政治・経済

 ルネサス エレクトロニクスが再び人員削減を実施する。通算6回目、今年に入って3回目となり、その頻度にまず驚く。そして今回は一見すると達成困難な募集人員を掲げているが、対象を「諸施策に沿えぬ者」と明記するなど、ただならぬ状況がうかがえる。

過去2回が低調で今年3回目のリストラ

 ルネサス エレクトロニクスが12月に早期退職者優遇制度を実施すると発表した。ルネサスとしては通算6回目、今年に入って実に3回目の実施である。

作田久男・ルネサス エレクトロニクス会長

作田久男・ルネサス エレクトロニクス会長

 ルネサスは2014年度第2四半期に7四半期連続で営業黒字を達成するなど、作田久男会長就任以降の構造改革で着実に業績を改善させてきている。その一方で、構造改革は1年目よりも、2年目、3年目と継続して成果を出すことが難しい。ルネサスでも現在の業績回復を実力ではないとしており、これからが正念場と位置付ける。そのため今後を見据える形で再度の早期退職優遇制度に踏み切る。

 6回目の今回は、新たな人事処遇制度を中心とした一連の事業再編策に沿えないと考える35歳以上の従業員や設計・開発拠点の再編などに伴う異動が困難な社員の退職や再就職の支援等を目的としている。募集人員は1800人で、対象は同社および国内関連子会社の35歳以上の社員等(約1万4千人)。また、拠点再編に伴い、居住地の変更が必要になる社員は年齢を問わないという。募集期間は12月10日から19日までで、退職日は来年1月31日となっている。

 もともとルネサスでは今年の初めに内々で5400人規模の人員削減の必要性を示しており、5月の時点でも作田会長が「まだ25%の余剰感がある」と語っていた。今年に入ってからの早期退職者優遇制度の応募者が3月上旬の4回目で696人、8月末の5回目で361人に終わり、目標まではまだ4千人以上の開きがある。それだけに今後もさらなる人員削減は予想されていた。しかし今回発表した6回目の実施に違和感を抱く者は少なくないだろう。

 まずは今年だけで3回目になるということ。本誌既報でいくどか触れているとおり、ルネサスは産業革新機構の支援を受け、国税が投入された国策企業だ。社業は半導体という一般消費者の目に触れることの少ない製品を扱っているが、一挙手一投足への関心は以前よりも高まっている。国策企業において、このような度重なる人員削減の実施は醜態とも言える。

 ルネサスの最大の問題は、日立製作所、三菱電機、NECの3社の半導体事業が統合したことで、生産拠点や組織が重複し固定費が非常に重くなっていることだ。現経営陣が進めている拠点の統廃合や組織再編は、そもそも日立と三菱の事業部が統合したルネサス テクノロジの時代に実行しておくべきことであり、またNECエレクトロニクスと統合した現在のルネサスの誕生直後にも実行しておくべきことだった。

 現経営陣にとっては、度重なる人員削減は過去の「宿題」を着々とこなしているだけかもしれない。しかし今年だけで3回も追加して実施する人員削減は無計画に映る。

成果主義の導入で退職に追い込むリストラの惨さ

 次に違和感を抱くのは、今回の募集人員に1800人を掲げたこと。今年の2回で1057人がルネサスを去った。普通に考えると、1年とたたない間に実施する再度の募集に過去2回よりも多くの従業員が応じるとは考えにくい。

 一見すると達成困難な数字を掲げたところに、今回の6回目の惨さがうかがえる。過去2回よりも多くの退職者を募る背景として、今回の対象が、「変革プランの方針や諸施策に沿えないと考える社員や設計・開発拠点の再編などに伴う異動困難者」であることだ。また、前回の5回目は主に高崎事業所への異動困難者を対象にしたもので、異動困難者を狙い撃ちして退職に誘導する施策になっていた。今回は武蔵事業所(東京都小平市)をはじめとした高崎事業所以外への異動困難者を対象としており、ほぼ全社規模で展開される施策と考えてよい。

 ルネサスが10月から実施している人事処遇制度は、基本給を全員一律で7・5%減額し、多くの従業員の等級を低位に降格させるもの。降格により役職手当がなくなる従業員が続出し、これに加えて家族手当も廃止するため、月収レベルでは平均10%程度の減収となるという。

 ルネサスでは、減収分を人によっては成果に応じて賞与で報いるとしており、実質的に「成果主義」に移行した。現経営陣にしてみれば、ルネサスの従業員は今までが恵まれ過ぎていたのであり、会社の業績が下がれば収入が減り、業績が上がれば収入が増えるという「当たり前の状態の会社」にすることが必要と考えている。そのための成果主義の導入だという。

