マネジメント

 

上司の指示がなくても、自ら判断し、行動できる部下を育てるにはどうすれば良いのでしょうか。今回は人材育成における社員の「自立」と、その後のさらなる「成長」のための指導のコツについてお話しします。

人材育成のコツ① 社員の自立を促す

 

「自律ルール」が自立への第一歩

 以前の私は領収書の整理というのがとても苦手でした。それに四苦八苦するのが経験上分かっているので、月末が近づいてくると、ああ、いやな仕事が待っている……と本当にゆううつな気分になっていました。

 ある時、これをなんとか改善できないものかと考え、まず大きなお財布を買い、とにかく、奥から順番に領収書を入れていくようにしてみました。すると、その整理が劇的に楽になり、それ以来これが私の領収書を扱う際のルールになりました。

 こういうルールを私は〝自律ルール〟と呼んでいます。自律ルールは大人に限らず、子どもであっても必要であり、ルールの助けを借りることで、人は自分の行動を正しく規制する力を身につけます。そして、それができてこそ〝自立〟(ほかからの助けなしに、自分で物事を行うことができること)も果たされます。

 つまり、〝自立〟のためには、〝自律〟が必要であり、自分が失敗しがちなことや、苦手なことを克服したいとき、また逆に何かをやりきらなくてはいけないというときに、自分なりの〝自律ルール〟をつくることができる人こそが、〝自立〟した人なのだと言えるでしょう。

 結局のところ、人を育てるというのは、それぞれが自律ルールをつくれるようになる、その手助けをすることなのです。

 例えば、遊んだおもちゃを自分でキチンと片付けるというのもひとつの自律であり、子どもにそれを指導することがしつけです。

 そのとき、車のおもちゃはいちばん上の引き出し、クレヨンは真ん中の引き出し……というふうにルール決めておけば、子どもはひとりでもスムーズに片付けられるようになります。つまり、ルールの存在によって、自律が促されるのです。なんのルールも与えずに「さっさと片付けなさい!」とガミガミ文句を言うだけでは、なかなかうまくいきません。

 こういうルールの力を借りながら、きちんと片付ける経験を積んでいると、そのうち、他人からルールを与えられなくても自分なりのルールを自ずと考えられるようになります。つまり、片付けという場面での自律が身につくのです。片付けが上手な人というのは、意識しているいないにかかわらず、片付けるための自律ルールをいつでもつくり出せる人なのです。

カスタマイズされたルールにこそ、意味がある

 大人の場合も、自立した人材に育てようと思ったら、仕事をする上で必要な、さまざまな〝自律ルール〟をつくる手助けをすることが大切です。

 例えば決められた期日までに仕事を仕上げるため、1週間前、3日前、前日に、進捗状況を上司に報告する、というのも〝自律ルール〟です。このルールを守っていれば、その時々に応じたアドバイスを受けることもできますし、締切が何段階も設けられているのと同じですから、期日までに仕事をきちんと仕上げられる可能性は高まるでしょう。

 最初はこういったルールを与えることから始めるとよいのですが、大切なのは、与えたルールをあまり絶対的なものにはせず、それぞれが自分がもっともうまくやれるパターンにアレンジすることを許す余裕をもつことです。状況の報告が1週間前でよい人もいれば、2週間前にもチェックを受けておかないと不安で仕方ない、という人もいるでしょう。

 ルールを強制するのではなく、あくまでも、その人なりのルールづくりをフォローする、という姿勢が人材育成のためには必要です。

 絶対的なルールに従わせることは一時的によい結果が出たとしても、それは他律によってもたらされたものであり、そこに留まっていては社員の自立や自走は促せません。あくまでも、自律のためのルールでなければ意味がなく、育てるべきは、状況に応じた自分なりの大小さまざまなルールづくりができる力なのです。

 結局、仕事ができるかどうか、というのは、そういうルールづくりが得意かどうかにかかっているといっても過言ではありません。

 もし、あなたの部下が同じ失敗を何度も繰り返しているようなら、それをどう克服するかの〝自律ルール〟づくりをもう一度、一緒に考えることから始めてください。失敗を攻め続けることは、ただやみくもに「片付けなさい!」とヒステリックに子どもを怒るのと同じこと。

 それでは、部下へ〝自律〟も〝自立〟も促すことはできないのです。

 

