テクノロジー

今後多くの新電力は急速にプレゼンスを失う

 『経済界』10月21日号では、高経年化炉などを除いた原発の再稼働や、現在公表されている火力発電所の新増設、再生エネの急拡大で電力卸売取引所の価格が低下すること、その上で卸売取引所での取引量が増した場合、発電事業は収益性が大きく低下する一方、小売事業は収益性が向上し、徹底したローコストや通信とのバンドルなどさまざまな異業種からの電力小売参入が現れることを論じた。

 今回は、逆に電力取引市場の厚みが増さない場合の電力業界の構造がどうなるかを考えてみたい。

 中部電力の新電力買収を皮切りに、電力会社が他社地域での電力事業を立ち上げつつある。特に東電の子会社による、関西電力管内、中部電力管内のヤマダ電機などへの小売りは多くのメディアを賑わせた。

 しかし、現在の電力会社による越境は、自社電源が使えない周波数の異なる地域への進出で、電力は進出先で調達し小売りを始めたにすぎず、十分な自社電源を持たない新電力と変わらない。また、原発停止などで特に料金が引き上がった一部地域における、元から割高な料金設定をされていた一部需要家だけを狙ったクリームスキミングでしかなく、その意味でも新電力と同じだ。

 では今後はどうか。

 長引いてはいるがあと2〜3年もすれば、安全とされた原発は再稼働を完了し、現在の厳しい財務状況の下で取り組んでいるコストダウンの効果が現れるだろう。2020年代初頭にはコスト競争力ある石炭火力も運転開始される。卸売市場での取引量が増えない前提に立つこのシナリオでは、競争力を取り戻した電力会社が発電する電力は、そのほとんどが法的分離の下で分社化された小売会社に対して、卸売市場を経ることなく、内部取引される。

 その結果、独立系新電力は電力コストで競争力を失い、また、電力会社系小売会社の料金が低下するにつれ、クリームスキミングの余地も閉ざされていく。

 現在、独立系新電力は相対的に建設期間が短く、運転も容易なガス火力や小型石炭火力の建設を進めている。しかし、再稼働した原発や大型石炭火力には対抗し得ず、電力会社が法的分離の元で分社化された後も、発電会社・小売会社が一体となったコスト競争を進めれば勝ち目はない。

 代わりに電力会社系の小売会社は競争力がある発電所の拡大に伴って、多くの新電力を市場から退出させつつ、同じ周波数の地域の需要家にも小売りを開始するだろう。自社電源を使った本格的な越境供給・電力会社間競争に至る。

電力会社間競争での今後の勝者は?

 電力会社のコストは、今後中立化される送配電コストを除けば、燃料費を含む発電コストが大半を占める。

 将来、発電コストで勝る会社は、元からの原発依存度と再稼働の多寡、相対的にコスト競争力に優れる石炭火力の多寡、総体的にコストは高く発電コストのほとんどが燃料費であるLNG火力ではガス田権益確保やトレーディングなど燃料調達の巧拙、そして徹底的なコスト削減を断行したかで決まる。

 先般、東京電力との燃料調達・老朽化火力リプレースで包括的アライアンスに基本合意した中部電力、元からコスト競争力があり原発のほとんどが最も早く再稼働する九州電力などの名前が挙げられる。

 柏崎刈羽原発が再稼働することを前提に、中部電力との燃料調達での提携で世界最大のLNGバイヤーになり、どの電力会社より厳しくコスト削減に取り組む東京電力も、これらの条件が揃えばコスト競争力を持ち得る。

 ただし、他の電力会社も、東京電力同様、さまざまな不確定条件の下でそのコスト競争力は決まってくるため、現時点でコスト競争力の優劣が決したとは言い難い。

卸売市場の厚みが増さない場合の電力小売料金は?

 その場合でも小売りにおいて競争は起きるが、単位時間ごとのオークションで非情なまでにコストだけで勝敗が決する卸売市場に比べれば、必ずしもすべての需要家が電気代にシビアではない小売市場での競争は緩慢なものになるだろう。

 また、都市ガスや通信などさまざまな他のサービスとのバンドル販売も進むため、必ずしも電力の価格だけでシェアが決まるものでもなくなる。したがって、電力料金も卸売市場の厚みが増すケースに比べて、その低下も小さい。

 ただし、長い目で見るとどちらが良いかは必ずしも一概には言えない。

 燃料市場の変動、電力卸売市場の変動に大きく影響され安定利益が望めない中、大規模投資が求められる発電所への投資は行われなくなり、やがては供給力不足となり、卸売価格の高騰と供給不安を招きかねない。

