テクノロジー

モノづくりの原動力・知的財産などが攻撃されれば、社会全体の脆弱性が高まりかねない

安価な防御モデルを開発、4年後に運用開始

 今回は、サイバー攻撃による被害から日本国内の中小企業を守ろうと、その仕組みづくりに取り組んでいる総務省情報流通行政局情報流通振興課情報セキュリティ対策室の鈴木智晴課長補佐に登場いただいた。

 同対策室はこのほど、中小企業のセキュリティー対策について安価な防御モデルを研究・開発し、4年後からの運用を目指すとの初めての方針を打ち出した。同対策室は、実現すれば人材不足などからシステム担当者を置く余裕のない中小企業にとって朗報になるはずだと言っている。

-- 総務省として、こうしたプロジェクトに取り組むことになったきっかけは何だったんですか。

鈴木 現在、スマートフォンやクラウドの利用が増加するなど社会経済活動の情報化が進んでいます。その一方でサイバー攻撃など情報セキュリティーへの脅威も拡大しています。攻撃の態様も年々、巧妙化・複雑化し、攻撃の対象も国会や政府機関などに拡大し、被害も深刻化しています。

 そこで今春、総務省内に「情報セキュリティ・アドバイザリーボード」(座長=山口英・奈良先端科学技術大学大学院教授)を設置し、安心・安全な情報通信ネットワークを確保するための効果的な対策や、日本の経済成長につながるような有効な施策について検討してもらいました。

 4月5日に提言を受けたのですが、その中に「中小企業の情報セキュリティー対策を底上げすべきだ」という項目がありました。内容は①中小企業は、モノづくりの原動力として知的財産などを持っているが、それがサイバー攻撃の標的あるいは踏み台になる可能性がある②その一方で情報セキュリティーは企業の利益と直接的につながりにくいことから、企業トップが情報セキュリティーへの理解が浅いケースもある③その結果として組織全体の対策が遅れたりすれば、社会全体の脆弱性につながりかねない――という指摘がありました。

-- 中小企業はパソコンの中に価値のある知的財産や技術を保存しているのでしょうが、それがサイバー攻撃に対して無防備の状態になっているのではないか、もしそれらが攻撃されれば被害が拡大しかねない、というわけですね。

サイバー攻撃からの防御意識が低い中小企業

鈴木 そうです。中小企業の中には人員・資金不足などを背景に情報セキュリティーに詳しいシステム担当者を置く余裕のないところもあります。中小企業数社を対象にヒアリングを実施したところ「セキュリティー対策はとっていない。経営を黒字にするのが最優先課題であり、その先は考えられない」「システム担当にカネも人も割けない。社員が100人いるとして、その中から1人出せるかどうかだ」「どういう対策をとったらいいのか分からない」「セキュリティー対策システムも1社で買えば高額になり、手が出せない」といった意見がありました。全体としてサイバー攻撃に関する意識は高いと言えない状況です。

 こうした実情を背景にして「アドバイザリーボード」は「最低限の情報セキュリティーを確保するための防御モデルをパッケージで中小企業に提供できるようにすべきだ」などと提言しました。

 これを受け企業側の意向を斟酌しつつ、2014年度予算で15億円を概算要求し、情報セキュリティー対策の基準作りや、防御モデルの有効性を確認する実証実験などを行うことにしました。具体的にはインターネットサービス会社がセキュリティー対策を組み込んだネットワークやシステム基盤を1つのパッケージにしたものを考えています。多数の企業が採用できるよう共通化も進め、脆弱性の克服もまとめて実施するという考えです。これによって企業側の負担も少なくすみますし、多くの人手をかけないですむはずです。

-- ところで大企業がサイバー攻撃を受けたというケースは、これまでにも明らかになっています。中小企業の場合、攻撃された例はあるのでしょうか。

鈴木 大企業の場合でも届け出がない限り全体の数は不明です。他方、中小企業については被害を受けたという話はあまり聞きません。しかし、実際は攻撃を受けているのではないでしょうか。さらに懸念すべきなのは、攻撃を受けたこと自体、分からないままというケースが考えられるという点です。

-- 防御モデルはどれくらいの値段になるのでしょうか

鈴木 モデルを売る側には「高価なものになると、売れない」という悩みがあります。その点も含めて検討していきますが、できるだけ安くし、例えば月額数千円程度に抑えたいですね。

***

問い合わせ先/同セキュリティ対策室 03 ―5253 ―6111(内線26760)

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

元引きこもり青年が「cluster」で創造する新たなVRビジネスとエンターテインメント(加藤直人・クラスターCEO)

バーチャル空間で開催される会議や音楽ライブなどに、3Dアバターで参加できる画期的サービス「cluster」を生み出したのは、元引きこもりのオタク青年だった。エンタメの世界を大きく変える可能性を秘めたビジネスで注目を浴びる経営者、加藤直人氏の人物像と「cluster」の展望を探る。(取材・文=吉田浩)加藤直人・…

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年2月号
[第44回 経済界大賞]
大賞 北尾吉孝(SBIホールディングス社長)

  • ・[優秀経営者賞]貝沼由久(ミネベアミツミ会長兼社長)、星野晃司(小田急電鉄社長)、分林保弘(日本M&Aセンター会長)、河野貴輝(ティーケーピー社長)
  • ・[地方創生賞]笹原晶博(北海道銀行頭取)
  • ・[ベンチャー経営者賞]松下 剛(MTG社長)
  • ・[グローバルチャレンジ賞]猪塚 武(キリロム工科大学学長)

[Special Interview]

 北尾吉孝(SBIホールディングス社長)

 企業生態系を構築し20年で一大金融グループに

[NEWS REPORT]

◆上場前に大規模システムダウン ソフトバンクの明日はどうなる?

◆ゴーン逮捕から1カ月 起こりうる日産「最悪のシナリオ」

◆LINEとのアライアンスに託す 苦境に立つみずほFGの一手

[特集]せとうち復興

 被災地は観光でよみがえる

ページ上部へ戻る