政治・経済

見慣れた光景が、意外なコンテンツとなる「地域」

 海外を旅してみると、都会よりも自然豊かな地方で思わぬ発見や魅力的な出会いがあることが多い。無国籍化され、人の数も多い都会では、その国本来の持つ魅力に出会うことは難しくなっているのかもしれない。

「人の交流を盛んにすることで地域を元気にできるはず」と語る須藤氏

「人の交流を盛んにすることで地域を元気にできるはず」と語る須藤氏

 その国ならではの気候風土が育み、醸成された豊かな食と独自の文化が濃厚に残っている「地域」は、今後のインバウンド戦略の上でも重要な地域となる。ただ、どんなに素敵な地域だとしても知られる努力やお客さんを迎え入れる準備をしていなければ、インバウンドにはつながらない。

 ANAグループ内で調査や研究などシンクタンク業務を担うANA総合研究所では、ひとつの事業として地域活性化支援事業を行っている。

 「人の交流を盛んに、地元のいいものを外部に売り出していく」ことを目的に始められたこの取り組みは、現在、熊本県の天草市や愛媛県の宇和島市、高知県四万十市など日本各地の7地域に移住する形で8人が活動を行う。移住ではないが、ほかにも4カ所通いで活動を行う場所もある。派遣される研究員はANA総研の社員はもちろん、グループ会社の社員が休職して参加する場合もある。

 この事業を統括する主席研究員の須藤誠氏に事業のきっかけについて聞いてみると、「少子高齢化が進んでいる中で、子どもが生まれている場所も都市圏で5割以上になってきています。このままではUターンや里帰りという言葉まで死語になりかねません。一方で旅という需要はありますから、里帰りに変わってどこか行きたい場所、魅力的な場所を見つけておきたい、というのがきっかけです。今では、こんなにいい場所があるのだから、海外の方にも来ていただきたいなとも考えております」と、あくまで地域の活性化が主目的で、その延長線上に観光需要を見据えている。

港と教会の風景が旅情を誘う熊本県天草市

港と教会の風景が旅情を誘う熊本県天草市

 研究員の活動例はというと、例えば、鹿児島県の薩摩川内市では、本土から30キロの沖合に浮かぶ甑島列島で観光PRや島の名産「きびなご」のレシピを紹介するなど島の人たちと一緒になって活動を行う。

 地域の価値を「これだ」と言い切ることは難しい。日本人と外国人の興味が違うし、それこそ日本人であっても千差万別だ。

 北海道の根室市では大鷲が空を舞う。地元の人にとってはそう珍しくない光景ではあるが、欧州の人にとってみれば、これは貴重なのだそうだ。バードウオッチングは上流階級の趣味だそうで、極東で大鷲の舞う姿を観察する。それこそ仲間に自慢できる贅沢。こういった価値を探る、これが研究員の大事な使命のひとつなのだ。

ANAの戦略 地域の価値を どう、「旅」に結ぶのか

 ANAグループも、この取り組みを黙って見ているわけではない。地域の価値を理解し、お客さんから喜ばれるものであればサービスに採用される。

 「Tastes of JAPAN by ANA」は47都道府県の魅力を前面に出した食やお酒などの名産品を機内や空港ラウンジで提供する取り組みだ。前出の「きびなご」を使った軽食が昨年、今年は宇和島市産のブラッドオレンジを使用したマーマレードが、機内やラウンジで提供された。この機会を利用して地域の味を知ってもらうことで、その生産地にも興味を喚起し、旅へとつなげる狙いもある。

 ANAは、訪日需要喚起のため、海外居住者(日本人は永住権所持)を対象にした「Experience JAPAN Fare」も設定している。全国どの区間でも1区間1万800円で行ける。「外国の方にとっても、日本の旅で2つの違った側面を観たい場合、例えば東京プラス1と考えてみると、地方の都市に行くよりも、もっと田舎に向かうほうがよほど魅力的な旅になるのではないかと思います」(須藤氏)。

 「地域」の価値発掘をインバウンドにつなげるこの試み。最後に須藤氏に地域の価値をどうインバウンドにつなげればよいかと尋ねると、「田んぼの中のお地蔵さんを、『あれは、何だ』と興味を持たれる方も多いんです。そういったことをストーリーとして語れるといったことなのかもしれません」と言う。また、継続性についても、「リピーターになる人は、人に会いに来るんですね。里帰りするように、血のつながらないおじいちゃんやおばあちゃんに日本人も外国人も会いに来る」。そんな姿を理想とする。地域発掘とは、第2の故郷づくりと言えるのかもしれない。

(文=本誌/古賀寛明)

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