マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

会社役員の「経営責任」の正体

 2014年、会社法が改正されました。改正の大きな目的は、企業経営の適正化にあり、その目的の下、社外取締役等の設置等が勧奨されています。

 このような法改正が実施された背景として、相次ぐ企業不祥事があったのは言うまでもありません。したがって今後は、企業経営を担う役員の責任がさらなる重みを増すものと考えられます。そこで今回は、役員の「経営責任」について、法的な観点から解説します。

 企業の役員は、経営の中でハイリスクな選択を迫られることが少なくなく、自分の選択が結果的に会社の損失を招く場合があります。ただし、それを理由に損害賠償等の責任を追及されるなら、ハイリスクな選択をする役員は誰もいなくなり、結果的に、ビジネス上の好機を逸する恐れも強まります。

 しかも、ハイリスクな選択には、将来予測を含む経営上の専門的な判断が介在しています。そのため、役員の選択・判断そのものを直ちに違法と断ずるのは困難とも言えるのです。

 このような状況を受け、現在では「経営判断原則」と呼ばれるルールが適用されるようになっています。

 最高裁の示した経営判断原則によれば、役員が経営判断に関する法的な責任を負うかどうかは、主として、

(1)資料や状況に照らして、問題とされている経営判断をすることが可能か

(2)判断過程と内容に著しく不合理な点がないか

 の2点から判断されます。要は、判断の結果よりも過程が重視されるのです。

アパマン事件に見る役員による経営判断の「合理性」

 経営判断の合理性が認められた事例の1つに、アパマンショップ事件があります。この事件はかなり複雑なので、詳細は割愛しますが、平成18年5月に開催されたアパマンショップホールディングス(以下、アパマンショップHD)の経営会議で、おおむね次のような株式買取の決定が下され、決定通りに株式買取が行われました。

(1)事業再編計画において、A社完全子会社化の手段としては、アパマンショップHDの円滑な事業遂行を図る観点から、株式交換ではなく任意買取によるべきである。

(2)買取価格は、平成13年A社設立時の払込金額である5万円が適当である。

 この株式買取に対し、株主側は、「アパマンショップHDは、既に3分の2ものA社株式を保有しており、1株5万円もの高額な対価を支払ってまでA社を完全子会社化する必要はなかった」と反発。アパマンショップHDの取締役の経営責任を追及する訴えを起こしました。

 これに対し、最高裁は、特に前記「(2)」の経営判断について、「A社の設立から5年が経過しているにすぎない」、「買取りを円満に進めて友好関係を維持することが今後におけるグループ企業各社の事業遂行のために有益」、「事業再編の効果によるA社の企業価値の増加も期待できた」といった判断を示し、取締役の経営判断が著しく不合理であったとは言い難いとしたのです。

 そして、「経営会議において検討され、弁護士の意見も聴取される等の手続が履践されているのであって、その決定過程にも何ら不合理な点は見当たらない」としています。ワンマンで決めたのではなく、合議にかけ、社外の専門家からの意見を取り入れている点が重視されたと言えます。

役員が経営責任を問われた際への備えは

 アパマンショップの事例からも分かるとおり、ハイリスクな経営判断は、株主代表訴訟等のリスクを伴います。そして、万が一、役員の経営責任が認められた場合には、企業は多額の賠償を強いられます。ゆえに経営サイドは、もしものときに備えた施策を講じておかなければなりません。

 そうした施策の中で、何よりも重要なのが、「経営判断が、適切な資料に基づき、合理的になされたこと」を裏づける証拠を残しておくことです。

 裁判所は、その証拠に基づいて役員が責任を負うべきかどうかを判断します。ですから、役員が経営判断に際して参照した資料や、会議の議事録などをしっかりと残しておくことが重要なのです。

 また、会社法の制度を用い、役員に関する「責任の全部又は一部を限定する」という手も考えられます。社外取締役であれば、責任限定契約を締結することも可能です。

 加えて最近では、企業--特に上場企業の間で、高額の損害賠償金の支払いに耐えられるよう役員賠償責任保険(D&O保険)に加入するのが一般的になっています。

 会社法の改正により、今後、企業経営に対する周囲の目は厳しさを増しています。その意味でも、いざというときの備えは一層の重要性を帯びているのです。

筆者の記事一覧はこちら

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る