テクノロジー

日本はサイバー防衛力やサイバー・インテリジェンス能力をもっと向上させるべきだ

 

中国などが「国際行動規範案」を国連に提出

 今回は、NEC(日本電気)系列の民間シンクタンク「国際社会経済研究所(IISE)」の原田泉情報社会研究部長・主幹研究員の最終回。

国際社会経済研究所(IISE)の原田泉氏

国際社会経済研究所(IISE)の原田泉氏

-- 前回に続いてサイバー空間での国際ルール作りについて伺います。サイバー犯罪に対しては2001年に欧州評議会が発案し、日本もそれに加盟。12年11月には関連国内法の整備などが行われ、発効しました。しかし、中国やロシアはサイバー犯罪の高度化、サイバー戦争の深刻化などを理由に「実情に合っていない」として背を向けたままとか。

原田 中国やロシアは「国連で新たな条約を作るべきだ」という立場をとっており、事実、11年9月には中国、ロシア、ウズベキスタン、タジキスタンの4カ国で「情報セキュリティーのための国際行動規範案」を国連総会に提案しました。その内容はサイバー空間における国家主権の尊重を強調し、それを国連の管理下に置こうとしたものですが、米国などはもちろん反対し、採択されないままです。

-- 国際ルール作りに関しては、欧米諸国や日本が「自由な情報の流通の維持」を主張しているのに対して中国やロシア、さらには新興国や開発途上国は、検閲も含めて「国家による管理」を強めたいと考えており、この対立の構図がここ10年間ほど続いているとか。特にチュニジアなど独裁政権の崩壊にインターネットが一役買った「アラブの春」以降、そうした傾向がより強まったと聞いていますが。

原田 そうです。12年12月にドバイで国際電気通信連合(ITU)が開いた国際会議でもそうした対立が表面化しました。この会議は、もともとは国際電話などに関する規則を決めるのが本来の目的でしたが、振興国や途上国は「インターネット問題も議論の対象に加えるべきだ」と主張しました。

 そしてロシアや中東諸国は「国家による検閲の権限の強化」につながりかねない改正案を提出し、多数決で採択に持ち込みました。米国は反対し、一方、日本は安全性の向上を促す緩やかな改正案をまとめて妥協点を探ろうとしたんですが、最終的には数の力で押し切られたというのが実態でした。採択された改正案の対して日米欧は署名を拒否、同会議は事実上、決裂して閉幕しました。

-- 軍事・防衛の面でのサイバーセキュリティーについては一定の前進があったそううですね。

原田 今年6月、国連の政府専門家会合(日米欧など15カ国の国際法や情報技術・軍事の専門家23人で構成)が、サイバーセキュリティーに関する初の報告書をまとめました。タリン(エストニア)にあるNATO(北大西洋条約機構)サイバー防衛研究所の委託を受けて、3年をかけてまとめられたものです。そうした経緯からこの報告書は「タリン・マニュアル」と呼ばれています。

 

サイバーセキュリティに関する国連初の報告書「タリン・マニュアル」とは

 

-- 報告書は、国家間のサイバー戦争について「国連憲章などの国際法の適用」を勧告するとともにさまざまなCBM(信頼醸成措置)の実施を求めていますね。

原田 そうです。報告書はサイバー戦争に関する初めてのルールと言うべきもので「各国政府は、自国内あるいは政府の管理下にあるサイバー施設が、他国への攻撃に使われていることを積極的に認めてはならない」「他国の領土一体性や政治的独立性を脅かしたり、国連の目的に反するサイバー作戦は違法とされる」「損害をこうむった国は相応の対抗措置を取ることができる」などと記されています。

 ただし、報告書はまだ専門家による勧告にすぎません。今後、条約など拘束力のあるルール作りが必要になってくるわけですが、中国やロシアは「この内容でいい。これをたたき台にして条約を作ろう」と言っています。

