テクノロジー

 大手電力会社が再生可能エネルギーの新規受け入れを中断するなど、再生エネの固定価格買い取り制度が導入からわずか2年あまりで行き詰まった。経済産業省は制度の見直しを急ぐが、再生エネ普及に向け失った信頼を取り戻す道筋は険しい。

再生エネルギーの固定価格買取制度を見直しへ

 九州電力が福岡市など6カ所で10月初旬に開いた再生エネ買い取り手続き中断の説明会。「なぜもっと早く公表できなかったのか」「責任を取ってください」などと、太陽光発電などを計画していた事業者らが声を荒らげ九電幹部に詰め寄った。

 太陽光発電を中心に固定価格買い取り制度に基づく契約が急増。すべて受け入れた場合、送電容量を上回り、需給バランスが崩れて大規模停電が発生する恐れもあると判断し、九電は9月25日、手続きを中断した。

 九電以外にも東北電力や北海道電力、四国電力、沖縄電力が相次ぎ、買い取りの中断を発表した。

 怒りが収まらないのは、事業者だ。大規模太陽光発電所(メガソーラー)事業者は、巨額の設備投資をしてきただけに死活問題。「国の制度であるからには、政府は補償などの対応をすべきだ」(鹿児島市のメガソーラー事業者の幹部)との声も上がった。

宮澤洋一経産相

再生エネ拡大の方向を打ち出した宮澤洋一経産相(Photo=時事)

 再生エネ導入を推進してきた自治体にも反発は広がる。東日本大震災からの復旧事業の一環で再生エネの導入計画を進めてきた被災地では、東北電力の契約中断に動揺を隠せない。地元自治体からは「復興への取り組みに水を差すのではないか」などと、電力会社や政府の対応を非難する声が多い。

 政府は太陽光や風力、地熱発電といった再生エネを増やすことを目的に、2012年7月から固定価格買い取り制度を導入した。事業者にとっては国が決めた価格で一定期間、発電した電力を大手電力会社に買い取ってもらえるため、参入が相次いだ。特に設置が容易で、買い取り価格の高い太陽光発電に申し込みが集中。受け入れ手続きの中断が相次ぐ原因となった。

 批判を受け九電は10月21日、出力50キロワット未満の小口について買い取り手続きを再開すると発表した。だが、手続きが進むのは中断対象の約3%にすぎず、抜本的な解決にはほど遠い。

 このため、経済産業省は固定価格買い取り制度の見直しに着手。買い取り価格や国民負担などについて幅広く議論し、年内にも結論を出す考えだ。だが、拙速に制度設計した経産省に対する風当たりは根強い。経産省で開かれている再生エネ導入の課題を議論する審議会でも「(需給バランスが崩れるなど)こうなることは分かっていた。恥ずべきことだ」などと、有識者からの批判が相次ぐ。

見切り発車だった再生エネルギー買取制度

 もともと買い取り制度は3年前、当時の菅直人首相が退陣と引き換えに関連法案の成立を要求し、実現したものだ。当時の民主党政権が導入を焦り、経産省も制度設計を急いだ。当時の政権に言われるまま、経産省が「見切り発車」で制度設計をした感は否めない。

 既に経産省で検討されている制度見直しの具体策は、いくつかある。その1つが、電力会社が事業者に発電量の抑制を要請する「出力抑制」の強化だ。

 太陽光などの発電量が急増して需給のバランスが崩れる恐れがある際には、年間30日以内であれば、電力会社は無補償で事業者に出力抑制を要請できる。現在は1時間だけ出力抑制を要請しても1日とみなしているのを変更し、1時間単位で要請できるよう省令を改正する方向で検討に入っている。

 一方、太陽光への極端な偏重を是正し、地熱や水力を価格面で優遇する対応策も有力だ。

 再生エネの普及を加速させるため、再生エネ特別措置法は制度開始から3年間は、事業者の利益を上乗せして価格を決めると定めている。太陽光については予定通り来年までで、この措置を終了。常時一定の出力が得られる「ベースロード電源」としての期待が大きい地熱や水力については、この措置を延長する案が浮上している。