 実際、多くの欧米市場で卸売市場活性化の後、十数年で料金が高騰し、米国では発電所建設投資の予見性を高めるべく、容量市場を創設するなど、発電会社への補填とも言われる仕組みが導入されてもいる。

 

【エネルギーフォーカス】記事一覧はこちら

 

雑誌「経済界」定期購読のご案内はこちら

経済界電子版トップへ戻る

関連記事

好評連載

エネルギーフォーカス

一覧へ

緑の経済成長とエネルギー

[連載] エネルギーフォーカス

Energy Focus

[連載] エネルギーフォーカス

今後、10年後の電力業界の様相(2)

[連載] エネルギーフォーカス

発電単価から既存原発の経済性を考える

テクノロジー潮流

一覧へ

科学技術開発とチームプレー

[連載] テクノロジー潮流

テクノロジー潮流

[連載] テクノロジー潮流

エボラ出血熱と情報セキュリティー

[連載] テクノロジー潮流

21世紀の日本のかたち 農電業と漁電業

[連載] テクノロジー潮流

工学システムの安全について

[連載] テクノロジー潮流

エネルギー移行と国民の価値観の変化

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

社員17人で41億円を売り上げた社長が語る「中国で越境ECを成功させる秘訣」―栖原徹(ピルボックスジャパン社長)

今や米国と並び、世界最大級の消費市場となった中国。その中国で爆発的なヒットを飛ばしているのが健康食品・サプリメントなどの越境ECで展開するピルボックスジャパンだ。同社を率いる栖原徹社長に、中国市場で成功するための秘訣を聞いた。(取材・文=吉田浩) 栖原徹・ピルボックスジャパン社長プロフィール…

栖原徹・ピルボックスジャパン社長

意思決定の効率化を実現しデータ活用に革命を起こす―インティメート・マージャー

総合事業プロデューサーとして顧客と共に成長する―中尾賢一郎(グランドビジョン社長)

新社長登場

一覧へ

森島寛晃・セレッソ大阪社長が目指すクラブ経営とは

前身のヤンマーディーゼルサッカー部を経て1993年に創設されたセレッソ大阪。その25周年にあたる2018年12月に社長に就任した森島寛晃氏は、ヤンマー時代も含めて通算28年間セレッソ一筋、「ミスターセレッソ」の愛称を持つ。今も多くのファンに愛される新社長が目指すクラブ経営とは。聞き手=島本哲平 Photo=藤…

森島寛晃・セレッソ大阪社長

カリスマ創業者の後任として描く「新しいマネックス証券像」― マネックス証券社長 清明祐子

「若者需要の開拓でビール市場を盛り上げていく」塩澤賢一(アサヒビール社長)

イノベーターズ

一覧へ

勉強ノウハウと法律知識で企業の「働き方改革」を促進する―鬼頭政人(サイトビジット社長)

入学試験や資格取得のための勉強法については、さまざまなハウツーコンテンツが世にあふれている。そんな中、独自の学習理論で注目されているのが、サイトビジット社長の鬼頭政人氏。勉強法という個人的な問題を解決するためのサービスを、「働き方改革」を推進する法人向けにも展開している。(取材・文=吉田浩) …

鬼頭政人(サイトビジット社長)

アスリートのセカンドキャリア問題に真正面から取り組む―中田仁之(一般社団法人S.E.A代表理事)

20歳で探検家グランドスラム達成した南谷真鈴さんの素顔

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 …

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2020年3月号
[特集] 令和女史のリーダー哲学
  • ・元谷芙美子(アパホテル社長)
  • ・石黒不二代(ネットイヤーグループ社長)
  • ・小巻亜矢(サンリオエンターテイメント社長)
  • ・石渡美奈(ホッピービバレッジ社長)
  • ・戸田泰子(理化電子社長)
  • ・吉本新喜劇で初の女性座長は「イキらず、驕らず、高ぶらず」の支えるリーダー
  • ・敏腕ヘッドハンターが語る リーダーに求められる力は使命感に裏付けられた勇気
  • ・本と映画に学ぶ女史たちの生き様
[Special Interview]

 橋本聖子(女性活躍・東京五輪・男女共同参画担当大臣)

 女性が輝く新時代へ 政治家もOne Team

[NEWS REPORT]

◆CESでコンセプトカーを発表 ソニーが自動車メーカーになる日

◆アマゾンと提携したライフ 新規顧客獲得は成功するのか

◆ゴーン被告逃亡の影響は? 内田誠・日産新社長の前途

◆血液によるがん診断で日本の医療費は高騰する

[特集2]

 スタートアップ!関西

 日本の起業家たちが関西に注目する理由

ページ上部へ戻る