-- CBMというのはこれまで軍事・安全保障面で使われてきた用語ですが、サイバー空間でも使われるんですね。

原田 CBMとは偶発的な軍事衝突の発生を防ぐため、国家間、特に軍同士の信頼関係を醸成していこう、そのために軍事情報の公開や軍事交流などの措置を進めようというものです。これをサイバー空間で実施する際、国際的にやるか、二国間でやるかといった問題も出てきますが、今後、重要な点になっていくと思います。

-- 原田さんはかねがねサイバーセキュリティーに関して日本がとるべき今後の対応として①サイバー防衛力をさらに向上させる(特に原子力施設を含む重要インフラについての防衛力を向上させる)②サイバー・インテリジェンス能力およびサイバー・カウンターインテリジェンス(防諜)能力を向上させる③そのために「ビッグデータ」を活用する④サイバー空間での国際的秩序作りに積極的に関与する⑤アジア諸国のサイバーセキュリティー能力の向上に協力する――などを主張しておりますね。

原田 その中でも④の国際的ルール作りに関して日本政府は、まず自国の立場をしっかり固めるべきです。そうしないと口も出せませんよ。そのためにも日本版NSC(国家安全保障会議)を設置して、そこで日本としての政策的立場を協議していくべきです。

 今までは総務省などの一省庁の見解を基にして国際的な動きに対応してきました。しかし、サイバーセキュリティーはインターネット通信だけの話ではなく、国防や安全保障全体にかかわってくる問題なんですから。安倍晋三内閣は今、そういう方向に向かっているようですので、それでいいのですが、③のビッグデータの活用も含めて国民にオープンしながら日本の立場を打ち出していくべきです。その際、国会はこうした政府の活動をチェックする機関を持つべきでしょうね。民主主義国家として。

 

【サイバーセキュリティー】関連記事一覧はこちら

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

広告やマーケティング、ブランディングを事業プロデュースという大きな枠で捉え、事業が成功するまで顧客と並走する姿勢が支持されているグランドビジョン。経営者の思いを形にしていく力で、単なる広告代理店とは一線を画している。 中尾賢一郎・グランドビジョン社長プロフィール &nb…

中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

人材戦略を経営の核に成長する駐車場ビジネスのプロ集団―清家政彦(セイワパーク社長)

「PCのかかりつけ医」として100年企業への基盤構築を進める―黒木英隆(メディエイター社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

自らの手で未来をつかみ取る革新者たちは、自分の可能性をどう開花させてきたのか。今回インタビューしたのは、学生でありながら自力で資金を集め、世界最年少で探検家グランドスラムを制した南谷真鈴さんだ。文=唐島明子 Photo=山田朋和(『経済界』2020年1月号より転載)南谷真鈴さんプロフィール&nbs…

南谷真鈴

シリコンバレーへの挑戦が生んだ「起業家と投資家が待ち望んだサービス」― 戸村光・ハックジャパンCEO

「測量美術」が起こす道路工事のイノベーション―草木茂雄・エムアールサポート社長

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年1月号
[特集] 新しい街は懐かしい
  • ・「街の記憶」で未来をリノベーション
  • ・日本橋が「空を取り戻す」水辺と路地がつながる街へ
  • ・水辺はエンタメの宝庫だ 大阪が目指す観光客1300万人
  • ・街の誇りを取り戻せ 名古屋・堀川復活プロジェクト
  • ・なぜ水辺に都市が栄えるのか
  • ・2020以降は海と川がさらに面白くなる
  • ・「住む」と「働く」両方できるが求められている(たまプラーザ)
  • ・「土徳」が育む一流の田舎(南砺市)
  • ・音楽ファンが集う街づくり
[Special Interview]

 辻 慎吾(森ビル社長)

 東京が世界で勝ち抜くために必要なこと

[NEWS REPORT]

◆飛びたくても飛べないスペースジェットの未来

◆エンタメが街を彩る 地方創生に挑むポニーキャニオン

◆問題噴出のコンビニをドラッグストアが抜き去る日

◆始まった自動車世界再編 日本メーカーはどう動く?

[特集2]

 経済界福岡支局開設35周年記念企画

 拓く!九州 財界トップが語る2030年のかたち

ページ上部へ戻る