マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

「忘れられる権利」と検索エンジンの管理責任

 「検索エンジンを通じて、自分の好ましくない過去がインターネット上で暴露される」 この問題をめぐり、欧州連合(EU)の司法裁判所は今年5月、プライバシー権の一種として「忘れられる権利(right to be forgotten)」を認め、それに基づき「非公開請求」を認める判決を下しました。今回は、この事例を踏まえながら、プライバシー権の今後の行方を考察します。

 ブログやSNSなどの普及に伴い、特定人の前科に関する記事や、ある会社の誹謗中傷に関する記事などを見かけるケースが増えています。

 特に問題となっているのは、GoogleやYahoo!などの検索エンジンで自らの名前を打ち込むと、自分にとって好ましくない情報が検出されることです。

 ところが従来、検索エンジンの検索結果に対する削除を請求するのは困難とされてきました。理由は、削除の対象となる情報の管理主体は検索エンジンではないからです。ゆえに、検索エンジン側は、情報の削除要請に応じてこなかったわけです。

 もちろん、検索エンジンそのものは、社会的にも有益なサービスで、誰かの権利を侵害するために作られたものではありません。

 ところが、キーワードを頼りにインターネット上のあらゆる情報を自動で引き出してくる検索エンジンの機能的な性質上、個人の好ましくない情報を露呈させる可能性があり、その不幸に見舞われた人は、検索エンジンで大きな不利益を被っているにもかかわらず、当該情報の削除を検索エンジンに求めることができないというジレンマの中に置かれていたのです。

 今年5月にEUで下された判決は、こうした状況に一石を投じる画期的なものだったと言えるでしょう。

「忘れられる権利」を認定したEU判決のインパクト

 EU判決の発端は、あるスペイン人男性が、自分の名前をGoogleで検索した際に、「自宅を差し押さえられた」という16年も前の過去が表示されたことです。それを不服とした男性は、当該情報の削除をGoogleに請求。EU司法裁判所は、「忘れられる権利」という新たな権利を認定した上で、その男性の請求を認容したのです。

 この判決の画期的な点は、「情報管理者(controller)はGoogleである」と判断したことにあります。Googleはこれまで、情報の削除請求を受けるたびに、一貫して「検索結果は自動的・機械的にサイトの記載内容・所在を示しているにすぎない」と主張し、請求を退けてきました。

 確かにGoogleは記事を作成していませんし、記事を無断で削除してしまったら、それこそ「言論の弾圧」につながりかねません。

 また、情報作成者の権利保護を考えると、「Google=情報管理者」であることを論証するのも難しくなり、それが、情報の削除請求の障壁となっていたのです(その意味では、Googleのビジネスモデルは絶妙なバランスの上に成り立つ精緻なものであると言えます)。

 しかし、EU司法裁判所は、「EUデータ保護指令」(EU加盟国等合計30カ国に対して同指令に基づく国内法規を要求するフレームワーク)を丁寧に適用した上で「Google=情報管理者」という結論を導き出したのです。

 今年10月9日、東京地裁においてもGoogleの検索結果の削除を認める決定が出されました。この事例は、Googleで自分の名前を検索すると、犯罪にかかわっていたことを連想させる検索結果が表示されるというものです。それを不服に感じた男性が、検索結果の削除を求め、東京地裁は、検索結果のタイトルおよび記事の要約文について削除を命じる決定を下しました。

 検索結果の削除を命じる決定は国内初となりますが、これは「Google=情報管理者」というEU司法裁判所の判断に影響を受けているためと考えられます。

プライバシーと言論の自由の対立をめぐり待たれる立法的解決

 東京地裁の決定は、まさにインターネット時代におけるプライバシー権の概念に風穴を開けたと言えるでしょう。しかし、解決すべき問題はまだ残されています。それは、立法による解決です。

 実は、東京地裁の決定が下される1カ月ほど前、京都地裁において、自分の名前のGoogle検索で過去の逮捕記事が表示されるという男性の検索結果表示差止請求が棄却されていたのです。また、Google検索のサジェスト機能をめぐる事件でも、東京地裁と東京高裁とで結論が異なるケースがありました。

 事例によって判決に差異が出ることはありますが、本来的には、プライバシーと言論の自由の対立という問題は、司法判断で結論が異なるべきでありません。

 判例の蓄積はもとより、早急な立法的解決が求められます。

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