政治・経済

 2007年10月に田辺製薬と三菱ウェルファーマが合併して誕生した田辺三菱製薬。その後は不祥事が続き、当初描いていたグローバル化構想が足踏み。合併そのものの失敗が囁かれるなど、大きな正念場を迎えている。

合併後の田辺三菱におとずれた子会社による不祥事

 「合併してもう7年もたったのに、やっていることはずっと変わっていない。正直、パッとしない感じだ」

 田辺三菱製薬は、事業規模4千億円、国内で7位に位置する準大手クラスの製薬企業である。ただ、国内化学メーカー最大手である三菱ケミカルホールディングスの連結子会社という立ち位置も影響してか、冒頭のアナリストの指摘のように、あまり日の目を見ない会社だ。

三津家正之氏

三菱系で初めて社長に就く三津家正之氏(Photo=時事)

 それでも化学合成技術をベースとする伝統的な製薬企業という意味で、田辺三菱は武田薬品や第一三共といった、国内大手クラス以上の成果を挙げている。

 世界初の経口多発性硬化症治療薬「ジレニア」(スイス・ノバルティス)、米国FDA(食品医薬品局)が初めて承認を与えた新規クラスの糖尿病治療薬「インヴォカナ」(米ジョンソン・エンド・ジョンソン=J&J)は、いずれも旧田辺製薬がグローバル・メガファーマに海外ライセンスを与えることで、フロントランナーとして製品化にこぎ着けた画期的新薬だ。向こう数年間、田辺三菱は利益に直結する多額のライセンス収入を安定的に見込める状況にある。

 主戦場である国内医薬品市場に有望な新薬を導入し、ヒット製品に育て上げる試みもうまくいった。J&Jの「レミケード」は、それまで有効な治療法がなかった関節リウマチを劇的に改善することを可能にしたバイオ医薬品の嚆矢だが、これを日本に導入し大型製品に育て上げたのは田辺三菱である。

 こうした実績があるにもかかわらず、同社は発足から7年がたった現在も、いまだに日本の製薬企業として海外市場でプレゼンスを示していない。

 田辺三菱の合併初年度(2008年3月期)の売上高は4094億円。これに対し、直近14年3月期のそれは4127億円である。7年間ほとんど横ばいという停滞は、統合後に非コア事業の切り離しを進めたこと、さらに折からの後発医薬品の台頭で特許切れ製品の収入が軒並み削られたことなどが主因だが、ひとつ定性的な理由を挙げるとすれば、ここ5年ほど不祥事まみれの時期を過ごしたことだ。

 血液製剤特有の感染症リスクを排した世界初の遺伝子組み換え血漿アルブミン製剤として08年に売り出されたのが、新生・田辺三菱の輝かしい象徴となるはずだった「メドウェイ」だ。ところが、その製造販売承認の根拠となった品質データの一部が、子会社のバイファ社員によって改竄されたものであったことが、10年に発覚した。

 バイファの監督責任を問われるかたちで、厚生労働省から1カ月近い営業停止処分を受けた田辺三菱だったが、その後も不祥事の連鎖は止まらなかった。翌11年には、別の製造子会社の管理下にあった栃木県の工場で、医薬品の品質チェック体制に問題があったことが、新聞報道によって暴かれた。さらに13年には、またしてもバイファが、メドウェイに未承認の添加物を使用していたことが発覚している。

合併時の田辺三菱が描いていた展望と現実

 10年に顕在化したメドウェイ事件を契機に、田辺三菱の最重要経営課題は「信頼回復」と「コンプライアンス向上」になった。この時点で、合併をまとめた葉山夏樹社長ら当時の田辺三菱経営陣が発足時に描いていたグローバル化の青写真は、半ば頓挫したと言える。加えて不祥事を理由に取引停止とされた大病院などでの売り上げ減少、営業マン(MR)の士気低下など、深刻な傷跡を残すことになった。

 田辺三菱の苦闘は今後も当面続きそうだ。15年3月期の売り上げ予想は4090億円。国内事業は薬価引き下げと後発品との競争で苦戦が続いており、冒頭で紹介したジレニアやインヴォカナが海外で順調に育ってきたことで、辛うじて事業の大幅な縮小退行を防いでいるというのが実態だ。

 こうしたタイミングで今年6月、旧三菱化成出身の三津家正之氏が社長に就任し、これまでの田辺系から三菱系に初めて経営トップが交代した。託された経営課題は、国内事業の立て直しと並行して、出遅れた国際展開に向け、いかにスピーディーに布石を打つかだ。

 ただ、海外での自社販売が可能な有望新薬候補は、まだ育っていない。加えて、親会社である三菱ケミカルHDとの連携やシナジーもいまだ具体的な姿は見えてこない。三菱ケミカルHDは今年、小林喜光社長の肝いりで、医療情報サービスなどを手掛けるヘルスケア子会社を立ち上げたが、これが医薬品事業にとって追い風になるとは考えにくい。むしろ、「小林社長は不祥事続きで業績も伸びない田辺三菱に見切りを付け、『キャッシュ・ディスペンサー』として可能な限り利益を吸い上げる腹積もりでは?」(前出のアナリスト)と評されている。

 このまま国内ビジネスを主体に、他力本願の海外ロイヤリティーという余禄を楽しむ準大手クラスとして存続できたとしても、07年の合併は失敗だったと評さなければならないだろう。誕生から7年、控えめに表現しても同社の現在地は、「グローバル化」という名の厳しい山道において、ようやく五合目に差し掛かったにすぎない。

(文=ジャーナリスト/岡部太一)

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