マネジメント

 男女雇用機会均等法の改正から8年がたち、雇用機会や待遇面での男女平等は徐々に実現されつつあります。それでもマタニティー・ハラスメントなど、解決すべき問題は依然残されています。そこで今回は、最近話題となった最高裁判決を踏まえながら、「女性の出産と雇用をめぐる問題」について考察します。

【事例】

 理学療法士のAさんは、B病院のリハビリ科に10年以上勤務し、副主任(管理職)の職位に就いていました。その後、第2子の妊娠を機に、当時の所属チームよりも身体的負担の軽い他チームへの異動を希望。B病院はAさんの希望を受け入れました。ところがAさんの異動の翌月、B病院はAさんに対し、「所属チームの変更に伴う副主任からの降格辞令を出し忘れていた」と通告してきたのです。Aさんは、渋々降格を了承したものの、「自分のミスで降格させられたと、周囲から誤解されたくない」との理由から、降格の日付を異動日にしてほしいと病院側に申し入れ、病院側もこれを受け入れたのです。

 Aさんは、異動後に産休・育休を取得。B病院がAさんから職場復帰に関する希望を聴取した際、Aさんは副主任への復帰を希望しました。しかし、B病院は「復帰後も副主任に再昇進させる予定はない」と告げました。これにAさんは強く抗議しましたが、B病院は抗議を退け、別の副主任の下で働くようAさんに命じました。

 Aさんはそれを不服として、病院を訴えたのです。

覆された〝同意〟の正当性

 今回の事例は、今年10月23日に最高裁で判決が言い渡された事件の内容を簡略化したものです。病院側は、Aさんに対する降格措置について、「本人の意思を確認した上で同意を得ていた」と主張。広島高裁は、概ねその主張を認める判断を示しました。ところが、最高裁は、病院側の降格措置を、Aさんの真の同意に基づくものではなく、男女雇用機会均等法が禁ずる「不利益な扱い」に該当する不当なものと判断。広島高裁の判決を覆したのです。

 最高裁は判決の中で、「労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときなどの場合」には、男女雇用機会均等法の禁ずる「不利益な扱い」には該当しないとした上で、今回のケースについては、次の3つの事情から、「不利益な扱い」に該当するとの判断を示しました。

 (1)副主任という職位はAさんが勤続10年を経て就任した管理職であって、Aさんは降格によって、その職位を失うとともに管理職手当の支給を受けられなくなった。

 (2)Aさんは、育休を終えて職場復帰した後も、副主任に復帰することができずに副主任に昇進した他の職員の下で非管理職としての勤務を余儀なくされ続けており、一連の経緯にかんがみると、降格は一時的な措置ではない。

 (3)Aさんが育休明けの副主任への復帰の可否等について病院側から十分な説明を受けた形跡はなく、不十分な内容の説明を受けただけで、育休明けの副主任への復帰の可否等につき事前に認識を得る機会を得られないまま、降格措置の時点では降格を渋々ながら受け入れたにとどまる。

 これらの指摘の中で、企業の経営者が特に重視すべきは「(3)」です。この指摘が示しているのは、経営サイドが女性労働者に対して何らかの不利な影響を与える措置を取る場合には、当人が「具体的な措置内容」と「それによる影響の内容・程度」を事前に認識できるよう、十分な説明を行い、納得してもらうことが必須ということです。

 換言すれば、単に形式的な同意を得るだけでは、「合理的な理由が客観的に存在する」とは到底認められないということです。

 一方、「(1)」と「(2)」の指摘は、(女性労働者に対する)措置の重大性──つまりは、措置がもたらす不利な影響の度合いに関しても、検討を重ねる必要があることを示しています。これは、今後の労務管理を考える上で、1つの足掛かりになる指摘と言えるでしょう。

 例えば、(1)の指摘に沿えば、「職位」「給与等」に不利な影響を与える措置は極力避けるべきとの考えに至るでしょう。また、(2)の指摘は、「一定期間中、臨時的に副主任を2人とし、管理手当については等分する」といった措置の検討につながるはずです。

今こそ労務管理の再検討を

 社会全体が女性の社会進出を求め、かつ、後押しする中で、女性労働者の環境確保は今後ますます重要な経営課題になるはずです。今回の最高裁判決を契機に、女性労働者の労務管理について再度検討することをお勧めします。

関連記事

好評連載

年収1億円の流儀

一覧へ
富裕層専門のカリスマFP 江上治

[連載]年収1億円の流儀(第59回)

運を動かす力は自らの内にある。

[連載]年収1億円の流儀(第58回)

運はどうしたら好転できるか?

[連載] 年収1億円の流儀(第57回)

すべて自分を責めれば最適の解決策が浮かぶ

銀行交渉術の裏ワザ

一覧へ

金利固定化の方法を知る

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第20回)

銀行交渉術の裏ワザ

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第19回)

定期的に銀行と接触を持つ方法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第18回)

メーン銀行との付き合い方

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第17回)

金利引き上げの口実とその対処法

[連載] 銀行交渉術の裏ワザ(第16回)

融資は決算書と日常取引に大きく影響を受ける

元榮太一郎の企業法務教室

一覧へ

社内メールの管理方法

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第20回)

企業法務教室

[連載]元榮太一郎の企業法務教室(第19回)

タカタ事件に学ぶ 不祥事対応

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第18回)

「ブラック企業」という評価の考察

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第17回)

コミュニケーション・ツールを使った取締役会の適法性

[連載] 元榮太一郎の企業法務教室(第16回)

女性の出産と雇用の問題

本郷孔洋の税務・会計心得帳

一覧へ

税務は人生のごとく「結ばれたり、離れたり」

[連載] 税務・会計心得帳(最終回)

税務・会計心得帳

[連載] 税務・会計心得帳(第18回)

グループ法人税制の勘どころ

[連載] 税務・会計心得帳(第17回)

自己信託のススメ

[連載] 税務・会計心得帳(第16回)

所得税の節税ポイント

[連載] 税務・会計心得帳(第15回)

固定資産税の取り戻し方

子育てに学ぶ人材育成

一覧へ

意欲不足が気になる社員の指導法

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第20回)

子どもに学ぶ人材マネジメント

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第19回)

人を育てる「言葉」とは?

