政治・経済

 カジノ解禁の検討が始まって10年。超党派の議員によってようやくカジノを中心とする統合型リゾート施設(IR)整備推進法案が昨年末、国会に提出された。だが、各党の意見集約は遅々として進まず、女性2閣僚の辞任の余波もあり、逆風は強まる一方だ。

IR法案成立で米国、マカオに次ぐ規模のカジノ建設を目指す

 

 「こうした施設(IR)は成長戦略の目玉になる」──。今年5月、訪問先のシンガポールで「マリーナ・ベイ・サンズ」などのカジノを視察した安倍晋三首相は力強く語った。

新型のIR施設を視察する安倍晋三首

新型のIR施設を視察する安倍晋三首(Photo=KYODO)

 カジノのフロアには1600台のスロットマシンやルーレット台が並び、会議場、地上200メートルの屋上プール、水族館、遊園地も併設されている。首相は「日本経済の救世主になる」と確信したに違いない。

 観光立国を掲げる政府は訪日外国人旅行者を2020年までに2千万人、30年に3千万人超に増やす意欲的な目標を掲げているが、この推進力となるのがIR、つまりカジノだ。

 カジノ誘致の最大のメリットは何といってもその経済効果だ。

 香港の投資銀行CLSAは今年2月のリポートで、カジノが年間400億ドル(4兆円)の市場を日本に創出するとの見通しを示した。世界最大の〝カジノ大国〟である米国の600億ドル、マカオの510億ドルに次ぐ規模だ。

 誘致を目指す自治体や海外の事業者の動きも激しい。

 とりわけ熱心なのが最有力候補とされる大阪と沖縄だ。大阪は既に、府と市が候補地を臨海部にある埋め立て地「夢洲(ゆめしま)」に絞り込んだ。用地が広大でアクセス用の鉄道整備計画も持ち上がっている。

 また、国際観光拠点を目指してきた沖縄も早くから県を中心に調査・研究を続けており、米軍基地受け入れの「見返り」ともいわれる政府の沖縄振興予算もこれを後押しする。

 一方、「お台場カジノ」として石原慎太郎知事の時代から熱心に誘致活動を行ってきた東京都は五輪関連施設の整備を優先する構えで、舛添要一都知事も「カジノは私にとって優先課題ではない」と誘致に消極的だ。

 一方で、海外のオペレーター(カジノ運営業者)も日本進出へ向けて手ぐすねを引く。

 世界最大の米ラスベガス・サンズは日本事務所を開設し、1兆円を投資する準備があることを表明した。

 「われわれは100億ドルを現金で払える。他のライバルにはできない」。2月、都内での会見でシェルドン・アデルソンCEOはこう豪語した。

 だが、負けじと米MGMリゾーツ・インターナショナルも1兆円超を投資するとぶち上げた。

 このほか、ラスベガスのウィン・リゾーツや香港のメルコ・クラウン・エンターテインメントなども次々と日本進出を表明している。海外のオペレーターは日本人以上に日本市場の潜在力を評価している。

またしてもIR法案成立とカジノ建設は「後回し」の懸念

 

 下地は出来上がり、あとは政治が決めるだけとなった。

 昨年末にIR推進法案を提出したのは、超党派の「国際観光産業振興議員連盟」(通称・カジノ議連)。自民、民主、公明、維新、みんな、次世代、生活の各党から約220人が名を連ねる大議員団である。

 6月の国会では「時間切れ」となったものの、20年の東京五輪開催にカジノ解禁を間に合わせるには、今回の臨時国会での成立が至上命題だ。カジノ議連会長を務める自民党の細田博之幹事長代行は10月、国会内で開かれた議連総会で「これから一気呵成に審議・成立を目指したい」と気勢を上げた。

 だが、この時期に左派勢力や一部メディアなどから、ギャンブル依存症や多重債務者対策、マネーロンダリング(資金洗浄)を懸念する声が一気に沸き上がってきた。

 カジノ議連も何とか法案成立にこぎ着けようと、日本人の利用に一定の要件を課すとともに、不正行為を防止するため、法案を大急ぎで修正して対処した。

 しかし、世論の趨勢は変わらない。朝日新聞や毎日新聞、共同通信などが世論調査を実施したところ、いずれも6割前後がカジノ合法化に「反対」という結果が出た。

 さらに、永田町では民主、公明両党の党内調整が始まったばかりで、「両党とも集約には相当の時間がかかる」(ある議員)との声も聞かれる。

 そこに降ってわいたのが、政治資金をめぐる問題での小渕優子経産相、「うちわ」を配布していたとする問題での松島みどり法相の相次ぐ辞任劇。この混乱で、IR推進法案を審議する衆院内閣委員会の日程が当初予定されていた10月最終週から後ろにずれ込み、議論を主導してきた自民党の幹部からも「カジノどころではない」とあきらめムードが漂い始めた。

 内閣委は給与法改正案や国際テロリスト財産凍結特別措置法案など政府提出法案も抱え、議員立法であるIR法案の審議入りは原則として「後回し」だ。11月末までの会期中の成立は極めて厳しい情勢になっている。

 「誘致希望の自治体の準備に影響するばかりでなく、目標とする20年五輪までの開業に赤信号が灯りかねない」。カジノ議連のまとめ役である岩屋毅衆院議員が10月21日付で出したメールマガジンにも焦りの色がにじむ。

 大逆風が吹き荒れる中、残された「ウルトラC」は官邸サイドが力づくでも法案成立を図るよう、自民党国対に指示することだけだ。

 いよいよ、IRを成長戦略の目玉と位置付ける安倍首相の〝鶴の一声〟だけが頼りという状況になってきた。

(文=ジャーナリスト/木村康二)

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

ワンマンシリーズ(7)稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第19回)

ワンマンシリーズ(6)三和の法皇・渡辺忠雄〈3〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第18回)

ワンマンシリーズ(5) 三和の法皇・渡辺忠雄〈2〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

ワンマンシリーズ(4) 三和銀行の法皇・渡辺忠雄〈1〉

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第16回)

ワンマンシリーズ(3)住友銀行に残る堀田の魂魄

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年1月号
[特集]
平成の事件簿

  • ・[イトマン事件]闇勢力に銀行が食い荒らされた戦後最大の経済事件
  • ・[ダイエー、産業再生機構入り]一代で栄枯盛衰を体現した日本の流通王・中内 功の信念
  • ・[ライブドアショック]一大社会現象を起こしたホリエモンの功罪
  • ・[日本航空経営破綻]親方日の丸航空会社の破綻と再生の物語

[Special Interview]

 高橋和夫(東京急行電鉄社長)

 「100周年に向けて、オンリーワン企業の強みを磨き続ける」

[NEWS REPORT]

◆かつてのライバル対決 明暗分けたパナとソニー

◆経営陣に強い危機感 富士通が異例の構造改革断行

◆売上高1兆円が見えた ミネベアミツミがユーシンを統合

◆前門の貿易戦争、後門の技術革新 好決算でも喜べない自動車各社

[特集2]経営に生かすAI

 「人工知能は『お弟子さん』
日常生活が作品になるということ」
落合陽一(筑波大学准教授)

ページ上部へ戻る