制度を用い、役員に関する「責任の全部又は一部を限定する」という手も考えられます。社外取締役であれば、責任限定契約を締結することも可能です。

 加えて最近では、企業--特に上場企業の間で、高額の損害賠償金の支払いに耐えられるよう役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するのが一般的になっています。

 会社法の改正により、今後、企業経営に対する周囲の目は厳しさを増しています。その意味でも、いざというときの備えは一層の重要性を帯びているのです。

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