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第18回)

女性社員を上手に育成するコツ

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第17回)

部下の感情とどうつきあうか

[連載] 子どもに学ぶ人材マネジメント(第16回)

“将来有望”な社員の育て方

ビジネストレンド新着記事

注目企業

一覧へ

「日本初」にこだわる男のユニークな発想とビジネス――佐野秀光(情報通信ネットワークグループ社長)

「損して得を取る」事業モデル  不動産登記情報を扱う「登記簿図書館」をご存じだろうか。 かつては法務局でしか取得できなかった登記簿情報がオンラインで簡単に取得でき、かつ、法務局では対応できないさまざまなサービスを提供するというものだ。保有登記情報は全国2450万件、会員数9500社を誇る。 この登記簿図書館を…

支持政党なし

外国人を中心に需要が高まるソーシャルレジデンスで快走―オークハウス

独自のプラットフォーム戦略で、外食産業の新たなスタンダードを創造する――きちり社長 平川昌紀

新社長登場

一覧へ

「技術立脚の理念の下、付加価値の高い香料を開発します」――高砂香料工業社長 桝村聡

創業から95年、海外に進出してから50年以上たつ国際派企業の高砂香料工業。合成香料では日本最大手であり、国際的にも6%以上のシェアを持つ優良企業だ。 100年弱の歴史を持つ合成香料のトップメーカー ── まず御社の特徴をお聞かせください。 桝村 1920年創業ですから、2020年に100周年を迎える…

桝村 聡

「ネット広告が変わってもクライアント本位の姿勢は変わりません」--バリューコマース社長 香川仁

「最新情報を発信、人と企業の働く環境を良くしていきます」--マンパワーグループ社長 池田匡弥

イノベーターズ

一覧へ

老舗コニャックメゾンがブランド強化で日本市場を深耕――Remy Cointreau Japan代表取締役 宮﨑俊治

フランスの大手高級酒グループ、レミー・コアントロー社の日本法人。18世紀から愛飲されてきた名門コニャックの「レミーマルタン」や世界有数のリキュール「コアントロー」をはじめ、スピリッツやウイスキーなど戦略的なラインアップを日本市場で展開している。同社の宮﨑俊治代表取締役に事業展開について聞いた。 &nbs…

20150609_INNOV_P02

デザイナーズ家具のEC販売で業界の“常識打破”に挑戦――リグナ社長 小澤良介

内装空間の総合プロデュースで想いをカタチに創り上げる――ユニオンテック社長 大川祐介

大学の挑戦

一覧へ

専門分野に特化した“差別化戦略”で新設大学ながら知名度・ブランド力向上を実現――了徳寺大学・了徳寺健二理事長・学長

2000年設立で、了徳寺大学が母体のグループ法人。医療法人社団了徳寺会をグループ内に持つ。大学名の「了」は悟る、了解する、「徳」は精神の修養により、その身に得た優れた品性、人格を指す。「了徳寺」は人間としての品性、道を論す館の意味を込めた大学名だ。 聞き手=本誌/榎本正義 、写真/佐々木 伸 教育部門と…

大学の挑戦

創立100周年を控えて「世界に貢献し、インパクトを与える人」の育成に努めます――西南学院大学・K.J.シャフナー学長

「“STAND BY YOU”のスローガンの下、学生一人ひとりに寄り添う教育を」――中央学院大学・佐藤英明学長

企業eye

一覧へ

社員の人間力を武器に5期連続増収を果たす投資用不動産会社――パートナーズ

パートナーズは全国の中古投資用不動産の売買仲介を手掛けている。2011年の創業以来、5期連続増収を達成。吉村社長は業績好調の原動力を「社員の人間力を養い、顧客満足度の向上に取り組む姿勢にある」と語る。── 数ある投資用不動産会社の中、独自の強みについて。吉村 当社では、社員の人間力を徹底的に磨きな…

企業eye

クラウドソーシングを活用した動画制作やオンライン動画制作プラットフォームを提供――Crevo

海外ビジネスの第一線で活躍した2400人のエキスパートを擁し、日本企業の海外事業を支援。

経済界からのお知らせ

最新号のご案内

経済界8月号
[特集]
会社が変わる時

  • ・伊藤秀二(カルビー社長兼COO)
  • ・星野佳路(星野リゾート代表)
  • ・森山 透(三菱食品社長)
  • ・笠原健生(クアーズテック社長)
  • ・駒村純一(森下仁丹社長)
  • ・小渕宏二(クルーズ社長)
  • ・大山健太郎(アイリスオーヤマ社長)
  • ・秋本英樹(リンガーハット社長)

[Interview]

 糸井重里(ほぼ日社長)

 クリエーターの僕が経営者になった日

[NEWS REPORT]

◆誕生10年! iPhoneは世界をこう変えた

◆インディ500とル・マンにF1 モータースポーツの経済効果

◆Jリーグ放送権喪失後の展開 スカパー! はどうなるか

◆売り手市場の就職戦線に笑うものなし

[政知巡礼]

 下村博文(衆議院議員)

 「教育立国こそが、国家として目指す道」

ページ上部へ戻る