文化・ライフ

インフルエンザ予防接種ワクチンの役割は「感染」防止にあらず

 今年も、インフルエンザワクチン接種の季節になった。近年、インフルエンザワクチンを接種する人が増えているようだが、果たして、どれだけの方がその意義を正しく理解されているだろうか──

 まず、インフルエンザのワクチンは、「感染」を抑えるものではなく、「発症」、あるいは「発病」を抑止するものだ。

 感染とは、インフルエンザウイルスが口や鼻から体内に入り、細胞内で増殖することを指し、ワクチンではそれを防げない。ただし、体内のウイルスが一定数を超えると、症状の出ない潜伏期間を経て、高熱やのどの痛みなどの症状が出る。この時期が、発症/発病と呼ばれ、インフルエンザワクチンには、それを抑える効果があるのだ。

 インフルエンザワクチンには、もう1つ大切な役割がある。それは、「重症化」を防ぐことだ。インフルエンザにかかっても、大抵は1週間程度で回復する。だが、まれに肺炎やインフルエンザ脳症などの重い合併症が現れ、入院が必要とされたり、死亡したりする場合もある。

 これは、インフルエンザの最大の問題とも言え、特に、幼児や糖尿病患者、あるいは高齢者が重症化するケースが多いとされる。

インフルエンザ予防接種ワクチンに対する誤解を正す

 65歳以下の人の場合、インフルエンザ発症の70〜90%がワクチン接種で予防できるとされている。また、高齢者の場合、ワクチンによる発症予防効果は30〜40%にすぎないようだが、入院を要するような重症化なら50〜60%は予防でき、さらに、死に至るケースの80%は防げると言われている。

 もっとも、こうしたワクチンの「有効率」には誤解も多い。例えば、「有効率70%」とは、「ワクチンを接種していない人の70%は、接種を受けていれば発病が避けられた」という意味だ。ところが、医療関係者ですら、その多くが「100人の接種者のうち70人が発病しない」と誤解している。しかも、ワクチンの有効率には、「接種者の中で発症しなかった人の数」は含まれていない。そうした有効率の分かり難さからか、インフルエンザワクチンは「効かない」と指摘されることがよくある。また、医学論文の中にも、インフルエンザワクチンの実効性に疑問を呈するものがある。ただし現状では、インフルエンザ患者だけを対象にした信頼の置ける疫学調査のデータは存在しない。その状況下で、ワクチンの有効性を否定するのには無理があるだろう。

 もちろん、ワクチンを接種しても、抗体ができない、あるいは、抗体ができる前に感染すれば、インフルエンザは発症する。また、先にも触れたとおり、高齢者に対するインフルエンザワクチンの有効率は高くない。だが、それでもワクチン接種の効力・意義を否定することはできないし、高齢者に関しても、重症化を防ぐという意味では一定の効果が期待できる。それで感染者の入院が回避できれば、医療費抑制にもつながるだろう。

 米国では、インフルエンザによる労働者の病欠・生産性低下で、毎冬1億1100万日分の労働力が失われ、金額換算で年間約70億ドル(6800億円)の経済損失があるという。インフルエンザワクチンは、こうした経済損失を大きく減らす力も有していると言えるのだ。

 インフルエンザワクチンをめぐっては、その副作用が取り沙汰されるケースもある。

 ただし、厚生労働省によれば、平成21年10月から平成25年5月14日(のインフルエンザ流行時期)において、ワクチン接種後の副作用反応が認められたケースは計8例しかなく、死亡とワクチン接種の直接的な因果関係が認められた症例もないという。

 しかも、死亡例のほとんどが、重い持病を持つ高齢者だったようだ。

インフルエンザ予防接種が証明する「医療費削減の手段」

 世の中には、インフルエンザワクチンで医者が儲けているとの批判もある。だが、ワクチン接種費用が1回2千円だとすれば、インフルエンザ患者の診察代や薬(タミフル)代のほうが恐らく高い。つまり、儲けを考えれば、ワクチン接種をやめたほうが医者にとっては都合が良いわけだ。

 日本の場合、医療機関へのアクセスが良いことから、インフルエンザで高熱が出れば、すぐにタミフルのような特効薬をもらうことができる。そのため、「ワクチンを接種せずとも、発病してから医者に行けば良い」と考える向きも少なくないだろう。しかし、インフルエンザに感染・発症すると、たとえ1週間程度で回復するとしても、高熱で相当の苦しさを味わう。その辛さを考えれば、やはりワクチン接種で発症リスクを抑えたほうが賢明だ。しかも、インフルエンザワクチンの接種は、即効性・有効性が証明された、数少ない「医療費削減の手段」とも言えるのである。

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