国際

ファースト・ドッグ、大統領の犬に習う英会話

大統領は孤独な存在だ。トルーマン大統領は、

“If you want a friend in Washington, get a dog.”

〈ワシントンで友人が欲しいなら、犬を飼うことだな〉

 という名言を残している。

 しかし、2009年の春先にオバマが犬を飼ったのは胸襟を開いて話せる相手として、ということではなかった。マリアとサーシャ、2人の娘との「公約」をオバマ家の家長として果たしたのである。

 大統領に当選したら、犬を飼ってあげるとオバマは娘たちに約束していたからだ。

 当初、オバマは犬の選定に関して、こう言っていた。

“Our preference would be to get a shelter dog, but, obviously, a lot of shelter dogs are mutts.”

〈われわれの望みとしては動物収容所に保護されている犬ですが、明らかに保護犬のほとんどは雑種です〉

 muttとは、雑種のことである。shelterとは核シェルター(nuclear shelter)などと使われるように、避難所、とか、収容所、のことである。この場合のshelter dogとは、

“A dog temporarily resident in or obtained from an animal shelter.

〈一時的に動物収容施設に保護された犬〉

 という意味で、オバマは自分もmutt、混血であることから、保護された雑種を望んでいた。

 そして、もう1つ条件があった。娘のマリアがアレルギー体質なので、アレルギー発作の原因となる種類を飼うわけにはいかなかった。

 オバマは言った。

“Malia is allergic, so it has to be hypoallergenic.

〈マリアはアレルギー体質なので、低刺激性でなければなりません〉

There are a number of breeds that are hypoallergenic.”

〈低刺激性品種の犬というのは多く存在します〉

 hypoallergenicというのは低刺激性の、とか、アレルギー反応を引き起こしそうな物質を取り除いた、という意味で、hypoallergenic cosmeticsとは、低刺激性化粧品、である。

ところが、このオバマの発言は大きな反響を生んだ。当時、オバマはまだ人気の絶頂にいたから、アメリカの動物保護団体から隣国カナダの動物保護団体まで、尻尾を千切れんばかりに振りながら、「ぜひうちの団体からファースト・ドッグ(first dog)を!」となだれを打って押し寄せた。

 収集がつかなくなったこの状況から救い出してくれたのは、大統領選で早い時期からオバマを支持して来たテッド・ケネディ上院議員だ。

 毛が飛び散らないポルトガル・ウォーター・ドッグ(Portuguese Water Dog)をプレゼントしてくれた。もっと正確に言うと、ケネディ上院議員が間に入って、テキサスのブリーダーから迎えられたのが、この「ファースト・ドッグ」である。ケネディの愛犬もファースト・ドッグの同胎犬の1頭なのだった。Hypoallergenic dog(低刺激性の犬)である。これが09年4月12日のことで、テッド・ケネディは数カ月後の09年8月25日に他界した。享年77。脳腫瘍が原因だ。最後の大仕事がファースト・ドッグの仲介ということになる。

 オバマ家にやってきた犬、ポルトガル・ウオーター・ドッグは黒色と白色が交ざっていた。白人と黒人のハーフであるオバマと一緒だ。「ボー」と名づけられた。前脚とお腹が白で、その他は黒い毛で覆われている。まるでタキシードを着ているようだ、とワシントン・ポスト紙で評された。

 あれから5年。今年8月19日にオバマ家に新しい家族が加わったという発表があった。ホワイトハウスの公式ブログで発表された犬の名前はサニー。

 先住犬のボーと同じく、ポルトガル・ウオーター・ドッグである。

“Bo now has a little sister to romp with.

〈ボーはついに、じゃれあう妹ができました〉

 とあるだけで、後は

She is 14 months old and was born in Michigan.”

〈彼女はミシガン州生まれの1歳2カ月です〉

 とあるだけで背景情報、例えばshelter(施設)からやってきたmutt(雑種)であるということは明かされていない。

[今号の英語]testify
 testifyとは、証言する、という意味である。
 ビル・クリントン元大統領の現役時代の写真である。彼の愛犬バディーがホワイトハウスの大統領執務室でクリントンと戯れている写真のキャプションが、こうだった。
“At last, a friend who can’t testify against him.”
〈ついに、彼を糾弾する証言台に立たない友人出現〉
 これは、野暮な解説をすれば、モニカ・ルインスキーをはじめとするクリントンを糾弾してきた一連の女性群と、冒頭のトルーマン大統領の言葉、
“If you want a friend in Washington, get a dog.”
〈ワシントンで友人が欲しいなら、犬を飼うことだな〉
 に呼応する一文だった。

 
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