政治・経済

西武ホールディングス(西武HD)に対して米サーベラスが実施したTOBは低調に終わった。次は株主総会で取締役選任をめぐって争うことになる。ここに来て、西武HDの広大な保有地が注目され、外資ファンドへの危機感がさらに高まっている。 (本誌/村田晋一郎)

度重なるTOB期間の延長が裏目に

 西武ホールディングス(西武HD)に対し、筆頭株主の投資ファンド・米サーベラスグループが実施していた株式公開買い付け(TOB)が5月末で終了した。3月12日より応募を開始し、当初は4月23日の期限を、まず5月17日に延長、最終的には5月31日まで延長した。サーベラスは3月末時点で西武HDの株式の32・44%を保有しており、当初は重要案件への拒否権を確保できる4%の買い増しを予定した。そして5月17日まで期間を延長する際に12%まで上限を引き上げ、株主総会で実質的に過半を占めることを目指していた。結果的には12%に程遠く、当初の目標の4%すら下回る3%の買い増しにとどまり、TOB後のサーベラスの持ち株比率は35・48%となった。

 期間を延長する際に、サーベラス側が発表した理由は、「買い付けの手続きに時間を要するため」「少しでも多くの株主に応じてもらうため」というものだった。その一方で、予想以上に苦戦しており、少しでも募集期間を確保するため、延期を繰り返したとの見方もあった。

 サーベラス側が西武鉄道の不採算路線の廃止や埼玉西武ライオンズ球団の売却などを要求していることが明らかになり、沿線住民をはじめ、サーベラス側への否定的な見方が強くなっていた。こうした流れの中で、サーベラス側は、一見するとサーベラス側のものとは分からないような、さも西武HD側がTOBを急かすような書面を西武HDの株主に送付。この書面を受け取った株主が間違ってTOBに応じたり、また西武HDに問い合わせたりする事態が少なからず生じていた。こうした怪文書まがいの方法まで駆使して株主を取りこもうとしたが、結果は低調に終わった。

 これには、サーベラス側の失策を指摘する声がある。業界関係者は次のように語る。

 「2度にわたる延長が、西武HDの株主に考える時間を与えてしまい、逆に西武HDにとっては追い風となった」

 TOBは一度申しこんだとしても、応募期間中ならば申し込みを取り消すことができる。このため、西武HDは電車の車内などに株主に向けた意見広告を掲示。TOBに応じないこと、応募したとしても取り消してほしい旨の呼び掛けを続けた。こうした呼び掛けに賛同するかたちで、実際に期間中に取り消した株主は少なくないようだ。

広大な保有地の存在で国益を問題に発展

 TOBは西武HD側の勝利で終わった印象だが、サーベラスが筆頭株主であることには変わりがない。経営権をめぐる両社の争いは、株主総会における取締役の選任が争点となる。サーベラスは株主提案で、五味廣文元金融庁長官、ダン・クエール元米副大統領ら8人の取締役を推薦。一方、西武HD側も5月の決算発表時に会社提案として、大宅映子氏ら4人の取締役を推薦している。株主総会は両社の選任案のいずれかの信を問う場となる。

 株主総会の議決権は3月末の株主構成が反映されるため、サーベラス側の議決権はTOB前の32・44%となる。サーベラスは委任状争奪戦を起こすつもりはないとしているが、ここまでの一連のサーベラスの動きを見ると、TOBの再延長を事前連絡なしで発表するなど虚を突くような行動を度々起こしている。株主総会までの間にサーベラス側が何らかの仕掛けがあってもおかしくない。

 西武HDではサーベラスが委任状争奪戦を仕掛けてくることを想定し、今回の株主総会の招集通知に委任状を添えている。

 「サーベラスが委任状争奪戦を仕掛けてきた場合、当社としても引くわけにはいかない」(西武HD関係者)

