国際

写真:AFP=時事

写真:AFP=時事

 経済界にかかわる読者諸兄は2008年9月15日以降、何らかの不愉快な思いを味わわれたに違いない。つい昨日のことに思えるが、あれから5年の歳月が流れた。早いものだ。

  土壇場で政府に見捨てられた米証券大手リーマン・ブラザーズが経営破綻し、世界的な金融危機の引き金になった。リーマンショックである。オバマ政権は、そもそもこの経済危機を背景に成立した政権であり、最初の大仕事が、この未曾有の金融危機の退治となった。オバマは、サブプライム問題、リーマンショックをもたらした「強欲な金融資本主義の歪みを正す」ことを使命とし、3年前の夏に2300ページに及ぶ膨大な金融取引規制「ウォール街改革および消費者保護法」(ドッド・フランク法、Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act)を成立させた。

 この法律は、制御不能に陥った貪欲な金融業界への戒めである。

 が、実はこの法に基づいて各行政機関が制定することになっている関連規則のうち既に決定され、法制化されたのはいまだ50%にも満たない。最も鍵となる規則が銀行の強硬な反対に遭い、まだ決着していないからだ。
 肝心要なのは、経済危機の核心にあった、自己勘定の証券取引といった自行内部での利益創出を目的とする金融その他の取引を禁止する「ボルカー・ルール」にある。このルールは商業銀行に対してヘッジファンドや未上場企業への投資やそれらの所有を禁ずるもので、自己勘定取引についても制限を加えている。

 だが多くの銀行はそうした取引こそを利益の中心となる重要な事業と位置付け、今後も行うことを望んでジリジリしている。

 オバマは8月19日、連邦準備理事会(FRB)や連邦預金保険公社(FDIC)などの金融監督当局者をホワイトハウスに集め、先のドッド・フランク法に盛り込まれた新規則の策定作業を加速するよう指示した。多数の監督機関と迷路のように複雑な規則からできている米金融規制の構造自体が懸念を生じさせている。24カ国の中央銀行や金融監督当局で構成する「金融安定理事会(Financial Stability Board、FSB)」は8月下旬、米国の金融制度は断片化され、極めて複雑になっていると指摘した。しかもそれが世界とつながっている。インド・インドネシア・ブラジル・トルコ・南アフリカなどの通貨危機説と中国の負債危機の可能性も濃厚だ。

次いでオバマは9月15日、リーマンショック5周年目のスピーチを行った。

“We’ve begun to lay a new foundation for economic growth and prosperity,”

〈われわれはようやく、経済的な成長と繁栄をもたらす基礎を築き上げ始めました〉

“Over the last three and a half years, our businesses have added 7.5 million new jobs.

〈ここ3年半でわが経済は750万人の新しい雇用を生み出しました〉

Our deficits are now falling at the fastest rate since the end of World War II.”

〈われわれの負債は第2次世界大戦以来最速で減少しております〉

 こう成果を強調すると同時に、議会を攻撃した。

“Congress’s most fundamental job is passing a budget,”

〈議会の最も基本的な仕事というものは、予算を通すということにあります〉

“And Congress needs to get it done without triggering another crisis, without shutting down our government, or worse, threatening not to pay this country’s bills.”

〈しかも議会は、再び経済危機を招くようなこともなく、またさらに悪いことには、国家予算を通さないという脅しをかけることもなく、予算を通さなければいけません〉

 予算を人質に、政争に持ち込み、財政運営をめぐって対立を続ける野党、共和党の姿勢を「無責任だ(irresponsible)」と批判し、10月以降の予算の成立などに直ちに協力するよう求めた。


[今号の英語]irresponsibility

 responsibilityは、責任、である。無責任、はirresponsibilityとなる。
 オバマは政治的思惑で動く議会を無責任だと喝破する。
“I’m still hoping that a light bulb goes off here,”
〈もしここで電球が切れたら〉
 と議会がごねて国家予算が通らずに、電気が止められ、切れた電球を取り替えることもできなくなったら、とオバマは言った。 
“is the height of irresponsibility.”
〈それは無責任極まりないことに起因するものであると断ぜましょう〉
 heightは高さである。At the height ofというと、~の真っ最中に、という意味で、この場合は、無責任極まりない、とオバマは強い口調で議会を糾弾している。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

「創造と変革」を掲げリーダー教育事業を展開しているグロービス。未来が予見しづらい混迷の時代を迎え、まさに新たな時代を切り拓いていくリーダーが求められている。そのような状況を受けて、グロービスは昨年、新たに執行役員以上に限定したエグゼクティブ向けのプログラム「知命社中」を開設した。[PR]次世代を担う経営リーダ…

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

「支持政党なし」をつくった男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

新社長登場

一覧へ

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

リーマンショック後の2010年にスタートした柳前社長時代は大幅な合理化や新興国戦略を推進。経営改革に道をつけ、17年度は過去最高益を更新した。日髙新社長は、事業企画・経営企画や2輪事業の経験と豊富な海外経験を買われてバトンを受けた。売上高の約9割を海外が占めるヤマハ発動機のトップとして、改革路線を継続しつつ成…

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年11月号
[特集]
大丈夫? 御社の危機管理

  • ・サイバーセキュリティ後進国日本の個人情報流出事件簿
  • ・「リアル」「バーチャル」双方で企業を守るセコムとアルソック
  • ・南海トラフ地震、首都直下型地震は、今そこにある危機
  • ・「いつ来るか分からない」では済まされない──中小企業の事業継続計画
  • ・黒部市に本社機能の一部を移転したBCPともう一つの狙い(YKKグループ)
  • ・高まる危機管理広報の重要性 平時の対応がカギを握る

[Special Interview]

 大谷裕明(YKK社長)

 「企業の姿勢や行動が危機対策以上の備えになる」

[NEWS REPORT]

◆胆振東部地震で分かった観光立国ニッポンの課題

◆M&Aでさらなる成長を期すルネサスの勢いは本物か

◆トヨタは2割増、スズキは撤退 中国自動車市場の明暗

◆このままでは2月に資金ショート 崖っぷち大塚家具「再生のシナリオ」

[特集2]

 利益を伸ばす健康経営

ページ上部へ戻る