マネジメント

 18年前にベンチャーキャピタル(VC)事業を立ち上げ、有望なベンチャー企業の支援を続けてきた堀義人氏。その一方で経営大学院の運営を手掛け、人材、資金、知恵とあらゆる面から「創造と変革の志士」を生み出すために取り組んできた。その堀氏は今、日本の起業家たちを取り巻く環境が、これまでとは明らかに変わってきたと感じている。この先、日本から世界に羽ばたくベンチャー企業はどれだけ生まれるのだろうか。

起業の環境は明らかに良くなったと語る堀義人氏

── ベンチャーキャピタル(VC)による投資額をGDP比で見ると、日本は米国の7分の1、韓国の2分の1という状況です。この現状をどうとらえていますか。

 例えて言えば、米国の環境は、綺麗な滑走路があって、ジェット機に訓練されたパイロットが乗っていて、しっかりとした燃料が積まれていて、管制塔が的確な指示を出すことができる。一方、日本の場合はデコボコの滑走路の上を、セスナ機に熟練していないパイロットが乗って、燃料も少ししかなく、管制塔は不慣れ。それでやっと飛び立っても戦えません。だから、滑走路も飛行機パイロットも管制塔も、すべてを良くしていかなければならないと思っています。滑走路というのはいわば生態系です。すぐに人材が調達できるか、アドバイザーがいるか、燃料注入するVCやインキュベーターが周りにいるかといった問題があります。パイロットに当たる起業家は、熟練度をどれだけ高められるか、管制塔に当たるVCなどが、起業家にしっかりしたアドバイスができるかどうかといったことが課題です。

 ただ、最近になって日本の状況もかなり変わってきて、2回、3回と起業するシリアルアントレプレナーも増えてきています。われわれVCも経験を積んだことにより、十分にお金が集まる環境ができてきています。

堀 義人

堀 義人(ほり・よしと)
1962年生まれ。京都大学工学部卒業後、住友商事入社。同社在籍中にハーバード大学経営大学院に留学し修士課程修了(MBA)。住友商事退社後の92年、株式会社グロービス設立。96年グロービス・キャピタル、99年エイパックス・グロービス・パートナーズ(現グロービス・キャピタル・パートナーズ)を設立。2006年4月、グロービス経営大学院を開学、学長に就任する。世界経済フォーラム(WEF)が選んだNew Asian Leaders日本代表、米国ハーバード大学経営大学院アルムナイ・ボード(卒業生理事)等を歴任。現在、経済同友会幹事等も務める。08年に日本版ダボス会議である「G1サミット」を創設し、13年4月に一般社団法人G1サミットの代表理事に就任するなど、本業以外の活動も精力的に行っている。

── 日米の差が縮まってきているということでしょうか。

 米国のベンチャーには、世界に向かって走っていける「場」があるのが強みです。フェイスブックもボストンで立ち上がってシリコンバレーで大成したし、シリコンバレー自体に世界に飛び立っていくチャネルができていて、そこにノウハウを持った人材が集結しています。この点で、これまで日米にはかなりの差がありましたが、ここに来て非常に良い動きが出てきています。例えばスマートニュースやメルカリといった日本のベンチャー企業は、20億〜30億円を調達して、最初から米国進出を果たしています。

 今までは資金不足が理由で、IPO前に米国に参入することはまず考えられませんでした。IPOを待っていては時間がかかるし、IPO後に米国進出しても時既に遅しとなることが多かった。しかも米国には強いベンチャーが多いので、海外進出はまずアジアに向かうケースがほとんどだったのです。ところが、この2社の場合は、日本でローンチしてから1年ほどで米国に進出し、しかも勝てそうな見込みが出てきています。われわれは両社にそれぞれ10億円ずつ投資しました。今まで18年間VCとして活動してきましたが、状況は明らかに変わりました。

── 状況が変わった理由は何でしょうか。

 産業革新機構の出資が増えたのが大きいですね。ほかにも、中小企業基盤整備機構などがVCに積極的な出資を行っています。これまで日本のVCにはほとんどお金が集まらなかったのですが、ここに来て、政府からの資金が回り始めました。

── 堀代表がVCを立ち上げた頃は、知り合いの企業家から出資を募るなど苦労したようですが、その頃とはだいぶ違うと。

 そうですね。ただ、その後はVCにもノウハウを積んだ人が増えてきて、そこにインキュベーターが加わり、起業する人たちの流動性も高まってきています。加えて、スマートフォンが登場し、クラウドコンピューティングなど、新しいイノベーションが続々と生まれているため、それらの変化に合わせた事業機会がいくつも生まれています。

