マネジメント

ビジネスのシステムデザインで大きな価値を創出

 

 これまではベース・オブ・ピラミッド(BOP)のマーケットを考えてきた。そこでは、現地の市場のライフスタイルや価値観などを理解するために、コミュニティーに徹底的に入り込むことが重要である。

 しかし、現地に長期的に人材を送れば解決するほど、問題は簡単ではない。マーケットの情報をしっかりととらえた上で、大きな価値を生み出すためにビジネスのシステムをデザインしなければならない。

 ここで人材についての大きなトレンドを見てみよう。マサチューセッツ工科大学のダーロン・アセモグルとデイビッド・オウターの分析では、1963年を基準として、米国におけるフルタイム労働者(男性)の実質賃金の推移には大きな格差があることが分かっている。ここで興味深いのは次の2点である。

 第1は、教育水準と賃金との間の関係である。

 まず、教育水準の低い労働者の賃金の水準はほとんど成長していない、あるいは低下している。高校中退の労働者の実質賃金は63年よりも低い水準にある。高卒の賃金も低下トレンドにある。大卒の実質賃金も70年代の水準から上昇していない。

 ただし、トップの大学を卒業している労働者の賃金は上昇傾向にある。さらに、大きく賃金の水準を伸ばしているのが、大学院卒の人材である。これは企業にとって高度な専門性を持った人材が社会において必要になってきたことを示唆している。

 第2に、この格差は、80年代前半から現れ、90年代に入り、大きく拡大している。例えば、トップの大学とその他の大卒の間の格差は70年代にはほとんど見られない。また、高卒と大卒の間の賃金の格差がつき始めたのは、90年代中頃からである。大学院卒の賃金の水準はすべての期間において最も高いものであるが、大きく差が拡大しているのは、90年代に入ってからである。

 なぜこのような格差が発生しているのだろう。これは学閥の存在や学歴社会だからというわけではない。それらが理由だとすれば、この格差の拡大が80年代から始まり、90年代前半にさらに大きくなっていることが説明できない。

 賃金は労働市場での人材の評価である。ファイナンシャルマーケットからのプレッシャーが強い米国では、企業の利益の源泉にならない人材に高い賃金を払い続けていられるほど企業が直面している市場での競争は甘くはない。

 特に労働者の流動性が一般的に高い米国では、賃金はマーケットからの評価だと言って良い。

 つまり、この格差は、80年代から90年代にかけて、より高い専門性を持った人材への需要が拡大していることを反映している。

 

システムをデザインする能力と戦略性が成否に直結

 

 もはや、生産現場の工夫や試行錯誤など現場の暗黙知だけでは、大きなイノベーションは生み出せなくなってきている。

 例えば、半導体の生産工程は微細化が進み、現場の複雑性が極めて高くなっている。現場への権限移譲などではその複雑性に対処することが難しくなっている。その場合、システムでの対応が重要になる。

 今後大きなビジネスの展開が見込まれると考えられている再生医療やバイオインフォマティクス、スマートコミュニティなどの領域でも、全体のコーディネーションの設計が大切になる。

 システムのデザインや戦略性がその製品やサービスの成否に直結するのである。良い技術を開発したとしても、いくら現地の情報を集めたとしても、それをビジネスにするための高い戦略性を持ったシステムのデザインが必要になる。

 イノベーションを起こすためには、さまざまなコンポーネントを組み合わせてビジネスを構築する必要がある。そこでは、枠組みを構築するためには、強いリーダーシップとともに、高い専門性が必要となる。

 

ビジネス構築に求められる専門性とは何か

 

 専門性とは、一般化の能力である。自分が直面している状況をそのまま口にして説明することは誰にでもできる。

 しかし、その状況を抽象化・一般化して考えるためには体系的なトレーニングが必要である。もちろん、それが自然とできるようなビジネスセンスを持った人もいる。しかし、人のセンス頼みでは、全体としてはとても効率が悪い。

 自分の経験のみに基づいた暗黙的な知識は、環境が激しく変わる時にはあまり役に立たない。ビジネスが既存のやり方の壁を超えてますますクロスボーダー化するからこそ、抽象化・一般化の力が重要になる。

 日本のエグゼクティブの教育水準は国際的に見るとまだまだ低い。次回は大学について考えよう。

 

[連載] 世界で勝つためのイノベーション経営論
米倉誠一郎氏 & 清水洋氏の記事一覧はこちら

【マネジメント】の記事一覧はこちら

 

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

融資における金利固定化(金利スワップ)の方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法 ~円滑な融資のために~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メインバンクとの付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

銀行融資の裏側 ~金利引き上げの口実とその対処法~

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件とダスキン事件に学ぶ 不祥事対応の原則

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

ブラック企業と労災認定

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

電話等のコミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

税務の心得 ~所得税の節税ポイント~

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

税務の心得 ~固定資産税の取り戻し方~

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

子育てで重要な「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手く育成することで企業を強くする

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

人材育成のコツ ~部下の感情とどうつきあうか~

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

人材育成 ~“将来有望”な社員の育て方~

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

葬儀業から脱皮しライフイベントのプラットフォーム運営企業へ―ライフアンドデザイン・グループ

古い体質が残り実体が見えにくい葬儀業界の中で、「パッケージ化された分かりやすいサービス」「家族葬など小規模葬儀に特化」「低価格だが高品質のおもてなし」「出店スピードの速さ」等を強みに事業拡大。人生の終末や死別後に備えた事前準備を行う。文=榎本正義 村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長…

村元 康・ライフアンドデザイン・グループ社長

人材領域で培ったテクノロジーを活用し社会課題を解決する―ビズリーチ

上場して分かったTOKYO PRO Marketのメリット―前田浩・ニッソウ社長に聞く

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

経済界が主催するベンチャー企業支援企画「金の卵発掘プロジェクト2018」でグランプリを受賞した草木茂雄・エムアールサポート社長。建設・土木というガテン系の領域でイノベーションを起こすための挑戦を追った。(吉田浩) 草木茂雄・エムアールサポート社長プロフィール   測量とアートが結び付…

草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

再エネ時代到来に向け、大石英司・みんな電力社長が目指す「顔の見える」世界

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年8月号
[特集] SDGsは江戸にある
  • ・「仁義道徳」 経済人に必要な「利益」と「倫理」
  • ・「利他」 「気候変動に具体的な対策を お金の流れが意識を変える」
  • ・「善の巡環」 高邁な理想を支える創意工夫と挑戦
  • ・「才覚、算用、始末、商人倫理」 SDGsの精神宿る江戸商人
  • ・「国利民福」 国が栄えれば人々も幸福になる
  • ・「先も立ち、我も立つ」 石田梅岩と商人道徳
  • ・「気丈」 学問は「治安」「エンタメ」「立身出世」──江戸庶民の教育事情
  • ・「心田開発」 二宮尊徳の報徳思想
[Special Interview]

 里見 治(セガサミーホールディングス会長グループCEO)

 日本初のIR事業への参入はエンターテインメント事業の集大成

[NEWS REPORT]

◆メガバンクからの陥落目前 みずほ銀行の昨日・今日・明日

◆巨大ドラッグストアチェーン誕生か 業界再編はココカラ始まる

◆カリスマ・鈴木修会長に陰り? ピンチを迎えたスズキの前途

◆G20農相会合で見えてきたスマート農業の未来像

[特集2]

 AI時代に稼げる資格

 今必要な資格、将来必要な資格はこれだ!

ページ上部へ戻る