政治・経済

今年1月の最高裁判決で、事実上、解禁となった一般用医薬品(OTC)のネット販売。しかし、ここへ来て、これに反対する勢力の巻き返しが本格化、全面解禁には暗雲が立ち込めてきた。 (本誌/大和賢治)

困難となった全面解禁

 今年1月11日、最高裁は、厚生労働省により公布されたOTCのネットによる販売規制を違法とする判決を下し、足掛け3年以上にわたる裁判に一応の決着がみられたことは記憶に新しい。

 この最高裁判決では省令が改正薬事法の趣旨に反するか否かを問うたもので、根幹にあるべきネットによる販売の是非に関しては触れていない。規制そのものが違法とされたことから、ネット販売業者は事実上の解禁ととらえ、判決と同時に既存業者は販売を再スタート、さらにこの判決は新規参入組の呼び水ともなった。

 事実上の解禁とはいえ、人体にかかわるOTCのネット販売だけに、誰もが自由に販売して良いわけもない。そこで厚労省は、早急なネット販売に関する新しいルール作りの必要性に迫られることとなる。翌2月には、関係団体や有識者からなる検討会を立ち上げ、議論を重ねてきた。

 しかし、5月31日に開かれた最終検討会でも推進派と慎重派の折り合いは結局つかず、座長の遠藤久夫・学習院大学教授は「これ以上やっても合意は得られない」と判断、結論は先送りとなった。

 安倍政権は、国内経済の成長戦略の1つの柱として規制緩和を掲げる。今回のネットによるOTC販売は、規制緩和の象徴例として国民にPRするには、まさにうってつけ。安倍政権は、全面解禁に向け大きく舵を切ったかに見えた。しかし、ここへ来てトーンダウン。医療用医薬品からOTCに切り替えられたリスクの高いとされる1類(スイッチOTC)の一部薬品に関しては、薬剤師のみに販売する権利を与えるという方向性を示した。

 「検討会の結論が先送りになったこともトーンダウンの要因ですが、さらに大きいのがOTCのネット販売に反対する日本薬剤師会を後ろ盾とする族議員の反対意見です。チェーンドラッグストアの台頭で、日本薬剤師会の政治力は以前よりは弱まっています。しかし、業界団体の既得権益を守るのが族議員の仕事。無理とは承知でもベテラン族議員はここぞとばかりに存在感を示したいのです。1類の一部の販売を薬剤師の専権事項とするのは、ちょうど良い落としどころでしょう」(業界関係者)

 OTCネット販売をめぐる一連の攻防をひも解いていくと、各業界団体の複雑な思惑が見え隠れする。

 猛反対する日本薬剤師会の立場は当然と言えば当然だ。近年、急成長を遂げた大手チェーンドラッグストアの勢いはとどまるところを知らない。幅広い品揃えと規模のメリットを存分に活用した価格政策は、個人経営の〝パパママ薬局〟に大きなダメージを与えているのは誰もが知るところだ。その業界団体が日本薬剤師会である。同協会は、構成員である薬剤師の既得権益を守るのが仕事。極端な話、薬剤師の職域を侵される可能性が高いOTCのネット販売を容認することはできないだろう。

 一方の日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)。同団体の加入社のビジネスモデルは、低価格の加工食品等で集客、利益率の高い医薬品を販売し利益を享受する粗利ミックスだ。その顧客層は、そもそもネットでOTCを購入する層とは重複しない。

 仮に全面解禁されたとしても、その影響は軽微である。最高裁判決の直後から、ネット販売の強化を打ち出したチェーン店もあるなど、逆に言えば新しい販路を獲得したと見ることもできる。あるドラッグストアの首脳は、判決以前より、

 「省令はそもそも無理筋だったんです。反対派はネット販売では安全性が担保できないと主張していますが、実際にはネット販売による被害例は報告されていないのです。確かに対面販売のほうが安心感はありますが、薬剤師だって人の子、安全性を100%担保することはできない。医療ミスがいい例です。安全性に関し、対面販売がネット販売に勝るとは言えないのです。ネット販売は時代の流れで、これにあらがうことはできない。弊社にしても、ネット販売解禁に向けて準備は既に整えています」と語るなど、業界団体であるJACDSが心底猛反対しているとは考えにくい。

伏線となった改正薬事法

 伏線として考えられるのは2009年に施行された改正薬事法だ。この改正薬事法の骨子はOTCをリスクの高い順に1~3に分類。1類は薬剤師のみ、2類以下は新たに創出された登録販売者でも販売できることとなった。この改正薬事法は、薬剤師の確保が困難で、これが出店の足かせとなっていた大手ドラッグストア各社が加盟するJACDSの強い働き掛けのもと実現したのだが、これに抵抗してきたのが、競合となる日本薬剤師会である。

 「日本薬剤師会は政治力を背景に改正薬事法の施行に猛反対しましたが、今や規模で圧倒するJACDSの政治力も強い。最終的には、JACDSに軍配が上がったのです。しかし、一方で敗れた格好の日本薬剤師会の顔も立てたい。それが『ネット販売は反対』で共同歩調を取ることだったのです」(同)

 そもそも裁判の原告となったケンコーコム等が設立していた日本オンライランドラッグ協会は、OTC販売で安全性を担保する必要性は十分に認識しており、独自のガイドラインを模索していた。

 ケンコーコムの後藤玄利社長は、以前、本誌の取材に対し、「議論にさえも加えてもらえず、何の前触れもなく省令により市場から締め出された。こんな不合理は許されない」と憤っていた(JACDS側は出席要請を拒否したと言うが……)。

 検討会が結論を先送りしたことで、OTCネット販売の全面解禁は難しくなってきた。しかし、本来は利用者の声が優先されるべきもの。主役不在のルール作りはいかがなものか。

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