文化・ライフ

2020年夏季五輪実施競技の最終候補の1つにレスリングが生き残った。左から、ロンドン五輪女子48㌔級金メダリストの小原日登美、日本レスリング協会の高田裕司専務理事、女子72㌔級の浜口京子の各氏

2020年夏季五輪実施競技の最終候補の1つにレスリングが生き残った。左から、ロンドン五輪女子48㌔級金メダリストの小原日登美、日本レスリング協会の高田裕司専務理事、女子72㌔級の浜口京子の各氏

 なりふり構わずとは、こういうことを指すのだろう。

 2020年夏季五輪実施競技の最終候補として8競技の中からレスリング、野球・ソフトボール、スカッシュの3つが生き残った。

 スポーツの大会にたとえれば、やっとの思いで準決勝を勝ち上がったようなもの。決勝の舞台は9月8日、アルゼンチン・ブエノスアイレスで開かれるIOC総会だ。そこで実施28競技の最後の一枠が正式決定する。

 下馬評ではレスリング有利とみられている。5月29日のロシア・サンクトペテルブルクでの理事投票でも、レスリングは1回目の投票で過半数を獲得し、早々と〝決勝〟へとコマを進めた。

 野球・ソフトボールはと言えば、8回目の投票で、やっと2枠目に滑り込んだものの、3カ月後にレスリングを逆転できるだけの材料には乏しいとみられている。

 国際野球連盟(IBAF)と国際ソフトボール連盟(ISF)が「世界野球ソフトボール連盟」(WBSC)なる組織を立ち上げたのは、この4月である。概ねIOCの意向に沿ったものだが、IBAFのリカルド・フラッカリ会長が「五輪では9回制ではなく7回制も検討する」とルールの抜本的な見直しにまで言及したのには驚いた。

 野球に対しては、IOC側から「試合時間が長い」との不満があり、それを解決するためのウルトラCだった。

 私はルールブックを不磨の大典だと考えるものではない。もとより指一本触れるな、という性質のものでもあるまい。

 しかし、9回制は公式野球規則にも明記されている野球の根幹である。それを、いくらIOCの意向だからといって、まるで服でも着替えるように、あっさり変更してしまっていいものだろうか。

 WBSCを始めとする各国際競技連盟(IF)が競うようにIOCにすり寄るのには理由がある。五輪競技に採用されるか否かでIOCからの分配金が2ケタは違ってくるのだ。

 例えば野球の場合、北京五輪の年には約800万㌦(約8億円)の分配金があったとされているが、五輪から除外された今は2万~3万㌦(200万~300万円)と、まるでスズメの涙程度だ。IOCから各IFへの分配金の原資の、かなりの部分を占めているのがテレビ放映権料だ。ちなみに09年から12年にかけてIOCが獲得した放映権料は39億1400万㌦(約3914億円)。IOCが見栄えのいい競技を好む理由がそこにある。

 野球は試合時間が一定せず、長い時は軽く3時間を超える。これではテレビ放映枠を確保するのが難しく、試合時間を短縮しない限り、復帰は認めたくないというのがIOCの本音だ。

 これを受け、北京五輪で日本代表監督を務めた星野仙一(現東北楽天監督)は「たとえ7イニング制になろうが、2アウト制になろうが、3ボールで四球になろうが、まずは(五輪競技に)戻るのが最優先」と語っている。

 気持ちは分からないでもない。オリンピックの実施競技に非ざるものはスポーツに非ず――。このところ、そうした空気がスポーツ界では支配的になっているからだ。

 耐え難きを耐え、忍び難きを忍んでも五輪復帰を最優先すべきというのは、ひとつの考え方だ。しかし、IOCは、ひとつ譲ったくらいではニコリともしないだろう。陰に陽に、あれもこれもとルール変更を要求してくるはずだ。

 これは私自身、経験があるのだが、アテネ五輪で野球を、IOCのスタッフと一緒に観戦した時のことだ。ヨーロッパの人々で、野球のルールに精通しているのは、ごくわずかであることが分かった。

 「なぜフライアウトになったのに、ランナーは走って得点が入るのか」

 「空振り三振でアウトと言ったのに、(打者走者は)走って一塁にいる。これは、どういうことなんだ?」

 前者はタッチアップによる犠牲フライ、後者は振り逃げのことだが、説明するのに一苦労した。伝わったかどうかも自信がない。

 日本人や米国人にとっては見慣れた光景でもヨーロッパ人にとっては、そうではない。ましてIOC委員は約4割がヨーロッパ人だ。

 「すべて自分たちの分かりやすいルールに変えてくれ」

 五輪の実施競技に復帰するためなら、理不尽な要求にも、唯々諾々と従うのだろうか。それでは、もはやベースボールではなくなってしまう。

 世の中には、譲っていいものと悪いものがある。変えていいものと悪いものがある。その見極めが難しい。

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