 また、発電を早期に始めた事業者への優遇策も検討されている。買い取り価格は年々低下しているが、価格が高いうちに認定だけ取得し、資材が値下がりするまで発電を先延ばしして、利益を増やそうとする事業者が後を絶たない。

 国の認定を受けたのに発電を始めない事業者との契約手続きをやめることで、混乱を回避しようとの狙いだ。

 その他、買い取り価格を半年ごとに見直す案もある。買い取り価格の高い太陽光を中心に価格を引き下げ、急増する太陽光の参入を抑える考えだ。

 電力会社の送電網が受け入れられる再生エネの電力量の検証も開始されており、今後は送電網の整備といった長期的な対策も検討される見込みだ。ただ送電網の強化には全国で数兆円規模の新規投資が必要とされ、実現に向けては課題も多い。

 宮澤洋一経産相は就任後、マスコミ各社のインタビューに対し、原発の比率について「引き下げる方向でやっていく」と強調した。東日本大震災前は原発の比率は3割前後だったが、これを3割よりも低く抑える。一方、再生エネは拡大する方向で、電源構成比率の見直しが経産省内で進められている。

 再生エネは国内で生産でき、環境負荷が小さいという利点もある。再生エネの普及と拡大に向け、買い取り制度の設計に二度と失敗は許されない。

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

売上実績トップ企業に聞く「住宅リフォームの最新トレンドと課題」―榎戸欽治・ニッカホーム会長

素人にはなかなか分かりにくい住宅リフォームの世界。最近の業界動向と事業戦略について、売り上げ規模で全国ナンバーワンを誇るニッカホーム創業者の榎戸欽治会長に聞いた。(聞き手=吉田浩)榎戸欽治氏プロフィールリフォーム業界におけるニッカホームの競争力水廻りと木工事を絡めた中型リフ…

榎戸欽治・ニッカホーム会長

家族葬のファミーユが目指す「生活者目線で故人に寄り添う」葬儀の形

不動産のノウハウや技術を生かしサステナブルインフラへ―いちご

新社長登場

一覧へ

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

2019年4月、国内インターネット専業証券で初の女性社長が誕生した。創業者であり、カリスマ社長と呼ばれた松本大前社長から後任を託されたのが清明祐子氏。清明氏は09年にマネックスグループに入社し、子会社社長やグループ役員を経て、マネックス証券の社長に就任した。清明社長はカリスマの後任としてどんな会社をつくってい…

マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

「事業部門の連携を活性化させ営業利益100億円を目指す」 内藤宏治(ウシオ電機社長 )

イノベーターズ

一覧へ

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

起業家のスタンスとして、画期的な技術やビジネスモデルを社会で活かすことを目的としたイノベーション先行型もあれば、社会課題解決を最優先とし、そこに必要な技術やノウハウを当てはめていくやり方もある。ハックジャパンCEOの戸村光氏の場合は後者。対象となる課題は「身の周りの気付いたことすべて」だ。(取材・文=吉田浩)…

戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

IT化で変革する産業廃棄物処理の世界―福田隆(トライシクルCEO)

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2019年12月号
[特集] 沸騰する食ビジネス!!
  • ・食ビジネスが熱い!! 未来型食品が社会課題を解決する
  • ・市場規模70兆円! 食ビジネスが過熱するわけ
  • ・完全バランス栄養食で誰もがラクして健康になれる
  • ・人工光型植物工場で世界の食と農に新しい常識を
  • ・宇宙食ビジネスで勝ちに行く 10年後に5千億円市場創出へ
  • ・“大人の給食”で栄養の基盤をつくる
  • ・人工肉で糖質制限者に無制限のおいしさを
  • ・テクノロジーで高品質なジビエ調達が可能に
  • ・昆虫食ビジネスの時代到来
[Special Interview]

 伊藤秀二(カルビー社長)

 掘り出そうカルビーの未来

[NEWS REPORT]

◆エンジニアへの高額給与で 富士通は生まれ変われるか

◆豊田章男・自工会会長が挑む東京モーターショー100万人

◆消費増税で現金主義は終焉 キャッシュレス時代が到来した

◆加速するeスポーツ市場! インテルが東京で世界大会を開催

[総力特集]

経済界創刊55周年記念 新しい日本のかたち

東京1964からの55年と東京2020以降の日本の姿

ページ上部へ戻る