人材育成のコツ② 自立した社員のさらなる成長を促す

 

チャレンジが人材を育てる

 経験の浅い社員に大きな仕事を任せる、もしくは大きなテーマを与えるのは、その社員にとっても、また、会社で有能な人材を育てたいと考える経営者にとっても、必要な〝チャレンジ〟です。

 もちろん顧客の信用を落とすとか、会社に大損害を与えるといった極端な結果を回避するためのケアは必要でしょうが、基本的には、「チャレンジが人を育てる」というのは経営者に欠かせない発想だと思います。

 ただし、人を育てるという観点で〝チャレンジ〟を考える場合、決して忘れてはいけないのは、そのチャレンジが結果だけを求めるものであってはいけない、ということです。

 例えば、両足飛びができるようになった3歳くらいの子どもに、地面に置いたたくさんの輪の中をジャンプしながらゴールする、というテーマを与えたとします。

 そのとき、「誰が一番早く着くかな?」などと声を掛けると、たいがい置かれた輪はぐちゃぐちゃになります。中には、ほとんどジャンプをせずに、ゴールに向かう子どももいます。

 つまり、子どもたちは、一番早くゴールすることだけにこだわってしまい、肝心のジャンプがおろそかになっているのです。

 けれども、そもそもここで大切なのは、正確にジャンプをすることであり、ゴールはその結果にすぎません。

 まわりにいる大人は、このテーマの本質、つまり、これはジャンプがもっと上手になるための練習なのだ、ということをきちんと教える必要があるのです。

 輪の中に足をいれて次の輪までジャンプすることをきちんと繰り返すのが一番大事なことなのだと丁寧に話してあげれば、子どもたちは、これはジャンプの練習なのだ、ということをちゃんと理解します。

 そして上手にジャンプしようと一生懸命頑張るようになります。そうすると結果的にジャンプは上手になり、次第にスピードも早くなります。

 これは、練習の本質が達成されたことによる、好ましい結果だと言えるでしょう。

 「振り返り」指導が前向きさと自信をつくる

 人材育成の場合もこれと同じことが言えます。

 例えば、1カ月で新規契約を5本獲得する、という大きなテーマを与えたとしましょう。

 人材育成という側面から考えるならば、このテーマの本質は、契約を取るための〝自分なりの設計図〟が描けるようになること。つまり、例えば、顧客をリストアップして、アポイントをとり、先方のニーズをヒアリングして、適切な提案をして……という契約に必要な段取りを、どう実行していくかという自分なりのルール作りができるようになることです。

 もちろん、契約5本獲得というのが〝目標〟ですから、それが達成できなかったという事実を本人にきちんと自覚させることは大切です。

 けれども、指導する側は、結果がすべてでは決してない、というスタンスで彼らの〝チャレンジ〟に向き合うことが重要なのです。

 そもそも契約5本獲得という結果だけにコミットした指導というのは、どうしても小手先のテクニックになりがちです。

 そのテクニックによって、確かに一時的な成果は得られるかもしれませんが、それで〝継続的な結果〟を挙げられるという保証はありません。

 自分の強みを生かした、〝自分なりのやり方〟を、本人が見つけてこそ成長であり、その人が本当の意味で、「成果を挙げる」能力を身に付けなければ、チャレンジの意味はないのです。

 ごく一部の極めて優秀な人は、最初から設計図もうまく描き、結果も出すかもしれませんが、最初はなかなかうまくいかない、というケースがほとんどでしょう。

 そこでなにが重要かと言えば、うまくいかなかったという事実よりも、その状況に対してどう対応するか、を学ばせること。つまり、「どうやったらうまくいったのか」という「振り返り」の視点をもたせることです。これは、自分の力のなさを嘆く「反省」ではありません。

 単なる「反省」では、自己否定しかできませんが、「どうすれば、うまくいったのか」という、経験を次に生かす意識づけがしっかりできれば、「次はうまくいく、やりきれる」という自信がつきます。

 この自信によって、次のチャレンジで結果を出すことができれば、それこそが本当の成功体験になります。それによって、その人は確実に次のステップに登ることができるでしょう。

 人を育てる〝チャレンジ〟とは、つまり、成功体験を積み上げるプロセスなのです。

 

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