マネジメント

(もとえ・たいちろう)
1998年慶応義塾大学法学部法律学科卒業。01年弁護士登録(第二東京弁護士会)、アンダーソン・毛利法律事務所(現アンダーソン・毛利・友常法律事務所)勤務を経て、05年法律事務所オーセンスを開設。同年、法律相談ポータルサイト弁護士ドットコムを開設。代表取締役社長兼CEOを務める。

 

出産後の雇用条件をめぐり職場を訴えた女性の事例

 男女雇用機会均等法の改正から8年がたち、雇用機会や待遇面での男女平等は徐々に実現されつつあります。それでもマタニティー・ハラスメントなど、解決すべき問題は依然残されています。そこで今回は、最近話題となった最高裁判決を踏まえながら、「女性の出産と雇用をめぐる問題」について考察します。

 理学療法士のAさんは、B病院のリハビリ科に10年以上勤務し、副主任(管理職)の職位に就いていました。その後、第2子の妊娠を機に、当時の所属チームよりも身体的負担の軽い他チームへの異動を希望。B病院はAさんの希望を受け入れました。

 ところがAさんの異動の翌月、B病院はAさんに対し、「所属チームの変更に伴う副主任からの降格辞令を出し忘れていた」と通告してきたのです。Aさんは、渋々降格を了承したものの、「自分のミスで降格させられたと、周囲から誤解されたくない」との理由から、降格の日付を異動日にしてほしいと病院側に申し入れ、病院側もこれを受け入れたのです。

 Aさんは、異動後に産休・育休を取得。B病院がAさんから職場復帰に関する希望を聴取した際、Aさんは副主任への復帰を希望しました。

 しかし、B病院は「復帰後も副主任に再昇進させる予定はない」と告げました。これにAさんは強く抗議しましたが、B病院は抗議を退け、別の副主任の下で働くようAさんに命じました。

 Aさんはそれを不服として、病院を訴えたのです。

妊娠、出産、育休による降格への〝同意〟の正当性

 今回の事例は、今年10月23日に最高裁で判決が言い渡された事件の内容を簡略化したものです。病院側は、Aさんに対する降格措置について、「本人の意思を確認した上で同意を得ていた」と主張。広島高裁は、概ねその主張を認める判断を示しました。

 ところが、最高裁は、病院側の降格措置を、Aさんの真の同意に基づくものではなく、男女雇用機会均等法が禁ずる「不利益な扱い」に該当する不当なものと判断。広島高裁の判決を覆したのです。

 最高裁は判決の中で、「労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときなどの場合」には、男女雇用機会均等法の禁ずる「不利益な扱い」には該当しないとした上で、今回のケースについては、次の3つの事情から、「不利益な扱い」に該当するとの判断を示しました。

 (1)副主任という職位はAさんが勤続10年を経て就任した管理職であって、Aさんは降格によって、その職位を失うとともに管理職手当の支給を受けられなくなった。

 (2)Aさんは、育休を終えて職場復帰した後も、副主任に復帰することができずに副主任に昇進した他の職員の下で非管理職としての勤務を余儀なくされ続けており、一連の経緯にかんがみると、降格は一時的な措置ではない。

 (3)Aさんが育休明けの副主任への復帰の可否等について病院側から十分な説明を受けた形跡はなく、不十分な内容の説明を受けただけで、育休明けの副主任への復帰の可否等につき事前に認識を得る機会を得られないまま、降格措置の時点では降格を渋々ながら受け入れたにとどまる。

 これらの指摘の中で、企業の経営者が特に重視すべきは「(3)」です。この指摘が示しているのは、経営サイドが女性労働者に対して何らかの不利な影響を与える措置を取る場合には、当人が「具体的な措置内容」と「それによる影響の内容・程度」を事前に認識できるよう、十分な説明を行い、納得してもらうことが必須ということです。

 換言すれば、単に形式的な同意を得るだけでは、「合理的な理由が客観的に存在する」とは到底認められないということです。

 一方、「(1)」と「(2)」の指摘は、(女性労働者に対する)措置の重大性──つまりは、措置がもたらす不利な影響の度合いに関しても、検討を重ねる必要があることを示しています。これは、今後の労務管理を考える上で、1つの足掛かりになる指摘と言えるでしょう。

 例えば、(1)の指摘に沿えば、「職位」「給与等」に不利な影響を与える措置は極力避けるべきとの考えに至るでしょう。また、(2)の指摘は、「一定期間中、臨時的に副主任を2人とし、管理手当については等分する」といった措置の検討につながるはずです。

求められる女性の社会進出と女性労働者の雇用環境確保の重要性

 社会全体が女性の社会進出を求め、かつ、後押しする中で、女性労働者の環境確保は今後ますます重要な経営課題になるはずです。今回の最高裁判決を契機に、女性労働者の労務管理について再度検討することをお勧めします。

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