文化・ライフ

タイ人が殺到する富士山観光の絶景ポイント

 外国人観光客が思い浮かぶ日本の食といえば「寿司」、景色といえば「富士」が入ってくるのではないだろうか。

新倉浅間神社

SNSで広がったタイ人観光客のお勧めスポット新倉浅間神社

 富士登山に関する世界文化遺産登録の影響を調べると、意外にも登山客は減っているのだそうだ。環境省の調べによれば昨年で31万人、今年は28万人といずれも登録前よりも減っている。理由は環境保護のためのマイカー規制や夜通しで山頂を目指す、いわゆる弾丸登山の危険性を訴えたこと。今年に至っては大雪や天候不順が大きな理由のようだ。ただ、観光客減は一時的なものと考えられている。

 外国人観光客に関していえば、世界遺産登録をきっかけに大幅に増えているようで、富士急行の取締役で事業推進室長の鈴木薫氏に聞いてみると、「観光客の4人に1人は外国人という日もある」そうだ。

 「都内に比べて桜の季節が遅くゴールデンウイーク頃に開花するのですが、その時期にタイの方が多く訪れます。インターネット上の口コミで広がったようですが、新倉浅間神社にある五重塔の写真を撮ると、バックに富士山も写って、日本らしい景色になるわけです」(鈴木氏)と、ある日を境に、急にタイ人観光客が訪れるようになったことで、地元の人も驚いているという。

 また、冬の富士五湖周辺は厳しい寒さだが、都心からの近さを強みに「雪」を目当てにしたアジア圏の人を呼び寄せている。

 富士急セールス社長の石川二比古氏も、「かつては、ゴールデンルートとよばれる東京〜箱根〜富士山〜京都〜大阪の物見遊山的なツアーがほとんどでしたが、近年は、先ほどのタイの方のような個人インバウンドも増えています」と語る。そのため、富士山駅から京都や大阪、遠くは九州まで高速バスを結び、個人の観光ルートにも対応する。

 富士急セールスは上海、台湾にも駐在事務所を設けており、現地の旅行代理店への営業に加えて、現地へ進出している日系企業への招待旅行や報奨旅行の提案も行っている。富裕層へのアプローチにも、「台湾の富裕層はゴルフを好まれる方が多く、4〜5連泊されて近くの名門コースをめぐられますね」(石川氏)。

 まだまだ人数的には多くはないが、落とす金額は大きいだけに侮ることはできないようだ。一方で、バックパッカー旅行者に対しても、駅周辺のビジネスホテルが対応する。

 富士周辺には、富裕層からバックパッカー、ツアー客から個人客まで、幅広い層が訪れていることが分かる。しかし、観光客が増えたことで、課題も見つかってきている。

富士山観光の課題解決へ

 富士山という絶対的な存在があるために、積極的なPRをしなくてもある程度は外国人観光客が来る。しかし、あるアンケートによると「富士へのアクセスが分かりにくい」という意見が多かった。

 その不満に応えるために、富士急グループが行ったのが、「フジヤマNAVI」というサイトを戦略的に進めたこと。

 言語も日本語のほか、中文簡体、中文繁体、韓国語、英語に対応しており、それぞれのお国柄や好む傾向を踏まえたサイトづくりを行う。現代は誰もがネット情報で旅をするため、自分の国の見慣れたデザインを見れば信頼性も高まるはず。

 例えば英語、韓国語圏ではデザイン、色使いをシンプルに。一方、中国語圏では鮮やかな色使いと文章でしっかりと伝えることを心掛けている。内容も国によって違う、テーマを「グルメ」とした場合は、英語、韓国語圏に対しては日本酒の酒蔵特集を、中国語圏では日本酒の人気がさほどでもないため、麺を特集した。お国柄の違いをヒアリングやデータによって集め、サイトに反映させているようだ。

 もうひとつの取り組みが、外国人がよく利用するホテルが上野、浅草方面に集中するところに目を付けて、約180カ所に、富士山へのアクセス方法を表記したチラシを置いてもらっていることだ。「富士へ行ってみたいのだけれども、どうやって行けばいいのか分からない。といった要望に応えることができているのではないかと思っています」(石川氏)。

 今年から成田エクスプレスが河口湖駅にまで直接運行されたことで、ますます富士への外国人観光客は増えるはず。広大な富士エリアを回るため、2次交通の充実も図られ始めた。

 しかし、どうにもならないのが天気だ。せっかく、楽しみに来てもらっても富士山を見られなければがっかりする。そういった場合を想定し、富士急ハイランドに富士を体感できる「富士飛行社」というアトラクションを設けた。直径20メートルの大スクリーンに映しだされる富士山上空からの映像に合わせて、空中遊泳をしているかのように座席が動く。海外からの観光客にも評判がいいようだ。

 また、日本に来たからにはどうしてもショッピングを楽しみたい。今までは東京に帰る時間を気にする観光客も多かったが、免税品の拡大を機に、富士山エリアでも十分ショッピングを楽しめる施設の拡充を図っている。既に、売り上げも伸びているという。

富士山以外にも有力な地方の観光コンテンツ

 ツアー客だけでなく個人客が増えたことで次のステージへ入った富士周辺地域。今後もさまざまな要求がでてくるはず。ただ、難問をクリアしていくことでまだまだ成長するエリアだと言えそうだ。

地獄谷野猿公苑

「スノーモンキー」のほんとうの価値 地獄谷野猿公苑

  日本の豊かな自然の中には、この国でしか見られない動植物も含まれる。例えば、サルの仲間は熱帯、亜熱帯に多く生息する。オランウータンやチンパンジーが寒い地域で生活するイメージはない。そういわれて初めてニホンザルと雪という組み合わせに違和感を覚え始めるはず。

 日本の固有種であるニホンザルは人類を除いた霊長類の中でもっとも北に生息する。

 冬には深い雪の中で生活し、海外では「スノーモンキー」として知られ、世界で唯一温泉に浸かるサルたちが住む長野県の地獄谷野猿公苑には、このサルに会うためだけに、この地を訪れる外国人観光客も多いのだそうだ。昨年、地獄谷野猿公苑に入園した外国人は4万2千人を超え、入園者全体に占める割合も27%、ほぼ3割を占める。どこかの国の人が突出して多いわけではないが、冬期は、スキーで同県の白馬を訪れる人が寄るのかオーストラリア人が多くなるそうだ。

 日本人にとっては、雪とサルの組み合わせをさほど珍しく感じることはないが、外国人にとってみたら貴重な光景なのだ。意外とこのように日本人だけが気付いていないことも多いのかもしれない。シンガポール動物園では日本のタヌキが大歓迎を受けた話もあるくらいだ。

 ちなみに、サルたちが温泉に入る習慣を昔から持っていたわけでなく、子ザルが偶然入ったことがきっかけで、温泉に浸かるのも厳しい寒さの時だけだそうだ。

 地元もこの観光コンテンツを生かし切れてないようで、インバウンドに力を入れる旅館はあるものの、まだまれで、標識などの英語表記なども進んでいない。湯田中温泉、渋温泉など名湯が近くに多いだけにまだまだインバウンドに、手を出さずとも余裕があるのかもしれない。

(文=本誌/古賀寛明)

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