国際

停戦合意に反した独自選挙強行にウクライナが反発

 ウクライナ情勢が再度、混乱し始めている。11月2日、ウクライナ東部の自称「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」を実効支配する親露派武装勢力が首長選挙を行った。

〈それぞれの現役の指導者を名乗るザハルチェンコ氏とプロトニツキー氏が当選したと発表。プロトニツキー氏の得票率は63・04%。ザハルチェンコ氏の正確な得票率は発表されなかったが68%前後とみられる。/ロシア外務省は3日、選挙について「われわれは住民の意思表示を尊重する」とする声明を発表し、結果を承認する考えを示した。欧米はウクライナ政府との停戦合意違反として独自選挙を一斉に批判。メルケル独首相の報道官は、ロシアが選挙結果を認めたことを「理解しがたい」とした。(ウクライナ東部マリウポリ=喜田尚)〉(11月5日「朝日新聞デジタル」)

 9月5日にベラルーシの首都ミンスクで、中央政府と親露派の間で停戦協定が結ばれた。これを受けて、同月16日、ウクライナ最高会議(国会)が、同国東部のドネツク、ルガンスクに期限付きで自治権を付与する決議を採択した。

〈ウクライナ東部の紛争をめぐり、同国最高会議(議会、定数450)は16日、東部ドネツク、ルガンスク両州の特定地域に、3年間に限って大幅な自治権を付与する法案を賛成多数で可決した。独自の「民警」を持つ権限を与えるほか、12月7日に地方首長や議会の選挙を行うことなどを定めている。同国政権と親露派武装勢力の和平合意に盛り込まれていた東部の「特別な地位」を具体化するもので、親露派が受け入れるかが当面の焦点となる。/法案には他に、(1)地元検察と裁判所の人事への関与(2)ロシア語を使用する権利の尊重(3)ロシアの自治体との関係強化④復興に向けた特別措置の導入といった内容が盛り込まれた。適用範囲となる「特定地域」は2州の州都など親露派の支配領域を指すとみられる。法案には277議員が賛成し、大統領の署名を経て近く発効する見通しだ。/ポロシェンコ氏は、法案の定めた3年間で懸案の地方分権改革を進め、東部情勢の長期的な正常化につなげたい考えだ。ただ、親露派の幹部はあくまでも東部の「独立」を追求する構えを崩しておらず、現状が固定化される懸念も強い。〉(9月17日、MSN産経ニュース)

 要するに東部2州が、中央政府の指揮命令系統に従わない独自の警察を持ち、検察と裁判所の人事に関与し、首長と議会の選挙を行えば、準国家のような存在になる。ロシアのプーチン大統領が提案していた連邦化が事実上、実現することになるはずだった。

 しかし、親露派が首長選挙を強行したために、プーチンの計画は頓挫することになった。ウクライナのポロシェンコ大統領が、怒り心頭に発している。

〈ウクライナのポロシェンコ大統領は3日、親ロシア派が停戦合意に反して独自選挙を行ったことに反発し、同派が支配する地域の「特別な地位」を定めた法律を廃止する考えを表明した。停戦合意の空洞化が進んでいる。/ポロシェンコ氏は3日夜のテレビ演説で、親ロシア派が2日に実施した独自選挙を「戦車と自動小銃の銃口を向けて、行われた笑劇だ」と批判した。(中略)親ロシア派支配地域では勝手にモスクワ時間が導入され、事実上の「ウクライナからの分離」が着々と進む。親ロ派は繰り返し「独立」を口にし、停戦を利用する形で当初の目的を遂げつつある。/親ロシア派の後ろ盾になっているロシアは、2日の独自選挙について、「全体として組織的に行われ、投票率も高かった」(ロシア外務省)と評価。当選した2人の指導者を住民の代表として認めるようウクライナ政府や欧州連合(EU)に求める考えだ。事実上の独立状態を獲得しつつあるドネツク、ルガンスク両州の現状を固定化する狙いがある。〉(前出、「朝日新聞デジタル」)

ドネツク、ルガンスクの微妙な立場

 親露派が、前倒しで首長選挙を実施したのは、この人たちが自称する「ドネツク人民共和国」「ルガンスク人民共和国」は、既に独立しているので、ウクライナの法律に従う必要はないという姿勢を誇示するためだ。

 今回の選挙で鍵を握る人物は、「ドネツク人民共和国」のザハルチェンコ「首相」(自称)だ。1976年にドネツクで生まれ、炭鉱労働者(技師)を務めたということ以外、詳しい履歴は分からない。

 9月5日の停戦協定は、ロシアのプーチン大統領がポロシェンコに強い圧力をかけて実現したものだ。この停戦協定をザハルチェンコに順守させることができないことが可視化された。プーチンにとっては打撃だ。