 現在の西武HDの取締役は9人。そのうち2人が今回改選となる。また、現在のサーベラス側の取締役は9人中2人で、そのうち1人が今回改選。改選対象のサーベラス側取締役は、サーベラス側の選任候補8人の中に名を連ねている。非改選の取締役は西武HD側が6人、サーベラス側が1人。仮にサーベラス側の提案が可決された場合は、取締役の構成は西武HD側6人に対し、サーベラス側9人となる。そうなると先のTOBの結果に関係なく、実質的に取締役会がサーベラス側に乗っ取られることになる。

 TOBでは、鉄道という社会インフラを外資ファンドに渡すわけにはいかないという危機感が西武HDに味方した。さらにここに来て沿線住人やステークホルダーだけにとどまらない問題が俎上に上がっている。

 西武HDはホテル事業やレジャー事業で、全国にスキー場やゴルフ場など広大な森林や湿原を保有している。その保有敷地面積は、山手線内の面積の2つ分に相当し、日本の民間企業では第5位の広さだという。

 本誌6月4日号にて報じたように日本におけるM&Aの傾向として、外資による不動産買収が進んでいる。特に中国系企業による日本の森林買収が活発だが、その目的は広大な土地の一角にある水源だという。飲料水不足が問題となっている国にとって、日本の水資源は魅力だ。このまま外資による不動産買収が進めば、日本の水資源が外国に奪われる危険性がある。ここに来て、西武HDの持つ水資源の確保という観点から、サーベラス側への危機感を募らせる動きが出てきている。

 5月末の参議院決算委員会の質疑では、民主党の山根隆治議員が、新たな法規制の必要性を訴えている。また、上田清司・埼玉県知事も自民党の国土強靭化総合調査会の会合で、西武HDとサーベラスとの対立を念頭に「外資の土地取得を含め対内投資規制を強化するべき」との考えを表明している。

 単に沿線住民の生活だけでなく、資源保全など国益を問う観点からも、西武HD経営権の行方が注目されることになった。

 西武HDとしては、「株主総会に向けて気を抜かずしっかりやっていく」(後藤高志・西武HD社長)とし、今後も自らの主張を株主に訴えていく方針。

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

【特集】2019年注目企業30

 2018年の日本経済は、世界のマーケットを席巻してきた中国経済の成長鈍化が鮮明になり、併せて米・中の経済摩擦、英国のEU離脱問題などの対外的な課題が重なって大きな閉そく感が漂う年だった。 しかしながら元気な中堅・中小企業はネガティブな要因をものともせず独自の経営手法で活路を開いている。 原点回帰で、顧客第一…

「超サポ愉快カンパニー」としてワクワクするビジネスサイクルを回す―アシスト

ITと建設機械、グリーンエネルギーの3本柱で地球環境問題解決に貢献する―Abalance

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

ペット仏具の先駆企業が「ペットロスカフェ」で目指す癒しの空間づくり

家族のように接していたペットを亡くし、飼い主が大きな喪失感に襲われる「ペットロス」。このペットロスとなってしまった人々が交流し、お互いを癒し合うカフェが、東京都渋谷区にオープンした。「ディアペット」を運営するインラビングメモリー社の仁部武士社長に、ペット仏具の世界とペットロスカフェをつくった目的について聞いた…

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年4月号
[特集]
日本の「食」最前線

  • ・総論 日本の「食」から世界の「食」へ 成長産業となった農水・食品産業
  • ・「食」の輸出1兆円を支えるジェトロの役割
  • ・全国で進むブランド化「食」から始まる地方創生
  • ・上海で見た日本の「食」の未来
  • ・海外進出した外食チェーン「成功」と「失敗」の分かれ目
  • ・日本人が知らない中国の「日本食ブーム」の真実
  • ・消費税引き上げで始まる「外食VS中食」最終戦争

[Special Interview]

 星野晃司(小田急電鉄社長)

 「未来を見据えた挑戦で日本一暮らしやすい沿線をつくる」

[NEWS REPORT]

◆中国リスクが顕在化 電機業界に再び漂い始めた暗雲

◆持続可能な水産業へ 魚はいつまで食べられるのか

◆CES 2019現地レポート 家電からテクノロジーへの主役交代が鮮明に

◆相次ぐトラブルで業績悪化 SUBARUの見えない明日

[総力特集]

 2019年注目企業30

ページ上部へ戻る