 しかし実際に降格させられた従業員にとっては、収入が減り、職位も下がる状況で、モチベーションの低下は否めない。退職制度の対象に「諸施策に同調できない人間」と明記すること自体、従業員側から相当な反発があることを物語っている。また35歳以上と本来ならば中心戦力となる年齢層にまで対象を広げていることからも、内部のただならぬ状況がうかがえる。

 従業員の神経を逆撫でし、退職に誘導していく意図が見え隠れするが、これも国策企業のやり方としていかがなものかという疑問が残る。経営陣の狂気だけが浮き彫りになる印象を受ける。

(文=本誌/村田晋一郎)

 

【ルネサス】関連記事一覧はこちら

【政治・経済】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

深読み経済ニュース

一覧へ
一般社団法人かぎろい出版マーケティング代表 西浦孝次氏

[連載] 深読み経済ニュース解説

2015年の経済見通し

[連載] 深読み経済ニュース解説

再デフレ化に突入し始めた日本経済

[連載] 深読み経済ニュース解説

消費税率引き上げ見送りの評価と影響

[連載] 深読み経済ニュース解説

安倍政権が解散総選挙を急ぐ理由

実録! 関西の勇士たち

一覧へ

稀有のバンカー、大和銀行・寺尾威夫とは

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第20回)

実録! 関西の勇士たち

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第17回)

三和銀行の法皇・渡辺忠雄の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第14回)

住友の天皇・堀田庄三の人生

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第11回)

商売の神様2人の友情 江崎利一と松下幸之助

[連載] 実録! 関西の勇士たち(第7回)

関西財界の歴史―関経連トップに君臨した芦原義重の長期政権

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

現存の不動産に新しい価値を創造する「心築(しんちく)事業」とJ‐REIT運用、太陽光などのクリーンエネルギー事業が主力。社名の「いちご」は一期一会に由来しており、サステナブルインフラを通じて日本の社会を豊かにすることを目指している。文=榎本正義(『経済界』2019年9月号より転載) 長谷川拓…

次世代車向け先進技術を応用する日本発プラットフォーマー ―イーソル

社員に奨学金を提供―ミツバファクトリーが実践する中小企業が勝つための福利厚生とは

新社長登場

一覧へ

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

アサヒグループ食品の副社長から、この3月にアサヒビールの社長に就任した塩澤賢一氏。長年、ビール営業畑を歩み、マーケティングを兼ねた繁華街歩きを趣味にしている。街の変化から世の中の流れを読む塩澤新社長が挑むのは低迷するビール市場の活性化。若者需要を伸ばしつつ、スポーツイベントを商機として攻勢をかけていく。聞き手…

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年9月号
[特集] 東京五輪以降──ニッポンの未来
  • ・2度目の東京五輪 今度はどんなレガシーが生まれるのか
  • ・高岡浩三 ネスレ日本社長兼CEO
  • ・脱CO2の切り札となる水素活用のスマートシティ
  • ・五輪契機にテレワーク普及へ「柔軟な働き方でハッピーに」
  • ・ワーケーション=仕事×余暇 地域とつながる新しい働き方
  • ・「ピッ」と一瞬で決済完了! QRしのぐタッチ決済の潜在力
  • ・東京五輪で懸念される調達リスク
  • ・フェアウッド100%使用にこだわる佐藤岳利(ワイス・ワイス社長)の挑戦
[Special Interview]

 原田義昭(環境大臣・内閣府特命担当大臣)

 世界の脱炭素化、SDGs「環境」が社会を牽引する

[NEWS REPORT]

◆フェイスブックの「リブラ」で仮想通貨も「GAFA」が支配

◆脱炭素社会へ 鉄リサイクルという光明

◆PBの扱いを巡り業界二分 ビール商戦「夏の陣」に異変あり

◆中国の次は日本に矛先? トランプに脅える自動車業界の前途

[特集2]

 北の大地の幕開け 北海道新時代

・ 鈴木直道(北海道知事)

・ 岩田圭剛(北海道商工会議所連合会会頭)

・ 安田光春(北洋銀行頭取)

・ 笹原晶博(北海道銀行頭取)

・ 佐々木康行(北海道コカ・コーラボトリング社長)

・ 會澤祥弘(會澤高圧コンクリート社長)

・ 佐藤仁志(北海道共伸特機社長)

・ 内間木義勝(ムラタ社長)

ページ上部へ戻る