政治・経済

 最近、どの地方に出掛けても、わが町は空き家率が高く問題であるといった話になる。2013年の日本の空き家率が13・5%。つまり、総住宅数6063万戸に対し820万戸もの空き家が存在する。空き家は、朽ち果てたまま放置すると、防犯や防災、環境面で問題の種となる。一方で、空き家の利活用に工夫をこらし、創造的な街づくりに展開する地域もある。例えば、中山間地であれば農家民宿や、都市部の企業のサテライトオフィスとして活用する例がある。また、都市部の空き家でも、芸術家の工房として活用する取り組みもある。

 私はこれを単に空き家問題ではなく、量から質への転換の萌芽の1つと見る。住宅という製品が量的には充足し、贅沢を言わなければ今の人たちに家はあるという状況ととらえるからだ。余剰となった住宅は創造的な街づくりに活用され始めている。

 先進国では、一般市民が衣食住、移動、情報、長寿を手にした。量的に充足した社会が次に求めるものはクオリティー・オブ・ライフ(QOL:Quality Of Life)であり、そうした社会を私は「プラチナ社会」と定義していることは以前述べたとおりである(『経済界』14年5月27日号)。今こそこのテーマを真剣に追求し運動として展開すべき時なのだ。

 このテーマを掘り下げるためには、これからの需要を「普及型需要」と「創造型需要」の2つに分けて議論すべきであろう。「普及型需要」とは、家電や自動車、住宅に象徴されるように、普及してしまえば後は更新需要しかないような需要である。現在は、このパターンでの成長過程にある途上国の需要を先進国の内需として取り込む国際競争が繰り広げられている。しかし、ASEANやTPPの枠組み、あるいはインフラ輸出でビジネスが成立したとしても、どの程度持続性があるのか? 産業革命とは基本的に生産性を上げることだから、生産量が増えるのでなければ雇用は減る。ここが最大の課題で、基本的には先進国内で雇用を持続的に創出していくことが求められている。

 また、生産性向上は、より創造的な分野への人材シフトが可能になるととらえるべきであろう。明治維新以来、産業を振興すれば暮らしが良くなると進んできたが、「創造型需要」の場合には、それが逆転して、暮らしを良くすること、つまりQOLを追求すると新しい産業が生まれるという視点に立つ。QOLを追求するテーマは、例えば健康、生涯学べる社会、尊厳のある長寿社会、老若男女が参加できる社会、交流のある社会、資源・エネルギー自給、自然環境再生等であり、こうした課題解決がもたらす需要は枯渇することはない。こうした課題への対応から生まれる産業を私は「プラチナ産業」と呼んでいる。つまり、今後の日本の成長は、「普及型需要」が牽引した20世紀型発展の延長戦と、「創造型需要」が導く21世紀の新産業創造、これを二正面作戦で相乗的に戦うというのが正しい戦略であろう。

 

視点 記事一覧はこちら

小宮山宏氏 関連記事一覧はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る