 もっともこれによって東部2州で大規模な内戦が再発する可能性は低いと思う。ウクライナの中央政府も親露派も、内戦で2千人以上の死者が出たことには衝撃を受けているからだ。

 ドネツク州とルガンスク州は、ウクライナの一部でもなければ、独立国でもない不安定な領域になった。

 このような状況に付け込んで武器商人や麻薬商人がこの地域で暗躍するようになるであろう。

関連記事

好評連載

グローバルニュースの深層

一覧へ

習近平政権下の中国経済と新時代の到来

[連載] グローバルニュースの深層

グローバルニュースの深層

[連載] グローバルニュースの深層

原油事情に関するロシアの分析

[連載] グローバルニュースの深層

プーチン露大統領の内外記者会見

[連載] グローバルニュースの深層

中間選挙後の米国を展望する

[連載] グローバルニュースの深層

中国を制するものは世界を制す

変貌するアジア

一覧へ

鴻海によるシャープ買収のもう1つの狙い

[連載]変貌するアジア(第37回)

[連載]変貌するアジア(第36回)

SDRの一翼を担う人民元への不安

[連載]変貌するアジア(第33回)

開催意義不明の日中韓首脳会議

[連載]変貌するアジア(第32回)

朱立倫の総統選出馬と台湾海峡危機

津山恵子のニューヨークレポート

一覧へ

CESの姿が変わる花形家電よりもネットワークに

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第20回)

津山恵子のニューヨークレポート

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第19回)

米・キューバ国交回復のインパクト

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第18回)

クリスマス商戦に異変! 店舗買いが消え行く

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第17回)

格差問題が深刻化する米国―教育の機会格差解消にNY市が動き出す

[連載] 津山恵子のニューヨークレポート(第16回)

米中間選挙で共和党が圧勝 16年大統領選はどうなる!?

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

次世代の医療現場を支える病院経営の効率化を推進――保木潤一(ホギメディカル社長)

1964年にメッキンバッグを販売して以来、医療用不織布などの、医療現場の安全性を向上する製品の普及を担ってきた。国は医療費を抑える診断群分類別包括評価(DPC制度)の導入や、効率的な医療を行うため病院のさらなる機能分化を実施する方針を掲げており、病院経営も難しい時代に入っている。ホギメディカルは手術室の改善か…

刺激を浴びて徹底的に考え抜くことで自らを変革する―― 鎌田英治 グロービス 知命社中代表

ワンストップで手厚くサイトの売却をサポートするサイトマ――中島優太(エベレディア社長)

新社長登場

一覧へ

地域に根差した証券会社が迎えた創業100周年―藍澤卓弥(アイザワ証券社長)

中堅証券会社のアイザワ証券は今年7月、創業100周年を迎えた。この記念すべき年に父からバトンを受け継ぎ新社長となったのが、創業者のひ孫にあたる藍澤卓弥氏。地域密着を旗印に掲げてここまで成長してきたアイザワ証券だが、変化の激しい時代に、藍澤社長は何を引き継ぎ、何を変えていくのか。聞き手=関 慎夫 Photo:西…

メディカル事業を横串にすることでシナジーを発揮し、顧客満足度向上へ 伏見有貴(リゾートトラスト社長)

新事業の芽を伸ばすことでさらに大きな個性的な会社を目指す――日髙祥博(ヤマハ発動機社長)

イノベーターズ

一覧へ

日本人の英語学習の課題解決に向け、学習者目線のアプリを開発―― 山口隼也(ポリグロッツ社長)

グローバル化が進む中、多くのビジネスパーソンにとって英語力の向上は大きな関心事の1つ。日本人が相変わらず英語を苦手とする理由と解決策について、英語学習アプリで展開するポリグロッツの山口隼也社長を取材すると共に、同社が提供するサービスについても聞いた。(取材・文=吉田浩)日本でますます高まる英語学習熱  201…

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

リグナ社長 小澤良介 家具のEC販売から様々な展開へ

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸教育部…

大学の挑戦

創立100周年、西南学院大学・K.J.シャフナー学長「世界に貢献しインパクトを与える人材を育てる」〜国際交流・就職支援・インターネット出願〜 

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界2018年12月号
[特集]
平成 ランキングで振り返る“時代”の経営者

  • ・バブル破裂で顔ぶれ一新 平成人気経営者の系譜
  • ・次の時代を創るリーダーとは?

[Special Interview]

 榊原定征(2025日本万国博覧会誘致委員会会長)

 「誘致決定まで1カ月 大阪万博を日本経済の起爆剤に」

[NEWS REPORT]

◆コンビニ軽減税率適用で激化する「外食VS中食」の戦い

◆「液晶のシャープ」が有機ELスマホを発売 初の国産パネルで攻勢をかける

◆「世界一高い」と認定された日本の携帯料金のこれから

◆チャネル政策を見直すトヨタ自動車の危機感

[特集2]

 北海道・新時代の幕開け

ページ上部へ戻る