国際

株主総会で苦境に立たされたウォルトディズニーの経営者

ウォール街が今年注目した株主総会は、JPモルガン・チェースだった(撮影:津山恵子)

ウォール街が今年注目した株主総会は、JPモルガン・チェースだった(撮影:津山恵子)

 米国は5月、株主総会シーズンを迎えた。日本の株主総会は取材しても面白いものはなかったが、米企業のそれは、緊張感に満ちて、毎年、企業や経営者の在り方を考えさせられる。

 米国に来て最初に取材をしたのは、2004年、ウォルト・ディズニーの総会だった。業績不振を理由に、当時の最高経営責任者(CEO)だったマイケル・アイズナー氏の不信任投票が行われる予定で、多くの報道機関がペンシルベニア州フィラデルフィアの総会会場に駆けつけた。

 巨大なホテルの会場前には、株主を迎える数十体のミッキーマウスの人形が飾られ、明るい雰囲気だ。しかし、アイズナー氏が、不信任投票で辞任に追い込まれるかもしれないという緊張感が会場を包んでいた。司会にあたった役員が、

 「私はディズニーを愛しているし、株主のみなさん、社員、そして私の妻、4人の子どもに感謝している」と言うところを「14人の子ども」と言い間違えた。場を盛り上げるところが、いかに緊張していたかが分かる。

 株主投票の結果、実に43%が不信任だったが、アイズナー氏の首はつながった。しかし、株主の半分近くが同氏の経営手腕に不審を抱いているという結果は重く、翌年、同氏は20年君臨したCEO職を退任した。

「最強のバンカー」も株主総会でピンチに

 今年、ウォール街が最も注目したのは、金融大手JPモルガン・チェースの株主総会だ。

 総会では、会長兼CEOのジェイミー・ダイモン氏の会長とCEOの職を切り離す株主投票が行われた。「もの言う株主」らは、同行の「ロンドンのクジラ」と呼ばれたトレーダーが出した取引損失で、62億㌦もの損失を計上した問題をきっかけに、役職分離を求めていた。

 投票結果は、役職分離賛成の票が32・2%にとどまり、ダイモン氏は引き続き、会長職を兼任することになった。

 ダイモン氏は、若い頃からウォール街で「最強のバンカー」と呼ばれた。経営不振の地銀大手バンク・ワンをリストラで立て直し、JPモルガンがバンク・ワンを買収した際、CEO含みでJPモルガン社長に就任。07年から始まった金融危機の際も他行よりも四半期赤字に陥ることなく、投資銀行大手ベアー・スターンズを救済合併。その手腕は、高い評価を受けている。

 しかし、「ロンドンのクジラ」問題では、監督責任をめぐって、苦境に立たされた。JPモルガンは内部調査報告書を出し、ダイモン氏は「上級幹部からの報告を鵜呑みにしていた」ことに瑕疵があったとして、巨額損失の責任を取る形で、昨年の報酬を半分に減額した。その後も、米上院常設調査小委員会は3月、ダイモン氏自身が、積み重なる損失の隠蔽を意図し、投資家を欺いただけでなく、監督当局の目をごまかしていたとする報告書を公表した。

 こうした動きを受けて、株主総会に先立ち、米議決権行使助言会社のインスティテューショナル・シェアホルダー・サービシーズ(ISS)などは、会長とCEOの職務を分離するように、株主に働き掛けていた。

 これに対し、ダイモン氏が優れた経営者だっただけに、「役職を切り離す必要があるのか」とする新聞への投稿が目立った。JPモルガン側も、ダイモン氏の実績を重視し、役職分離を避けるよう、株主に働き掛けていた。同氏が会長職を切り離された場合、CEOも退任するという意向を示したという報道で、反対票を投じた株主も多いという。

経営者、コーポレートガバナンスについて考えるきっかけに

 結果はともかく、ダイモン氏の去就も含めて、株主総会前にこれだけの議論が展開されたことは、経営者や危機管理、コーポレート・ガバナンスについて、株主や消費者が考えるきっかけになる。「もの言う株主」が常に正しいとは言えないが、それだけ企業に厳しい目を向けていれば、当然、企業が常に改善、改革を続けていかなければならないことを自覚させる。

  一方、話題の企業、アップルは4月、株価が下がり続ける中、調達額が170億㌦に上る社債発行を発表した。高収益から得た1446億㌦という潤沢な手元資金を持ちながら、あえて社債を発行したのは、これも株主対策だ。調達資金を、配当の増額や自社株買いなど株主還元策に使う。この発表直後、株価は10%跳ね上がった。

 しかし、これに対しては、アップルファンから不満の声が上がっている。共同創業者の故スティーブ・ジョブズ氏は、手元資金を株主にではなく、消費者のために、新商品の研究開発(R&D)に振り向けていたからだ。

 アップルの起債は、株主の圧力で、企業文化を犠牲にしていいのかどうか、考えさせられた。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る