堀義人氏は語る 高学歴の人材が「起業家」を選ぶように

── 環境面は整ってきたようですが、起業家のマインドも変わってきているのでしょうか。

 優秀な人が増えていますね。スマートニュースの浜本階生社長は東京工業大学卒業のエンジニアですし、メルカリの山田進太郎社長は早稲田大学出身で以前にも会社を立ち上げた経験があります。彼らはずば抜けて優秀ですし、海外に向けて発信できる英語力もあります。

── 高学歴な人材が、起業家の道を選択するケースが増えてきたということですか。

 かなり選ばれるようになってきましたね。さらに優秀な転職組の人材が入るようにもなってきました。こうした大きな変化をアベノミクスが後押しする形で、投資環境は以前と比べると抜群に良くなっています。

── そんな中で、グロービスはどこに強みを発揮していくのでしょうか。

 ウチの強みはベンチャー創業者が作ったVCという点で、ベンチャーを作っていくノウハウがあるところです。また、大学院運営を通じて得た、優秀な人材のネットワークがあるのが大きい。投資先企業の蓄積もあります。起業で重要な要素は「ヒト、カネ、チエ」とわれわれは言っていますが、これらを持っていることが強みとなっています。

投資先の選別では「人」を見ると語る堀義人氏

── 投資実績は500億円に達していますが、立ち上げの頃より、かなり増えましたね。

 1996年に立ち上げた第1号ファンドは5億4千万円で、1億円を5社から集めてきました。見よう見まねでしたね。それから米エイパックスと提携して、グローバルなVCの投資手法を学ぶことができました。

堀 義人── エイパックスから学んだことで、一番大きかったのは何ですか。

 ひとつは世界中からお金を集めてくる方法ですね。当時は独立系のVCが100億円以上を集めるのは難しかったのですが、グロービスは200億円のうち180億円以上を海外から集めてきました。そのノウハウに加えて、投資手法や投資プロセス、さらに投資した後の起業育成の方法論などを学んだのが大きかったです。

── そうして学ぶ中で、投資先に対する目利きの仕方も変わってきたのでしょうか。

 最初の頃は、7割がたマーケットや経営戦略、技術、プロダクト、競合他社との関係などのハード知識、つまり分析できる項目に重きを置き、3割が分析できないもの、すなわち人の力、チームの可能性などを見ていました。これが今では、7対3で「人」の部分を重視するように逆転しました。

── 具体的に、人のどの辺を見るのですか。

 感覚的なものですが、その人がどこまで深く考えているのか、将来ビジョンをどう思い描いて、そこに到達するのにどんな戦略を立てているのかなど、繰り返し質問します。そこから出てくる人間性だったり、動機であったり、チームとのバランスであったり、過去の経験や蓄積など全部ひっくるめて見ます。

── 経験がものをいう世界ですね。

 それは、すごく大きいですね。

── 見極めに失敗したことは。

 いっぱいありますよ(笑)。5億円、6億円規模の投資を失敗したこともあります。痛いですよね。ただ、ファンド全体で損を出したことは一度もないです。リターンでいうと2〜3倍、一番うまくいったときは7〜8倍いったこともあります。

堀義人氏の思い 言語の壁が問題にならない分野で勝つ

── これから世界で勝てるベンチャーは実際に出てくるのでしょうか。

 やっと世界で勝てるベンチャーが日本から出てきました。グリーも楽天も世界に出ていったのはIPO後ですから。ハッキリとした成功事例はまだ出ていませんが、IPO前に米国進出して成功するベンチャーが、これから出る可能性は大いにあります。

── やはり勝負するならIT系の起業ということになるのでしょうか。

 製造業でも良いと思いますが、かつてソニー、ホンダが米国で勝てたのは、プロダクトで勝負する領域では言語はさほど重要でないからです。ただ、時代とともに製造業がソリューション屋になっていき、投資銀行や弁護士やコンサルティング会社が主役になっていくと、英語力が絶対に必要になります。これらの分野では、日本が圧倒的に負けていますし、シリコンバレー的なウェブサービスや、パッケージソフト事業でも勝てません。

 でも、ここに来て完全にスマホのプラットフォームに変わってきて、iOSとアンドロイドにアプリを乗せれば、世界中で戦えるようになりました。かつての「輸出」が、「ダウンロード」に変わったのです。これで海外に進出するコストが一気に下がりました。マーケティングもアプリ上のマーケティングに変わっているので、言語の問題が多少あっても、日本のアプリやコンテンツは世界で戦いやすくなってきました。プロダクトやビジネスモデルで勝負することになるので、日本がまた世界で活躍できる環境が整ってきたということです。

── 最後に、起業家に向けてメッセージを。

 明るく、楽しく、ベンチャーの世界で自分の可能性を信じて、思い切って暴れてほしいと思います。その中で思い切り学んで、大きな発想を持って、世界を見据えながら良い仲間を集めて頑張ってほしいと思います。

(聞き手=本誌編集長/吉田浩 写真=森モーリー鷹博)

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応のプリンシプル

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る