マネジメント

 税務調査の折衝を繰り返す中で、大きな不満が残るのは、税務調査対象者からは詳細な資料や電子データの提供を積極的に求める一方で、税務調査官は記録に残る書面を基本的に外部には出さず、出しても極めてシンプルな説明資料しか提示しない、ということです。このため、税務調査においては、税務行政にだけ、後日の裁判に耐えうる証拠が残る、という、非常に不公平な状況が実態としてあります。

 以前、税務調査の中間報告をしたいというので、税務署に呼び出された時の話です。その際、金額の根拠を細かいエクセルのシートに税務調査官はまとめていたのですが、「概算で計算した資料のため、このシートをお渡しすることはできませんが……」と切り出してきたのです。当然こちらではその内容を日数かけて検討しなければなりませんから、その根拠となる資料を渡せないとは何事か、と大喝したところです。

 このように税務行政が徹底的に記録を外部に示さない理由は、トラブルを避けたいからです。税務調査官も人間ですから、誤った税務処理を行っている場合もありますし、別の税務調査官の見解と矛盾した見解を示してしまうこともあります。加えて、今後の税務調査の展開によっては、説明した数字も変わってきますから、資料を渡してしまうと困る、というのが税務行政の本音なのです。

 困ったことに、税務調査の決着段階における最終的な納税額等の説明資料についても同様で、問題となる金額と項目のみが書かれた非常にシンプルな説明資料しか交付されないことが通例です。このため、「なぜ不正取引に該当するのか」といった、税務署と交渉する上で重要となる税務署が問題視する理由とその法的根拠については、その資料からは基本的に理解することができません。税務行政としては、「詳細な説明を口頭で行っているのだから、税務調査先に交付する説明資料は、シンプルなもので問題がない」といった理解なのでしょうが、納税者は税務の専門家ではありませんので、その説明を聞いても理解できないのが通例でしょう。このため、私たち税理士が税務調査に関する相談を後日的に受ける場合、税務署との争点が分からず苦労します。

 税務調査においては、税務調査官から基本的に後日確認できる資料をもらえない、という事態から考えるべき対策は、以下の2点です。

 1つは、税務調査の際、その事績をこっそりと録音するか、もしくは事実関係について詳細にメモしておくことです。筆者のもとには脅しに近い税務調査官の指導事項に対する対応方法などについてもよく相談が来ますが、必ず言った言わないの問題になります。この場合証拠となる記録がなければ、それを是正させることはできません。「証拠がないのであれば、事実関係を確認できませんので、対処の仕様がありません」と、税務署への苦情を却下されるのが通例です。録音という客観的な記録を盾に税務署に苦情を申し出ることも可能ですが、基本的に録音を税務署は認めませんので、こっそりと録音するか、日時・発言内容・発言者の詳細な記録を残すように努めるべきなのです。

 もう1つは、税務調査の際、「宿題」として「~の取引の記録をまとめた資料を作ってください」といった指導がなされることがあります。このような指導を受けると、ほとんどの方が細かく事実関係をまとめた詳細な資料を作成し、提出しますが、それは正しいやり方ではありません。記載すべき必要な事項を税務調査官に詳細にヒアリングし、その内容だけ記載した、シンプルな内容の資料を作成するべきです。この上で、税務行政と同様、残りの事情は口頭で説明する、というスタンスをとりましょう。詳細な資料を作成してしまうと、痛くもない腹を探られるリスクが残ります。「後日のトラブルを避ける」ためにも、資料はシンプルに作成するべきなのです。

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポート――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。100年弱の歴史を持つ高砂香料工業── まず御社の特徴をお聞かせください。桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える香料の専門メーカーです。基本…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

不動産の現場から生産緑地の将来活用をサポートする――ホンダ商事

ホンダ商事は商業施設や宿泊施設の売買仲介、テナントリーシングを手掛けている。本田和之社長は顧客のニーズを探り最適な有効活用を提案。不動産の現場から、生産緑地の将来活用など社会問題の解決にも取り組む。── 事業の概要について。本田 当社は商業施設やホテル、旅館の売買・賃貸仲介(テナントリーシング)を…

企業eye

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年7月号
[特集]
社会課題で儲ける!

  • ・総論 グローバリズムとどう折り合いをつけるのか
  • ・なぜ、よしもとは社会課題と向き合うのか 大﨑 洋(吉本興業共同代表取締役CEO)
  • ・茶葉から茶殻までバリューチェーン全体で価値を創造する 笹谷秀光(伊藤園顧問)
  • ・持続可能な経営は、持続可能な地域が支えている キリンホールディングス
  • ・人生100年時代の健康問題に取り組む ファンケル
  • ・世の中に貢献する中で商売を広げていく ヤマト運輸
  • ・社会課題を解決する金融モデルは、懐かしい過去に学ぶべき 吉澤保幸 場所文化フォーラム名誉理事

[Special Interview]

 芳井敬一(大和ハウス工業社長)

 創業のDNAに立ち戻り、オーナーの教えを伝承・実践

[NEWS REPORT]

◆史上最高益でも原価低減 豊田章男の「原点回帰」

◆成長戦略再考を迫られた富士通の苦境

◆市場規模はバブル前に逆戻り 規模より知恵を問われるビール商戦

◆7兆円M&Aを仕掛けた武田薬品の野望とリスク

[特集2]

 オフィス革命 仕事場を変える、働き方が変わる

ページ上部へ戻る